ビットコインに走る上場企業──株価対策か金利ヘッジか、購入ラッシュの真意に迫る【楽天ウォレット松田氏インタビュー】

企業によるビットコイン(BTC)購入が国内外で相次いでいる。米国では、ソフトウェア事業を展開するマイクロストラテジー(当時、現ストラテジー)が先駆けとなり、2020年から取得を始めた。日本では、2024年にホテル事業などを手がけるメタプラネットが追随し、5月12日には約1200BTCの追加購入を発表。世界で初めてBTCを法定通貨としたエルサルバドルの保有量を上回り、注目を集めている。同社は2024年4月に購入方針を公表。以来、株価が一時30倍以上に急騰するなど株式市場にも波及的な影響を与えている。

BTCは折しも、「ビットコインピザデー」として知られる5月22日に過去最高値を更新。一時11万ドル(約1575万円、1ドル143円換算)を突破し、再び上昇基調を示した。国内でも、湘南美容クリニックを運営するSBCメディカルグループHDといった暗号資産と直接関係のない企業による購入も相次いでいる。

企業はなぜBTCを買うのか。CoinDesk JAPANは5月19日、楽天ウォレットシニアアナリストの松田康生氏に企業の狙いや戦略の持続可能性について話を聞いた。

余剰金運用、株価、トランプ対策

松田氏はまず、企業によるBTC購入の先駆者となったマイクロストラテジーについて解説。2020年当時、新型コロナウイルスのパンデミックを受けて米連邦準備制度理事会(FRB)は米国債や住宅ローン担保証券(MBS)を無制限に買い入れる量的緩和(QE)を実施。市場への資金流入によりドルのインフレ懸念が広がり、企業は資産防衛の手段として金、株、不動産に加え、BTCの活用を検討し始めたという。

そのうえで、現在ではBTCを購入する企業は大きく3つのタイプに分類できると述べた。

1つ目は、手元に多額の現預金を持つ「キャッシュリッチな企業による購入」。低金利下での資産価値の目減りを防ぎつつ、将来的なリターンを狙ってBTCを保有するケースだという。

2つ目は「株価対策としての購入」。BTC保有を公表することで市場の注目を集め、株価押し上げを狙う思惑が見え隠れする。実際、マイクロストラテジーやメタプラネットの事例では、BTC保有が企業の革新性や成長性を象徴する材料として機能し、株価の上昇を後押ししている。

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3つ目は「トランプ政権を見据えての購入」。松田氏は、トランプ氏の政策は予測困難であるものの、暗号資産に対して友好的な環境が再構築される可能性に備える動きだと位置づける。これは単なる投機ではなく、不確実性へのヘッジや新しいビジネス機会を見据えた戦略的保有であり、この動きが今後最も加速すると見ていると話した。

〈打ち出す政策の予想が難しいトランプ大統領:Shutterstock〉

金や不動産と並ぶヘッジ手段

非金融・非IT業種の企業も市場に参入し始めている現状について松田氏は、BTCが不動産や金(ゴールド)と同様に、インフレや市場変動へのヘッジ手段として捉えられるようになってきている証だと指摘。「今後の相場の大きな下支え要因になる」と指摘した。

松田氏によれば、世界中の企業が保有する現預金は推定10兆ドル(約1428兆円、1ドル143円換算)前後だとされており、仮にその0.1%にあたる100億ドル(約1兆4000億円)がBTCに流入しただけでも、相場に与えるインパクトは極めて大きいという。

また、企業にはBTC保有を公表する義務がないことから、実際には開示されていない保有事例も多く存在する可能性があると指摘。株価への好影響を狙ってニュース性を活用する企業がある一方で、あえて公表しない企業も相当数にのぼると見られる。

加えて、米国政府がBTCを資産として保有し、州政府も同様の動きを見せるなか、企業がBTCを保有することへの心理的なハードルが大きく下がっていることも見逃せない。松田氏は、企業による保有はもはや奇抜な行動ではなく、「市場のトレンドに乗り遅れないための合理的な選択肢」と認識されつつあると話した。

借金でBTC購入、レバレッジ戦略のリスクとは

このように、企業によるBTC購入が世界的な広がりを見せる一方で、マイクロストラテジーやメタプラネットのように社債を発行して資金を調達し、BTCを取得するビジネスモデルには一定のリスクを指摘する声も多い。

