モビリティ領域になぜNFTが必要なのか?― 活用戦略と社会実装の未来:第6回 ブロックチェーンEXPO【春】注目セッションレポート・その2

2025年4月15日〜17日に、「第6回 ブロックチェーンEXPO【春】」が東京ビッグサイト 東6〜7ホールで開催された。最新サービスを紹介すべく、多くのブロックチェーン関連企業が出展する中、来場者はスタッフの説明に熱心に耳を傾けていた。また、連日開催された注目の最新事例を紹介するカンファレンスセッションには多くの人が詰めかけ、会場は熱気に包まれていた。

15日に開催された3つのカンファレンスセッションの模様をレポートする。

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モビリティ領域になぜNFTが必要なのか? ― 活用戦略と社会実装の未来 ※当記事

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モビリティ領域で進むNFT活用、暗号資産不要の導入メリット

「モビリティ領域になぜNFTが必要なのか? ― 活用戦略と社会実装の未来」では、車のサブスクリプションサービスを展開するKINTOが、モビリティ分野におけるNFTの活用事例を紹介した。

KINTOは、車の所有とカーシェアの中間に位置するサービスである。保険、メンテナンス、車検費用などがすべて含まれた月額の定額制で、ユーザーはガソリン代と駐車場代のみを負担することで車を利用できる。今回の取り組みは、安全運転と認定された会員ドライバーに対して、KINTO独自のNFT証明書を発行し、その証明をブロックチェーン上に記録するというものだ。

「車のコネクティッド技術を活用して、運転データを収集している。そのデータをもとに、お客様の運転の癖などを見える化する『コネクティッドドライブトレーナー』というアプリサービスで安全運転診断し、診断ランクに応じたNFTを発行した」とKINTO 総合企画部 西淵泰斗氏は説明する。

〈実際に発行されたNFTデザイン〉
〈KINTO 総合企画部 西淵泰斗氏〉

この取り組みの基盤技術として採用されたのが、Connectivが提供する企業向けNFT作成管理プラットフォーム「NFT Garden」だ。APIを通じてNFT生成リクエストを受け取ると、NFT GardenがNFTを生成し、ブロックチェーンに記録したうえで、アプリケーション側に生成済みのNFTを返す仕組みだ。ユーザーはWeb3を意識することなくサービスを利用できる。また、ガス代はConnectivが負担するため、サービスを提供する企業は暗号資産を持つ必要がない。

「こうしたブロックチェーン事業を始める際によく問題になるのが、企業側に暗号資産を持てるようなルールが整備されていない点だ。そこを意識せずに、すぐに実証実験がスタートできるのが、我々のサービスの大きなメリットだ」とConnectiv代表取締役 石井裕希氏は語る。

〈Connectiv代表取締役 石井裕希氏〉

NFTの本質とは、価値と熱量の見える化

今回のプロジェクトでKINTOが掲げたテーマは、大きく二つある。一つは「ユーザーの努力を個人に帰属させる」ということ。

「これまで、データは企業が管理するものだった。しかし、安全運転の努力をしたのはユーザー自身だ。であれば、その成果としてのデータもユーザーに帰属すべきだという考えに基づいている」と 西淵氏。

そしてもう一つが、「他社との連携」だ。たとえばKINTOの契約終了後に車を所有に切り替えるなど、利用形態が変わったとしても、運転データを継続的に活用することができる。「さらに、省エネ活動など日常の行動も記録することで、モビリティの領域を超えていく可能性もある」と 西淵氏は想定する。

ただ、課題も見えてきた。それはNFTの利用率の低さである。今回の第1タームでは、529名のうちNFTを取得したのは42名にとどまり、取得率はわずか7.9%だった。

「アンケートでは、専門用語が理解できないなどといった回答もあった。第2タームではかなり改善できたものの、一般のユーザーにとってNFTは依然としてハードルが高い存在だと実感した」(西淵氏)

〈第2タームでは、NFTの取得率に改善が見られた〉

NFT、社会実装への課題とは

また、NFTを社会に実装していく上での課題について、西淵氏は次のように述べた。

「石井氏が指摘したとおり、企業の経理会計の問題は大きい。ここが整備されることで、より企業による活用が進むだろう。そして、企業のノウハウ不足も課題だ。我々も技術部隊を抱えているものの、ブロックチェーンに明るいメンバーは少ない。多くの企業がコンサルティング会社に外部委託しているのが現状だろう。NFT Gardenのようなサービスが広がっていけば、企業も参入しやすくなると思う」(西淵氏)

石井氏も、企業のNFT活用が期待ほど進んでいないことに言及する。

「NFTアートや、イベントでのNFT配布などにチャレンジした企業は多いが、その後の継続的な展開に至っていない印象だ。海外のブロックチェーン先進事例を参考に、より踏み込んだ施策にチャレンジしてほしい」と石井氏は語る。

こうした状況の中で、今後NFTはどのように広がっていくのだろうか。西淵氏は、NFTの利用そのものを目的化するのではなく、より本質を捉えた活用が重要だと指摘する。

「一つは、『人やものが持つ価値の見える化』だ。たとえば、安全運転の証明書によって、年式や修理履歴だけではわからない情報を補完することで、中古車市場のバリューチェーンの最大化につながるはずだ。また、『熱量の可視化』も重要だろう。いわゆるファンコミュニティを作ることで、売り手と買い手が同じテーブルにつくことができる」(西淵氏)

例えば、KINTOには「KINTO Factory」というメーカーオプションを車に後付けできるサービスがある。DAOやNFTを活用してファンコミュニティを形成すれば、カスタマイズのニーズを引き出し、新たなオプションの開発にもつなげられる可能性がある。

石井氏も、このアイデアに賛同する。

「NFTのようなオープンデータであれば、個人がどんなコミュニティに属していてどのような熱量を持っているのか、他社のサービスも含めて横断的に把握することができる。それに基づいて次のサービスを展開するなど、新たな世界観が生まれてくるだろう」と石井氏は語り、セッションを終えた。

他の2つのセッションはこちらから。

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|文・写真:橋本史郎
|編集:CoinDesk JAPAN広告制作チーム