【独自】万博パビリオン「宴」でアメちゃんNFT始動!外食インターンシップとWeb3が拓く「きずな」の未来

開催中の2025年大阪・関西万博が、外食産業におけるNFT(非代替性トークン)活用の新たな転換点となる可能性を秘めている。

電通グループと大阪外食産業協会(ORA)は、AR(拡張現実)とNFTを融合した新技術「ARNFT」を用い、外食産業における「信頼の可視化」と人材ネットワーク構築を目指す新たな実証実験を開始することを発表した。

その後、CoinDesk JAPANの独自取材により、その具体的な舞台が万博ORA外食パビリオン「宴~UTAGE~」であり、今月6月末より開始されるインターンシッププログラムを皮切りに、「アメちゃんNFT」の本格的な活用が始まることが明らかになった。

この「アメちゃんNFT」は、単なるデジタルアイテムに留まらず、人材育成、顧客エンゲージメント、そして業界全体の未来をどう変えようとしているのか。関係者への独占取材と現地トークセッションから、その核心に迫る。

万博とアメちゃんNFT:大阪から発信する「きずな」のテクノロジー

大阪・関西万博の会場内で、ORA外食パビリオン「宴~UTAGE~」が、新たな試みに着手する。

その鍵を握るのが、「アメちゃんNFT」と名付けられた独自のNFT活用プロジェクトだ。

このプロジェクトは、序文で触れた電通グループのR&D組織「電通イノベーションイニシアティブ(DII)」とORAが主導し、パナソニックやコントラクトウォレット「unWallet」を提供するシビラといった企業が共同研究先として名を連ねる、外食産業の未来を見据えた実証実験の一環である。

CoinDesk JAPANの取材によれば、この「アメちゃんNFT」の本格的な活用は、この6月末から同パビリオンで開始されるインターンシッププログラムが起点となる。

このプログラムでは、外国人留学生を中心に、参加者の活動記録やメンターとの交流、そして成果がNFTによって可視化される。

具体的には、物理的なアメにNFCタグが埋め込まれ、スマートフォンでスキャンすることでNFTを取得する。

このNFTは、インターンシップでの活動や成果に応じて、初期の「固形のアメ」から、交流が進むごとに「溶けたアメ」の形状へ、さらには「LEVEL-2 CARD」といった形へと進化するプロセスを持つという。最終形は「トロフィー」だ。

[記者も現場で体験。スマホを『アメちゃん』にかざすだけでNFTをゲット]

これは、温かみのある人間関係の進展や師弟関係を情緒的に表現するもので、UI/UXにも配慮し、スマートフォン標準のウォレット機能への対応など、ユーザーフレンドリーな設計がなされている。

特に注目されるのは、閉幕前、10月上旬に計画されているインターンシップの成果発表会だ。

この発表会には、万博内の各国パビリオン関係者も招かれる構想があり、実現すれば日本の外食産業の先進的な取り組みを世界に発信する絶好の機会となるだろう。

高度外国人人材の就職支援を行うTranscend-Learningの吉田圭輔代表は、このようなNFTを活用した「小さな成功体験」の可視化が、特に外国人留学生の自信醸成やキャリア形成において重要な役割を果たすという。

さらに、この「アメちゃんNFT」はインターンシップ参加者に留まらず、将来的にはパビリオンの来場者や関係者にも認知を広め、外食産業への関心を高めるとともに、NFTという新しい技術に触れるきっかけを提供することも検討しているという。

これは、NFTが単なる所有証明に留まらず、「体験」「成長」「貢献」「信頼」といった、お金では測れない無形の価値──「非地位財」(後述)という概念にも繋がる──をブロックチェーン上に永続的に記録できる技術であるという認識に基づくものである。

