今なら1440億円相当のビットコインをピザに使った男の言い分
  • 2010年にラズロ・ハニエツ(Laszlo Hanyecz)氏がビットコインでピザを買った有名な逸話があるが、当時購入に用いたビットコインは現在だと10億ドル(約1440億円、1ドル=144円換算)以上の価値に相当する。
  • ハニエツ氏はビットコインの初期における技術開発の先駆者であり、最初のmacOSクライアントを開発し、GPUを用いたマイニング方法を見つけた人物だ。
  • 他の用途にも10万ビットコイン近くを費やしており、その価値は現在では86億ドル(約1.2兆円)以上に相当する。

ビットコインで「この世で最初に行われた買い物」の歴史的瞬間は、ビットコイン界隈のSNSで称賛され、評論家たちはといえば、ビットコインでピザを買ったこの有名な話を見出し付きでインターネットの記憶に刻み込んだ。当時支払われたビットコインの価値は現在だと、10億ドル(約1440億円)以上に相当する。

しかし、ハニエツ氏がこの歴史的な買い物の後にも、その10倍近くのビットコインを使っていたと聞いたら、そして、おそらくそれはハニエツ氏が、ビットコインがまだ海のものとも山のものともつかない黎明期に、比較にならないほどの重要な貢献をしたことに対する償いのポーズとして行われたのかもしれないとしたら、読者諸賢はどう思うだろうか。

ビットコイン技術の先駆者

ピザの逸話ばかりが目立つが、ハニエツ氏は初期のビットコインにおける技術開発で2つの大きな貢献を行った人物だ。

一つ目の貢献は2010年4月19日、ハニエツ氏がビットコイントーク(Bitcointalk)に登録したわずか数日後のことだった。Bitcointalkとはサトシ・ナカモト(Satoshi Nakamoto)氏が立ち上げたオンラインのフォーラムで、当時の(そして今もなお)ビットコインの技術系知識人たちのたまり場だ。ハニエツ氏は、ビットコイン・コア(Bitcoin Core)の最初のmacOSクライアントを開発した。これは、ビットコインネットワークを支えるノードのソフトウェア実装として原型かつ現在も主流なものである。

サトシは当初、WindowsとLinux向けにビットコインのコードを記述していたが、ハニエツ氏によってmacOSデバイスでもこのソフトウェアを実行できるようになった。この貢献は、その後登場するすべてのmacOS対応ビットコインウォレットとアプリケーションの基礎となったのである。

しかし、おそらくそれ以上に重要な貢献は、ハニエツ氏が自分のコンピューターのグラフィックカード(GPU)を使ってビットコインをマイニングできるのを発見した点だ。それまで、初期においてはビットコインのマイニングにCPUが使用されていたが、GPUはCPUよりも桁違いに高性能であるため、このイノベーションはサトシの予想をはるかに上回るスピードでビットコインマイニングを加速させることとなった。

「Mac OS Xバイナリを更新した。これは、GPUを使用してビットコインを生成する。NVIDIA 8800などの高性能GPUを持っていれば、非常にうまく機能する」と同氏は2010年5月10日のBitcointalkへの投稿で述べている。

この発見は、ビットコインの歴史上で最初のデジタルゴールドラッシュの火付け役となった。ビットコインの総ハッシュレートは年末までに13万%も急上昇し、ビットコインマイナーたちは初めて小規模なマイニングファームの構築を始めた。地下室や屋根裏、ガレージなどで急ごしらえされたこれらの設備は、今日のビットコインネットワークを支配する程の規模のビットコインマイニングファームの原型となった。

ピザは罪滅ぼし

同氏による発明の影響は非常に大きく、サトシ・ナカモト本人がバーチャルで見に来るほどだった。そして、その後の会話が同氏による有名なピザ購入のきっかけとなった可能性もある。

「新規ユーザーにとって大きな魅力は、コンピューターさえあれば誰でも無料でコインを生成できることだ」とサトシは同氏に向けて書き残している。「GPUを導入すれば、そのインセンティブはハイエンドGPUハードウェアを持つ者だけに限定されてしまう。GPUコンピューティングのクラスターが最終的に生成されたコインを独占するのは避けられないが、私はその日が来るのを早めたくはない。」

2019年のBitcoin Magazineのインタビューで、同氏は「それ以来、GPUマイニングについての宣伝をやめた」と語っている。

「私は『ああ、君のプロジェクトを台無しにしてしまった気がする。申し訳ない』と述べた。CPUでブロックをマイニングできないことで、やる気をなくしてしまう人がいるのではないかと心配していた」と同氏は語る。

おそらくこの会話によって、15年前の5月の運命の日、ハニエツ氏はパパ・ジョンズのラージピザ2枚に対して1万ビットコインを支払うに及んだのだろう。実際、同氏はこの申し出を複数回行った。2019年のインタビューでは、ハニエツ氏はその後1年間で約10万ビットコインを費やしたと語っている。

「私はずっと前に(ビットコインを)ピザに全部使ってしまった」と、ハニエツ氏は2014年2月のBitcointalkへの投稿で述べている。「ほんの少しの1桁台の小銭を除いて、マイニングした分はすべて使ってしまった。皆さんご存知の通り、ハッシュパワーに合わせて難易度が上がるので、結局マイニングは私にとって割に合わなくなったのだ。」

ハニエツ氏による最初のBitcointalkへの投稿におけるビットコインアドレスを見ると、ハニエツ氏は2010年4月から11月にかけて、このアドレスから81432ビットコインを受け取って使用していた。その額は、現在の価値で86億ドル(約1.2兆円)強に相当する。

「夕食が買えた」

ハニエツ氏がこれらをピザやその他の商品に使ったのか、それともビットコイントークの新規会員にビットコインをただ配っただけなのかは確認できない。ビットコインがほぼ無価値だった当時、これはよく行われることではあった。同氏はピザ購入に関する最初のスレッドで「オープンなオファー」だと述べているが、8月に「もう1日に何千枚もコインを稼げないので、これ以上続ける余裕はない。ピザを買ってくれた皆さん、ありがとう」と述べ、この発言を撤回した。

最初の購入はもちろんのこと、その後も繰り返し行われたと思われる購入は、ビットコインが10万ドルを超える中で、正気の人間なら夜も眠れないほどのものであったろう。しかし、少なくとも2019年に関しては、ハニエツ氏はこの試練をユーモアを交えて乗り越えた。同氏なりに解釈すれば、料理の錬金術に挑み、電力とコンピューターのパワーを安価な夕食に変えたのだ。ビットコインが今日のように高騰するとは夢にも思っていなかったため、同氏にとってこの取引は勝ちだった。

「取引は、双方が良い取引だと思ったからこそ成立する」と語る。「インターネットを制覇したような気分だった。無料の食事が手に入ったんだ。『GPUをつなげて、マイニング速度が2倍になる。食事が無料で済むのだから、もう二度と食べ物を買う必要はない』と思った。」

「つまり、このマシンをコーディングしてビットコインをマイニングしただけで、その日はインターネットを制覇したような気分だった。オープンソースプロジェクトに貢献したお礼にピザまでもらえたのだ。趣味というのは大抵、時間とお金の無駄遣いだが、今回の場合は、趣味のおかげで夕食が買えた」

|翻訳・編集:T.Minamoto
|画像:Shutterstock
|原文:What You Didn’t Know About Laszlo Hanyecz, the Bitcoin Pizza Day Legend