
2025年4月15日〜17日に、「第6回 ブロックチェーンEXPO【春】」が東京ビッグサイト 東6〜7ホールで開催された。最新サービスを紹介すべく、多くのブロックチェーン関連企業が出展する中、来場者はスタッフの説明に熱心に耳を傾けていた。また、連日開催された注目の最新事例を紹介するカンファレンスセッションには多くの人が詰めかけ、会場は熱気に包まれていた。
15日に開催された3つのカンファレンスセッションの模様をレポートする。
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ステーブルコインのこれから及びステーブルコイン発行・管理システム「G.U. Coin Studio」のご紹介 ※当記事
日本発のブロックチェーンがステーブルコインの社会実装を目指す
「ステーブルコインのこれから及びステーブルコイン発行・管理システム「G.U. Coin Studio」のご紹介」では、日本発のブロックチェーンによるステーブルコインの取り組みが紹介された。
G.U.Groupは、金融機関向けのステーブルコイン発行・管理プラットフォーム「G.U. Coin Studio」を提供している。本セッションでは、このシステムを活用し、ステーブルコイン事業への参入を目指すあおぞら銀行との連携事例が紹介された。
この基盤として採用されているブロックチェーンが、イーサリアム互換のレイヤー1チェーンである「Japan Open Chain(ジャパン オープン チェーン)」だ。イーサリアムが抱えるスピードの遅さや、ユーザビリティの課題を克服するため、高速で安全かつ安価なチェーンとして、日本発で開発されたものだ。チェーンの運営には、信頼性の高い日本企業がバリデータ(運営パートナー)として複数参画している。
「日本の安心安全なチェーンを、世界中の人々に利用してもらいたいという思いがある」とG.U.Group 代表取締役社長 近藤秀和氏は語る。

Japan Open Chainは、誰でも使えるオープンチェーンでありながら、運営はコンソーシアム型であるのが大きな特徴だ。これにより、高速かつ安全なトランザクション処理を実現しているという。また、暗号資産として機能する「JOCコイン」も発行済みで、2024年12月には、世界6カ所の取引所に同時上場し、12億円超の資金調達に成功した。
Japan Open Chainの目的の一つは、ステーブルコインの社会実装を推進することにある。2032年には、ブロックチェーン市場が362兆円規模に達するとの予測もあり、その約40%が金融決済領域での活用になると見られている。この分野でのイノベーションを牽引する存在として、ステーブルコインの役割は極めて大きい。
こうした未来を見据えて、G.U.Groupが開発したのが、ステーブルコインの発行・管理プラットフォーム「G.U. Coin Studio」だ。このシステムによって、金融機関がステーブルコインを安全かつ効率的に取り扱えるようになる。
「現在の金融システムでは、『全銀ネット』や『クレジットカード』、『SWIFT(国際銀行間通信協会)』などの決済網を通じて、送金が行われている。しかし、これらすべてがステーブルコインに置き換わる未来を我々は想定している」(近藤氏)

実証実験でステーブルコインを発行、あおぞら銀行は「信託受益権型」を目指す
2024年12月、G.U.Groupはあおぞら銀行と共同で、「特定信託受益権型ステーブルコイン」の発行の実証実験を実施した。発行から支払い、回収に至るまでの一連の流れを確認することができたという。
「当局の認可を含め、実際にユーザーが利用するためにはどのような課題があるのか、両社で振り返りながら検証している段階だ」G.U.Group 代表取締役 稲葉大明氏は説明する。

実際にトランザクションを発生させ、送金が一瞬で完了する様子を確認した場面では、行員から驚きの声も上がったという。
「Japan Open Chainのエクスプローラーで、今回発行したステーブルコイン『aJPY(仮称)』を検索すると、実際の取引の流れが確認できる。これは非常に大きな一歩だったと感じている」と話すのは、あおぞら銀行 ベンチャー営業部 ソリューショングループ長 財徳悦生氏だ。
ステーブルコインの発行の方法としては、「預金型」「信託受益型」「無託債務型」の3種類がある。あおぞら銀行が発行を目指しているのは「信託受益権型」だ。
「流通範囲の自由度が高いのが大きな理由だ。金額に制限がなく、法人決済にも対応できる。さらに、国内だけでなく国際送金も可能な点も大きい。ブロックチェーン上では、すべての資金の流れが可視化できるため犯罪者の利用を凍結することも可能だ。現金よりも安全性の高い決済手段になると考えている」(財徳氏)

一方で、ブロックチェーンでは資金移動の履歴が完全に可視化されることに対して、プライバシーの観点から懸念を示す声もある。
「日本でブログが登場した20年ほど前には、日本人は日記を公開しないと言われていたが、いまや当たり前に使われている。透明性があり、匿名性もあるという新しい世界観が生まれてくるのだと思う」と近藤氏は語る。
経済安全保障にも関わる、日本独自ブロックチェーンの存在意義
あおぞら銀行がステーブルコイン事業への参入を決めた背景について、財徳氏は次のように語る。
「現在、さまざまなモノやサービスがデジタル化される中で、金融機関としても決済の分野に積極的に関わっていくべきだと考えたのが、最も大きな理由だ。RWA(リアルワールドアセット)やセキュリティトークンなど、実態のある資産や債権といった『買えるもの』のデジタル化が進む一方で、次の段階として、『買う手段(支払い)』がデジタル化する世界がくるだろうという理解だ」(財徳氏)
また、あおぞら銀行は、信託銀行のライセンスを持っているため、ステーブルコイン領域でも、信託を受託する機能を提供することが新たなビジネスになると見ている。
「自社でステーブルコインを発行したいという企業からご相談をいただければ、信託を活用してどのような設計が可能か、具体的な議論ができるだろう」と財徳氏は語る。
あおぞら銀行が、Japan Open Chainを選んだ理由について「パブリックかつコンソーシアム型だった点がユニークだったからだ」と財徳氏は説明する。
「決済手段だけ先にあっても、使えるところがなければ意味がない。パブリック型であれば、いろんなプレイヤーが参加できるため、ステーブルコインの活用の場が広がっていく可能性にも期待している」(財徳氏)
さらに近藤氏が指摘するのは、日本独自のブロックチェーンの存在意義だ。
「経済安全保障を考えることも重要だ。実際には、外国産のブロックチェーンでも円建てのステーブルコインは発行できるが、それを使いたいと思うだろうか。犯罪者の利用を止める際に、どの国がその措置を実行するのかは大きな論点となる。日本は世界の中でも中立な立場にある。だからこそ、金融分野においても使いやすいチェーンとして有力な選択肢となりうるだろう」(近藤氏)
最後に、会場から財徳氏に「いつステーブルコインは発行されるのか」という質問が寄せられた。
「明言はできないが、できるだけ早く実現したい。ユースケースが広がらなければ先に進まない世界だ。積極的に取り組んでいきたい」と財徳氏は語り、セッションを締めた。
他の2つのセッションはこちらから。
|文・写真:橋本史郎
|編集:CoinDesk JAPAN広告制作チーム