石川県の老舗繊維メーカー北紡、ビットコイン保有とWeb3事業で目指す再成長──売上の25%に縮小した紡績事業からの変革【篠原取締役に聞く】

創業約80年の繊維メーカーが今年5月、突如としてビットコイン(BTC)の保有とWeb3関連事業を開始すると発表した。石川県白山市に本社を置く東証スタンダード上場の北紡は、綿や化学繊維を使った紡績糸の製造を行う老舗企業だ。その後、7月からBTCの購入を始め、10月末時点で約10BTCを保有。8月には、暗号資産(仮想通貨)取引所のビットトレードとの基本合意書締結も発表し、ユーティリティトークンの活用構想などを打ち出している。

本業とは無縁に見えるBTCの保有を、北陸の地方企業がなぜ始めるに至ったのか。CoinDesk JAPANは10月、同社専務取締役の篠原顕二郎氏に独占取材を実施。見えてきたのは、収益構造の転換を迫られる伝統産業の現実と、財務健全化の一手にBTCを活用する秘策だった。

「今こそ、新たな展開が必要」

1948年創業の同社は、かつて国内の基幹産業であった紡績業を柱に事業を展開してきた。耐熱性や強度に優れた紡績糸の製造を手がけ、現在では大手化学メーカーを主要取引先に、消防服やアウトドア用品などに使われるアラミド繊維を中心とした受託生産を行っている。

しかし現在、創業時の柱だった紡績事業は苦境にある。2025年3月期の売上高約16億円のうち、紡績事業の売上は約3億9000万円。全体の4分の1にとどまる。

「中国やベトナムでは、安価で品質も遜色ない製品が作れる。国内では価格が合わない」と篠原氏。特にポリエステルといった汎用品は海外勢に押され、賃上げや電気代高騰の中で価格転嫁もままならない状況が続いてきたという。

〈北紡が創業時から取り組む紡績事業:HPよりキャプチャ〉

現在、同社の売上を支えているのは2018年ごろから始めたテキスタイル事業だ。中東や東南アジア向けに民族衣装の販売などを行うもので、全売上の約半数を占めるまでに成長した。

とはいえ、紡績事業の延長線上にあるこの取り組みを含めても、繊維関連の売上は全体の約75%。残る25%は、廃プラスチックのリサイクル業やヘルスケア商材販売、コンビニ向けの防犯カメラ展開など新規事業が占める。同社は5年前の経営陣交代を機に、事業の多角化を本格化させていた。

「紡績一本では太刀打ちできない」と篠原氏。新規事業への積極投資やM&A(合併と買収)を通じて会社の再成長を目指していると説明する。

そして昨年にはついに、主要取引先からの発注動向に変化が見られるようになり「今こそ、新たな展開が必要」という機運が社内に高まった。伝統産業を守りつつ会社を次世代へつなぐため、新規事業のさらなる拡充に加え、企業財務の一部にビットコインを取り入れる一手に踏み切った。

財務健全化の切り札、当面の目標は70BTC

この決断の背景には、インフレと円安の進行という経済環境の変化もある。

同社はテキスタイル事業を通じて一部ドル建て資産を保有しているものの、海外拠点を持たないため「実質的にはほぼ円建てのビジネス」と篠原氏。「企業であれ個人であれ、ゴールド(金)や株式、海外資産を持つ必要性が高まっている」としたうえで、日本円だけを保有するリスクを指摘した。

ビットコインを選んだ理由については、今後展開を予定するマイニング事業などとの相乗効果を見込んだためだと説明。続けて「短期的な値上がりを狙うのではなく、長期的に保有していく考え」だと話し、保有量の拡大に合わせて一部をレンディング運用に回す方針も示した。

同社は総額8億円をBTC購入に充当する計画を打ち出している。8月から原則として毎営業日200万円相当のBTCをドルコスト平均法で継続購入しており、10月末時点での保有量は約10BTC。篠原氏によると、当面の目標保有量は70BTCだという。

