
金融庁と日本経済新聞社が3月に主催した「FIN/SUM」のスピンオフ企画「フィンテックの進化」が5月22日、大阪・関西万博会場で開催され、オンラインでも配信された。
「フィンテックがつくる未来を語る」と題したセッションには、Fintech協会代表理事会長でナッジ代表取締役の沖田貴史氏、池田泉州HD傘下のデジタルバンク「01銀行(ゼロワンバンク」代表取締役社長の伊東眞幸氏、西日本旅客鉄道WESTER-X事業部次長兼決済サービス担当部長の内田修二氏のほか、暗号資産(仮想通貨)取引所のbitFlyer(ビットフライヤー)執行役員事業戦略本部長の金光碧氏が登壇。
金融庁総合政策局の五十嵐ほづえ氏がモデレーターを務め、国内の普及が遅れているキャッシュレス決済などの課題が議論されたが、そのなかでブロックチェーンや暗号資産をはじめとするWeb3技術が果たす役割についても意見が交わされた。
フィンテック普及を阻む「体験機会の欠如」
議論は「日本のフィンテックは世界に通用するか」をテーマに始まった。
ナッジの沖田氏は、韓国や中国に比べて日本はキャッシュレス決済の普及が遅れ、関連サービスの発展も限定的であると指摘。その背景には「機会損失」という構造的な課題があると述べた。

「機会損失は気づきにくいもの」と述べ、スマートフォンの登場を例に説明。かつてはガラケーで「困らない」と考えていた人も、一度スマホの利便性を体験すれば後戻りできないのと同様、キャッシュレスの普及も体験機会を提供することが重要だと指摘した。
そのうえで、日本が世界に誇るIP(知的財産)や「推し活文化」には大きな潜在力があると説明。同社ではユーザー視点に立った生活に溶け込む新しい金融体験の提供を目指しており、NFTなどWeb3技術との連携にも力を入れていると述べた。
RWAとステーブルコイン、暗号資産の新たな展開
ビットフライヤーの金光氏は、日本の暗号資産保有率は依然として低いとした一方で、暗号資産が単なる投資対象に留まらず、その基盤技術であるブロックチェーンが国内外で金融インフラとして活用され始めていると強調。特に注目されるユースケースとして、リアルワールドアセット(RWA)とステーブルコイン(SC)の2つを挙げた。

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RWAは不動産や債券などの現実資産の権利をトークン化する取り組みであり、仲介者を介さずに取引を行うことで、透明性の向上や即時決済の実現といった利点があるとされている。金光氏は、世界的な資産運用会社であるブラックロックが利息支払いをブロックチェーン上で行うトークン化ファンドを立ち上げた事例を挙げ「まさにフィンテックの進化と言える」と指摘。伝統金融のプレーヤーによる本格的な参入が始まっていると述べた。
SCについては、即時送金の利便性や透明性の高さから法定通貨に裏打ちされた形で国際的には普及が進んでいると説明。ただ、国内ではSuicaなどの電子マネーがすでに高い利便性を持つため、日常決済での浸透は限定的にとどまっている。
DAOによる地域社会への貢献
セッションでは、フィンテックを地域社会にどう活用できるかついても議論された。
金光氏は、日本では暗号資産が「独自の進化」を遂げていると分析し、ブロックチェーンを活用したDAO(分散型自律組織)が地域社会の課題解決に有効なツールとなりつつあると話した。

自身も関与しているという新潟県山古志村のDAOでは、伝統文化である「牛の角突き」の継承を支援している。従来は現地に移住しなければ関われなかった地域活動にも、DAOを通じて都市部から参画できる仕組みが広がりつつあり、全国的にこの動きが加速していると述べた。
また、DAOの普及に伴い「契約主体になりたい」「法人形態を持ちたい」というニーズが高まり、日本政府が対応を進めた結果、2024年4月の法改正により法人格を持った合同会社型DAOの設立が可能となり、制限付きではあるもののトークンの発行も認められるようになったと紹介。その結果、古民家再生やワイン醸造などDAOを活用した資金調達の事例も出始めている。
Web3は「金融の民主化」の突破口となるか
沖田氏は地域社会でのフィンテック活用例として、街おこしの一環として制作されたアニメと連動したNFTの事例を紹介。現地を訪れ、聖地巡礼するとNFTを取得できる仕組みを構築している。沖田氏によれば、ユーザーの多くがNFTと気づかずに利用しているというが、将来的には別の用途で活用できる可能性があると述べた。

また、ナッジが岐阜商業高校の生徒と連携して取り組む「GIFUSHOカード」の事例も紹介。現実の金融サービスに高校生が関与する仕組みで、今後はDAOでの運営も視野に入れているという。沖田氏は、DAOを活用すれば商店街への融資なども可能となり、ブロックチェーンによって透明性の高い資金管理が実現できると説明。こうした事例から、地域活性とWeb3の融合によって金融の民主化や透明性の向上が進む可能性があると述べた。
セッションでは日本でフィンテックが進まない課題として、日常に根差した体験の不足が指摘されていた。こうしたなか、DAOやNFTがもたらす新しい参加形態や価値観は、人々の金融との接点を再構築する可能性を秘めている。Web3が国内のフィンテック普及を後押しする存在になるか、今後の展開が注目される。
|文:橋本祐樹
|トップ画像:「フィンテックがつくる未来を語る」をテーマにした第三部のセッション(左から五十嵐氏、沖田氏、伊東氏、内田氏、金光氏)