開発秘話:「アメちゃんNFT」はこうして生まれた

このユニークな「アメちゃんNFT」のアイデアは、どのような経緯で生まれたのだろうか。

開発を担当したAR開発者の川田十夢氏と、プロジェクトを推進する電通グループの鈴木淳一氏への取材から、その背景を探った。

川田氏は以前からAR技術などを活用し、「新しい技術をどう社会に落とし込むか」というテーマで様々な実験を手掛けてきたという。

「鈴木さんとは以前から、例えば電灯をつけたり消したりできるような、社会実装型のNFTを作ったり、様々な実験を一緒に行ってきた」と川田氏は語る。

NFTやブロックチェーン技術に対する一般層の心理的ハードルは依然として存在する。

「仮想通貨やウォレットといったものは、まだ一般の多くの人が持っていない。特に飲食店に来るお客さんで(Web3型の)ウォレットを持っているのは数%もいかないでしょう。この敷居の高さをどうにかしたかった」と川田氏は開発当初の課題意識を振り返る。

その解決策として、「僕、大阪に来たらアメちゃんをめっちゃもらう。昨日もタクシーの運転手さんにもらった。 大阪の、あの親しみやすさ。そのアメちゃんという媒体に、浸透しにくいNFTというものを入れ込めば、もっと身近に感じてもらえるのではないか」という発想に至ったという。

[開発した『アメちゃんNFT』を登壇者に説明する川田氏(右から2人目)]

今回のプロジェクトも、最初から明確な形があったわけではない。

「外食産業のパビリオンを視察したり、鳥貴族創業者の大倉社長やORA副会長の井上さんなど、外食産業の従事者の方々の現状を伺いながら、Web3的な文脈が現場にまだあまり落ちてきていない中で、どうすれば密接な関係性を残せるかを模索した」という。

大阪万博という大きなきっかけ、そして大阪ならではの食文化や「アメちゃん」というコミュニケーションツールが、アイデアを結晶させる触媒となった。

技術的には、DIIが川田氏らと技術開発を進めてきた「ARNFT」および個人の特性に応じてアイデンティティ表現を自己主権のもとで管理可能とする「Crypt Cubism」といった技術方式が適用されている。

NFCの選定やNFTの進化ロジック、そして最大の課題であったウォレットの利便性追求に注力した。

川田氏は、「一般の人がウォレットを持つハードルは高い。だからこそ、既存のスマホ機能でアクセスできる『アンウォレット(unWallet)』のような仕組みが重要になる」と指摘する。

「アメちゃんNFT」は、ガス代(手数料)の低さや処理速度の速さから、実用的なNFTプロジェクトで広く採用されているポリゴン(Polygon)チェーンを基盤としている。これにより、ユーザーはよりスムーズかつ低コストでNFTの取得や管理が可能となる。

ブロックチェーン推進協会(BCCC)の理事も務める鈴木氏は、このプロジェクトが持つWeb3技術の可能性について、人間関係の永続的な記録と可視化に大きな期待を寄せている。

「『教えた』『繋がっている』といった関係性が、10年、20年経ってもブロックチェーン上に刻まれ続ける。匿名性を保ちつつも、人と人との繋がりが明確に理解できる。これが将来的に地球規模の人脈ネットワークへと発展すれば非常に面白い」と語る。

さらに、NFTが個人の非金銭的な貢献や信用性を証明する手段となり得る点にも価値を見出しており、「従来の美術品NFTでは難しかったが、今回の仕組みでは、例えば『ある店長が学生のNFTを進化させた』という事実が記録されることで、その学生や店長の行動が新しい形の信用として機能する」と、その革新性を強調した。

現場の声:外食産業のキーパーソンたちが語るNFT活用の未来図

この「アメちゃんNFT」プロジェクトについて、外食産業を牽引するキーパーソンたちは何を思うのかー。大阪・梅田で開催されたトークセッションでは、それぞれの立場からNFT活用の未来図について活発な議論が交わされた。

[『飲食×NFT』の可能性を語った大倉氏(左から2人目)]

<登壇者>

  • 大倉忠司氏(鳥貴族創業者)
  • 井上泰弘氏(大阪外食産業協会ORA 副会長)
  • 川田十夢氏(開発ユニット「AR三兄弟」リーダー)
  • 蓑田佑紀氏(パナソニックホールディングス)
  • 吉田圭輔氏(Transcend-Learning代表)
  • ZOU YIFENG(ゾウ ギフウ)氏(立命館大学大学院生、吉田氏の教え子)
  • 鈴木淳一氏(電通グループ、BCCC理事、モデレーター)

