仮想通貨業者 VS 規制当局——資金洗浄を巡りオランダで散る火花

仮想通貨業者 VS 規制当局——資金洗浄を巡りオランダで散る火花

Brady Dale
公開日:2019年 12月 16日 06:30
更新日:2019年 12月 16日 06:30

要点

  • 第5次EUアンチマネーロンダリング指令(AMLD5)が来年1月に発効。EU加盟国は仮想通貨に関し、EU指令の定める内容の実施方法を決定しなければならない。
  • オランダ財務省(FIN)およびオランダ銀行(DNB)は独自の解釈を提示。反対派は歴史の浅い仮想通貨業界に回復不能の損害を与える可能性があると批判。
  • 独立機関の法的レビューによると、提案された実施方法は、意図的にオランダ議会をミスリードしているものだという。

オランダの規制当局が、欧州連合(EU)第5次アンチマネーロンダリング指令(AMLD5)を、その開始期限である1月10日以前に実施することを目指している中、オランダの仮想通貨スタートアップは非難の声を上げている。

取引所やソフトウェア開発会社などの企業側は、当局が民主的なプロセスを妨害しており、本来のブロックチェーン業界の発展に関係しないような過去の間違いを正そうとしていると主張している。

複数のオランダ仮想通貨企業や元規制当局者によると、オランダ財務省(FIN)とオランダ銀行(DNB)はオランダ議会に開示せずに、EUのAMLD5関連法の厳格化を推し進めているのだという。また、法律を通す正規のルートには議会への提出前にレビューを行う独立政府機関が組み込まれているが、規制当局は正規ルートで新しい規制を通過させることができなかったという。今年、新しい立法がオランダ国家諮問評議会により却下されている。

新しい規制の下では、各仮想通貨企業は自らの費用負担によって、登録プロセスを実施することが求められる見通しだ。企業側はこれを違法な許認可とみており、AMLD5の改正は、2008年の金融危機の要因となった規制の抜け穴に対応するための法律を、そのまま適用していると指摘している。

「明らかに金融危機に対応する目的で調整され強化されてきた資金調達監督モデルに基づいているものを、新しいセクターとして始めるのは不適切と考える」と、仮想通貨取引所ビットニック(Bitonic)と仮想通貨規制団体VBNLに所属するダーン・クレイマン(Daan Kleiman)氏が10月30日(現地時間)付けのオランダ議会に対する書簡で述べている。

「(FINの規制)書簡とその趣旨はどちらも、国家諮問評議会の勧告と一致しない」

AMDL5の発効まで2か月を切り、オランダの仮想通貨コミュニティは、国家諮問評議会の勧告とAMDL5の両方に完全に準拠するよう主張する当局との舌戦に忙しい。

大手銀行の呪縛

オランダ銀行に勤めオランダの金融史学者でもあるバンキング・コンプライアンス・コンサルタントのサイモン・レリエヴェルド(Simon Lelieveldt)氏の見解では、両者は積極的な姿勢を保ち、過去の過ちを繰り返さないようにしていると述べる。規制当局は、特にオランダの最大手銀行INGに対する、ずさんな監視が2008年の金融崩壊につながったとして、批判者から圧力を受けている。INGは政府から100億ユーロ(約1兆2000億円)の資金援助を受けたが、最終的には金利をつけて返済している。

「オランダのAML指令について考えると、約6年前にINGがマネーロンダリング対策を怠っているとみなされた大きな出来事があった」と、レリエヴェルド氏は電話インタビューで語った。

「そのため、中央銀行はこの埋め合わせをしようという強い傾向がある。中央銀行は過去の過ちの埋め合わせを願っていることから、過去7年間にわたり、誠実な監視に重きを置いてきた」

INGは2018年、長年にわたりマネーロンダリングを見逃したとして9億ドルの罰金を科された。当時のロイター(Reuters)の報道によると、マネーロンダリングされた金額は実に途方もない金額だった。

来年から金融活動作業部会(FATF)による詐欺の審査が始まる中、オランダ財務省も似たような圧力を受けているとレリエヴェルド氏は述べる。

「彼らはクラスで一番の優等生だと思われたい。このため、基本的にFATF規則をすべて実施している機関として受け入れられるために文字通りあらゆる手を尽くしている」

EU指令では登録だけが求められており、面倒な検証要件が少ないところ、規制当局は許認可制度を立ち上げようとしていると、仮想通貨業界は不満を述べる。

オランダ財務省は、実施するのは登録であり、国家諮問評議会の要請があれば必要に応じて変更するとしている。「草案にはAMLD5の範囲を超える要件は含まれていない」とオランダ財務省の金融セクター担当報道官、ハヤット・エルタルホー(Hayat Eltalhaui)氏はCoinDesk宛てのメールで述べている。