株価急騰への期待から個人投資家の関心も高まり、ETF(上場投資信託)の代替やNISA(少額投資非課税制度)枠を利用したこうした企業株への投資も見られるが、社債を通じたレバレッジ型のBTC取得には財務構造に起因するリスクがあり、慎重な見極めが求められる。

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松田氏は、企業の株価がBTCの価格と連動しているように見えても、実際には企業の「クレジットリスク」が伴う点を見落としてはならないと強調。特に社債の場合、BTCが下落すれば債券保有者は損失を被るが、上昇益は享受できないというリスクリワードの非対称性が存在すると述べた。また、ボラティリティの高いBTCは安定的なキャッシュフローを生まないため、返済原資を確保できなければ、企業は債務不履行(デフォルト)に陥る可能性もある。

クレジットリスクとは、企業の財務悪化により、債券保有者が元本や利息を回収できなくなるリスクを指す。松田氏は、1990年代のバブル崩壊後に金融機関で債務処理に関わった経験から、借金して株やBTCを買うというモデルには「構造的な危うさがある」と警鐘を鳴らした。

BTC価格、年内22.5万ドルと予想

注目が集まるBTC価格については、年内に22.5万ドルに達すると予想。過去のサイクルでは半減期から1年〜1年半後にピークを迎える傾向があり、今回もそのパターンに沿って推移すると見ており、今年の10月ごろに22.5万ドルに達する可能性があると述べた。

〈松田氏は、年内に22.5万ドルに達するとBTC価格を予想〉

過去にはピーク後に価格が5分の1まで下落した例もあるが、現在は機関投資家の参入で流動性が高まり、下落幅は3分の1から半値程度にとどまる可能性があると述べた。また、次回半減期の2028年以降は、これまでの半減期サイクルの影響が徐々に小さくなるとの見方を示し、供給量の減少効果が市場規模の拡大に伴い小さくなると予想。ただ、投資家心理としては過去の半減期サイクルを覚えているため、次の半減期に向けて価格が上昇する傾向は続く可能性があると見ているという。

一般層への浸透とETF提供が鍵

短期的に下落することはあっても、長期的にはBTC価格は上昇トレンドを維持すると松田氏は見ている。従来は富裕層や一部の先行者が購入の中心だったが、今後は一般層への浸透が市場拡大の鍵となると話した。

特に、世界最大の資産運用会社であるブラックロックのラリー・フィンクCEOがビットコインを「デジタルゴールド」と評価し、ETFを提供したことは保守的な高齢者層を含む新規層の参入を促す転換点となったと指摘。国内でも、大手証券会社などがETFを扱うようになればBTCがより身近な投資対象となるだろうと述べた。

〈日本でも、ビットコインETFの承認に注目が集まる:Shutterstock〉

BTC市場は、期待の先行からオーバーシュート(過熱的な価格上昇)が起こりやすい性質を持つが、松田氏は「価格が一時的に過熱しても、必ず調整局面が訪れる」と述べ、下落局面で「押し目買い」が入り、再び価格が上昇するというサイクルが続くと見ている。

こうした背景のもと、将来的な価値上昇が見込まれるBTCをバランスシートに組み入れる企業の動きは、今後も加速していく可能性が高い。インフレや金利上昇といったマクロ環境下で、資産防衛や株価向上の手段としてBTCを活用する企業はさらに増えることが予想される。

とはいえ、企業による投資にはレバレッジ戦略や短期的な価格変動に対するリスク管理が不可欠だ。特にマイクロストラテジーやメタプラネットのように、借り入れを活用してビットコインを取得する企業の株価は、BTC価格と連動して激しく変動する傾向がある。

個人投資家がそうした企業に投資する場合も、事業戦略のリスクや企業財務の健全性を慎重に見極める必要があるだろう。過熱と調整を繰り返すBTC市場では「長期的な視野を持ちつつ、自身のリスク許容度に応じた冷静な判断が不可欠」と松田氏は述べた。

|文:橋本祐樹
|トップ画像:「企業によるビットコイン購入は今後も加速する」と話した楽天ウォレットの松田氏(撮影:増田隆幸)