
国内外のスタートアップ企業などが集結したイベント「スシテック2025(SusHi Tech Tokyo 2025、Sustainable High City Tech Tokyoの略)」が5月8日~10日、東京・ビッグサイトで開かれ、AI(人工知能)や量子技術など都市の課題解決に役立つテーマを中心に、セッションや展示が行われた。
ブロックチェーンやWeb3も主要テーマのひとつとして取り上げられ、8日には「規制革新が切り開くWeb3の新時代」と題したセッションが実施。日本暗号資産取引業協会(JVCEA)会長の小田玄紀氏、元FTX法務顧問で2022年に設立された海外取引所「Backpack(バックパック)」の共同創業者、Can Sun(キャン・サン)氏が登壇し、世界の規制状況やビットコイン(BTC)の未来について意見を交わした。
CoinDesk JAPAN/N.Avenue 代表取締役社長の神本侑季がモデレーターを務め、セッションではBackpackを運営するTrek Labs(トレックラブス)が準備を進める日本での取引所開設についても話題が及んだ。セッション終了後、サン氏はCoinDesk JAPANの取材に、「2025年中にライセンスを取得し、サービス開始ができるように進めている」とコメントした。
規制が明確な日本は「最良の選択肢」
Trek Labsの日本法人Trek Labs Japanは2024年12月、JVCEAの第二種会員に登録された。この区分は、暗号資産(仮想通貨)交換業者または暗号資産関連デリバティブ取引業者の登録を申請中、もしくは申請を予定している事業者が対象となるため、同社の動向に注目が集まっていた。
Trek Labsは東京とドバイに拠点を置き、従業員は世界8カ国に分散するなどグローバルに事業を展開している。ただ、日本市場を重視する姿勢は明確で、2023年4月にはサン氏が代表取締役CEOを務める日本法人を新宿に設立。サン氏によれば自身も東京を拠点に活動し、共同創業者4人のうち3人が東京オフィスに常駐しているという。日本での暗号資産交換業ライセンス取得に向け、積極的に取り組んでいることがわかる。
セッションでは、サン氏が日本市場でのライセンス取得と取引所開設に向けた狙いを説明。日本には大きな可能性があるとし、規制が厳格であっても明確であれば問題ないとの考えを示した。
サン氏は弁護士の経歴を持つ立場から、「法律が厳格であればあるほど面白い」と述べたうえで、2年前の米国のように法適用が不透明で不安定な環境では、事業の継続性が損なわれると指摘。また、マウントゴックスのハッキング事件などを経て、日本が2017年に世界で初めて暗号資産取引所に関する包括的な規制枠組みを整備したことに触れると、ユーザー資産の保護や返還対応の迅速さなど制度の実効性を高く評価した。

また、自民党によるホワイトペーパーの発表など、政府全体としてWeb3や暗号資産業界に前向きな姿勢を見せている点も取引所開設に日本を選んだ大きな理由だという。「日本市場は最良の選択肢」と述べ、今後の成長性にも期待を寄せた。
なお、セッション中には具体的な時期には言及しなかったが、その後の取材に対し、2025年中のライセンス取得と日本でのサービス開始を目指していることを明かした。
税制・規制改革で日本を再び主要市場に
小田氏はセッションで今後10年間にわたる日本の暗号資産市場の展望について語り、税制や規制の見直しが、日本を再び世界の主要市場に押し上げる鍵になると強調した。
まず、個人投資家に対する税制の改善が喫緊の課題であるとし、現在は最大55%の総合課税が適用されている暗号資産の所得について、約20%の分離課税へ移行する議論が進行中であると説明。実現には、規制の適用を資金決済法から金融商品取引法へ変更する必要があるとし、投資家の行動を大きく変える「重要な転換点」になるとの認識を示した。
また現状では、暗号資産に関する規制が税法、金商法、資金決済法など複数の法律にまたがっており、より明確で一貫性のある制度設計が求められていると述べた。関係当局との対話を継続しているという。

小田氏は「2017年当時、日本は世界の暗号資産取引量の50%を占めていたが、現在は1%にまで低下している」と指摘。制度面の再構築を通して、日本を再び重要なマーケットに戻したいとの意欲を示した。
|文:橋本祐樹
|トップ画像:今年中の取引所開設を目指すと明かした「Backpack」の共同創業者、キャン・サン氏(右)
※トップ写真を更新しました。5月17日13時50分