記事掲載までにオランダ銀行からの回答は得られなかった。

レリエヴェルド氏やクレイマン氏などは意見が異なり、登録は事実上の許認可だと主張している。実際、クレイマン氏と仮想通貨規制団体VBNLは、国内の監視という感じだとまで述べている。

財務省、中央銀行、議会

今年の9月、オランダ銀行は待望のAMDL5に対するガイダンスを公表し、EUが設定した2020年1月の期限前に行う登録プロセスの概要を明らかにした。その際にCoinDeskが報じた通り、オランダ銀行が非オランダ企業を峻別していることからさらなる規制の兆候が懸念されたものの、ガイダンスはオランダで好意的に受け止められた。

複数の仮想通貨企業が、営業費用の増加につながりかねない厳格な追加要件に不満を示している。レリエヴェルド氏の推定によると、オランダ企業の多くは中小企業であり、変更に対応するために年間15万ユーロ(約1800万円)の支払いが必要となる可能性がある。

AMLD5ではEU加盟28か国に対し、仮想通貨取引やカストディアンサービスにおける顧客の本人確認(KYC)とアンチマネーロンダリング(AML)の強化が求められている。

英国などEU加盟国の多くがAMLD5規制に更に追加している一方、オランダは何も行っていないと主張している。

法律事務所Hart Advocaten N.V.によると、オランダ財務省とオランダ銀行は2007年法をコピーしてAMLD5にそのまま貼り付けながら、議会にはそうした追加を否定しており、金融規制の倫理に疑問を投げかけている。この告発の詳細はビットニックの名で出された書簡に示されている。

「彼らは基本的に(国家諮問評議会を)軽視しており、無視している」とレリエヴェルド氏は述べる。「欧州が実施していることをそのまま行っており、それ以上のことはないと述べている。それが皆を混乱させている。根本的に民主主義制度を踏みにじっている」

オランダ企業は戦々恐々

まだ何も議会を通過したわけではないが、オランダの仮想通貨企業はリスクを回避した行動をとっている。多くの企業は罰金などの報復措置を恐れ、表立ってCoinDeskに話すことを拒んでいる。

来年の1月、取引所に対してAMLとKYCの要件が課されることから、アムステルダムのデリバティブ取引所、デリビット(Deribit)はオランダから離れる可能性さえも示唆している。

「オランダで事業を続けた場合、要件を実施することが必要になるだろう」と、最高経営責任者(CEO)のジョン・ヤンセン(John Jansen)氏は10月上旬、AMLD5に対するオランダの解釈についてポッドキャスト番組Flippeningで語っている。

これにつき、デリビットからCoinDeskへの回答は得られなかった。

今月に入って、オランダ銀行、オランダ財務省、オランダ国税庁、資金情報機関はオランダの大手仮想通貨企業と膝を突き合わせて、規制ガイダンスについて5時間にわたるプレゼンテーションを行った。

参加したCrypto2Cashの創業者、PJデイテマ(PJ Datema)氏は、規制当局は古い仕組みに新しいものを入れようとしているが、仮想通貨分野で事業を行う資本要件の基準値が会議で提案されなかったことから、全体的に楽観視していると述べている。

会議に出席した約150名の参加者の大半は、単一の商品を扱う中小企業だと、デイテマ氏は述べる。金融当局は大抵、旧来からの市場への対応に終始しており、仮想通貨企業の規制の仕方につき学んでいる最中だ。

「(規制当局は)ある意味、受け入れざるを得ないだろう。もはや無視できないからだ」

オランダの仮想通貨ファンドIcoinicのマネージングディレクター、アーサー・ストルク(Arthur Stolk)氏も会議に参加しており、仮想通貨企業が各国で申請するのではなくEU全体でひとつのライセンスを得ることができるような、EUで統一された枠組みが望ましいとしている。

「機会損失ですね」と同氏は述べた。

翻訳:Emi Nishida
編集:T.Minamoto
写真:William of Orange image via DigitalPearls/Shutterstock
原文:Dutch Crypto Startups Brawl With Regulators Over Scope of EU Money Laundering Rule