〈同社は総額8億円のBTC取得を目指している〉

「BTCはボラティリティが高いが、毎営業日購入すれば価格変動の平均化が図れる。それにレンディングで不労所得も得られれば、財務面で大きな貢献になる」と篠原氏は語った。保有BTCの一部は一定の利回りを見込んで運用する計画だという。株主からはイーサリアム(ETH)やソラナ(SOL)などアルトコインを保有するようにとの声もあるというが「まずはビットコインだ」と篠原氏は強調した。

クリプト部門新設、マイニング事業で合弁会社設立へ

篠原氏は経理財務や経営企画部門畑でキャリアを積み、2020年に同社に入社。現在は暗号資産戦略の担当役員として、新設された「クリプトマネージメント部門」の部門長を兼務している。

投資信託やETF(上場投資信託)、暗号資産への投資経験もあると明かしたうえで「BTC購入に関しては専門知識よりも、保有方針と購入方針を明確にすることが重要」と語り、現状の運用スタンスを崩すつもりはないと強調した。

一方で、同社が掲げたマイニング事業やユーティリティトークン発行、RWA化といったWeb3関連事業については、暗号資産取引所運営の経験を持つ外部アドバイザーと連携しながら検討を進めている。

関連記事:繊維メーカーの北日本紡績、暗号資産事業開始へ──ビットコイン保有からマイニング・独自トークン発行も視野

同社は5月、BTC保有に加え、マイニング事業や独自トークン発行など4つの関連事業を打ち出した。7月上旬の事業開始を予定していたが、現時点では計画通りに進んでおらず、それぞれ検討・準備段階にあるという。

最も具体的に進んでいるのはマイニング事業で、香港企業との合弁会社設立に向け最終段階にあると説明。ただし「国内でマイニングを行うには電気代が合わない」ことから、北米など安価な電力を確保できる地域での展開を模索していると述べた。

また、製品購入やサービスの対価として使える独自トークンの発行、廃プラスチックの回収から再生・製品化に至るサプライチェーン上の一部プロセスのRWA化、Web3型ウォレットの提供に関しては引き続き検討する意向を示した。

「北紡」への社名変更に込めた思い

同社は7月、社名をそれまでの「北日本紡績」から「北紡」へと変えた。

伝統的な名前で愛着があったものの「紡績以外の事業が収益の柱になってきている。Web3ビジネスを含む新規事業を展開する上でも、紡績という名前があると違和感がある」と篠原氏。

一方で、100年近く続いている伝統を社名にも残したい思いと、地元では「きたぼう」の相性で親しまれてきた歴史を大切にするため「北紡」という漢字表記にこだわったと明かした。

〈北紡が本社を置く白山市は、日本三名山の一つ「白山」で有名だ:Shutterstock〉

同社は昨年12月の株主総会で、30億円の資金調達を決議。8億円をBTC購入に、数億円を生成AIのデータセンター建設に、残りをM&A資金に充てる計画だが、「今後の市場動向や投資環境を踏まえ、資金の活用方針については柔軟に検討を進めていく予定」と篠原氏は述べた。

また、事業の多角化を進める同社は、観光や交通分野への展開も視野に入れており、将来的にはBTC決済などデジタル通貨を活用した新たな交通サービスの構想も検討している。地域観光やインバウンド需要に対応できるサービスモデルの可能性を探っているという。

篠原氏は取材の最後、「ここで大きく生まれ変わらないと、会社として衰退していく一方」だと力を込めた。地方の伝統企業ならではの古風な企業文化や風土はあるとしながらも、100年近く続いた紡績業を守るためにも「新しい収益を作らなければならない」との思いが経営陣に共通していると話す。

地方の老舗企業による大胆な変革は、日本企業の生き残り戦略の一つのモデルケースとなるかもしれない。北紡のBTC保有戦略とWeb3事業への挑戦は、始まったばかりだ。

|文:橋本祐樹
|トップ画像:北紡の専務取締役で、クリプトマネージメント部門長を務める篠原氏(撮影:CoinDesk JAPAN編集部)

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