セッションの中心的なテーマの一つは、NFTが外食産業における「人間的な繋がり」や「体験価値」をいかに高められるかという点であった。

焼き鳥チェーン「鳥貴族」を運営するエターナルホスピタリティグループの大倉忠司CEOは、今回の「アメちゃんNFT」の仕組みを聞き、「なるほどと思った。どうNFTと飲食を融合させるのか、以前はあまりイメージできていなかった」と率直な感想を述べた。

続けて大倉氏は、以前から社内で「報酬以外の何か」を従業員に与えることの重要性を説いてきた経験に触れ、「例えば、学校の先生が勉強を教えるだけでなく、人生や生き方を教えることで、生徒との間に深い思い出や繋がりが生まれる。それと同じように、店長もスタッフに対して、単に業務を教えるだけでなく、人間的な成長を促すような関わりを持つべきだ。今回のNFTの仕組みは、そういった無形の価値を可視化し、融合させる可能性を感じる」と、人材育成の観点からの期待を語った。

さらに同氏は、飲食店の本質的な価値について、「料理やお酒を提供するだけでなく、コミュニケーションの場としての価値が非常に大きい。NFTは、そのコミュニケーションを豊かにし、お客様との関係性を深める上で、うまく利用できるのではないか」と、顧客エンゲージメントにおけるテクノロジーの可能性にも言及した。

このような「お金では買えない価値」の重要性について、パナソニックホールディングスの蓑田氏は「パナソニックでは『非地位財』と呼んでいるが、経済活動の裏には必ず信用や信頼、感謝といったものがセットで存在する。これらをNFTのような技術で可視化させることで、社会の形が変わる可能性がある」と語った。

ORA副会長の井上氏は、このNFTを用いた新しい取り組みを「外食3.0」と表現。その未来像を描いた。

「従来のチラシや折り込み広告の時代から、Web2.0、そしてWeb3.0へと進化する中で、外食産業もまた新しいステージに進むべきだ。このNFTの取り組みは、まさに『外食3.0』の象徴であり、単に食事を提供するだけでなく、顧客との関係性や体験価値を深め、業界全体を新しい次元へと進化させる可能性を秘めている」と述べた。

井上氏はまた、万博のORAパビリオンでは既に20数名の外国人インターンシップ生が活動している現状に触れ、「これは一般的なワーカーとしての研修型インターンシップだが、今回のNFT型を導入することで、彼ら外国人同士、あるいは既存の日本人スタッフとの間にどのような新しい感覚や貢献が生まれるか、非常に興味深い社会実験になる。」と、NFTがもたらす化学反応への期待を語った。

昨今、X2Y2、tofuNFT、Animoca Brands Japanの「SORAH」など、NFTマーケットプレイスやローンチパッドのサービス終了が相次ぎ、市場は調整局面を迎えている。

しかし、そのような状況下であるからこそ、投機的な側面だけでなく、社会的な実用性や、リアルな人間関係を豊かにするツールとしてのNFTの真価が問われている。「アメちゃんNFT」のような、地に足のついたユースケースは、まさにその潮流を体現するものと言えるだろう。

大阪・関西万博は、まさにその最前線を体験できる貴重な機会となる。本記事で紹介したORA外食パビリオン「宴~UTAGE~」では、この「アメちゃんNFT」が実際に活用され、インターンシップに参加する若者たちの成長や、メンターとの間に生まれる「きずな」が、目に見える形で育まれていく様子を目の当たりにできるかもしれない。

Web3技術が私たちの日常やビジネスにどのように溶け込み、新しい価値を生み出していくのか。その一つの答えが、この万博の地にあるのかもしれない。ぜひ実際に足を運び、未来の社会実験の一端に触れてみてはいかがだろうか。

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|文:栃山直樹
|画像:記者撮影、動画キャプチャ、リリース