米国の著名なベンチャーキャピタリスト(VC)であるティム・ドレイパー(Tim Draper)氏は、テスラやスペースX、スカイプなど世界を変えた革新企業への初期投資で知られる億万長者投資家だ。暗号資産(仮想通貨)にも早くから注目し、熱烈なビットコイン(BTC)支持者としても名高い。
2014年には、米連邦保安官局(USMS)が押収したBTCのオークションで、約3万BTCを約2000万ドル(約30億円、1ドル152円換算)で落札。現在、その価値は約170倍になっており、今も語り継がれるエピソードの一つになっている。
ドレイパー氏はなぜ、ビットコインの可能性を信じ続けるのか。また、起業家精神の育成を目的に設立したというDraper University(ドレイパー・ユニバーシティ)に込めた狙いとは。
CoinDesk JAPANは10月、シリコンバレーのドレイパー氏にオンライン取材を実施。親子4世代にわたる投資哲学と暗号資産がもたらす未来へのビジョンに迫った。
全人類に利益をもたらす起業家に投資
──VCの家系に生まれ、数々の投資実績を重ねている。起業家を評価する際に最も重視するポイントは。
ドレイパー氏:私の投資哲学の根幹にあるのは、「人類全体にとって本当に素晴らしいものを創造する可能性がある人物への投資機会」を見逃さないことだ。
投資するのは、起業家が未来に大きなビジョンを持っている場合。彼らはエキサイティングな目標を理解しているが、本格的に始動するには、ほんの少しの後押しと資金が必要となる。
私は幸運にも、ホットメールやスカイプ、テスラ、スペースXといった素晴らしい起業家たちを見つけることができた。また、私は初めて中国に投資したシリコンバレーのVCであり、”中国のGoogle”としても知られている検索エンジンの百度(バイドゥ)にも投資できたことで、シリコンバレーと中国テック業界をつなぐ重要な一歩となった。彼らが一人の起業家だった時期に資金を提供できたことを誇りに思う。
私の祖父はシリコンバレー初のVCで、父も先駆者だった。父がVCの仕事を心から楽しむ姿を見て、私もこの道を選んだ。今では3人の子どもも、それぞれのファンドを経営するVCとして活躍しており、私たちの家族には4世代にわたるVCとしての歴史がある。
起業家精神は教えられない?
──2012年に創設したDraper Universityについて教えてほしい。
ドレイパー氏:世界にもっと多くの起業家が必要だと感じたのが設立の理由だ。ここでは起業家の歴史について教えるのではない。起業家が必要とするサポートを得るための手段を教え、彼らのために未来の授業を行っている。
実は、私が設立に踏み切った理由はもう一つある。
私の知り合い全員が「起業家精神は教えられない。それは人に内在するものだ」と言ったからだ。他人が「できない」と言うとき、私は「どうすればできるか」ということだけを考える。不可能なことを可能にするのが好きなのだ。

これまで、6000人が5週間の集中プログラム「ヒーロートレーニング」を受講した。プログラム全体では約2万人が受講しており、そのうち約2000人が事業を始めた。5社がユニコーン企業になり、約30社が1億ドル以上の企業価値をつけている。学生は世界102カ国から集まり、平均で1人あたり7人の雇用を生み出している。素晴らしい成果を上げてきた。
設立当初から始めたビットコイン講義
──2012年頃には、すでにビットコインの講義を行ったと聞いている。
ドレイパー氏:私自身がBTCの購入者でもあったため、思いつく限りの専門家を呼んで講演してもらった。起業家を支援するなら、最も斬新で新しいテクノロジーを教える必要があると考えたからだ。
幸運なことに、受講生の中からQTUM(クアンタム)とTRON(トロン)の創設者が現れた。多くの学生が卒業後にBTCを購入して多大なリターンを得た。中には、投資家となり帰ってくる卒業生もいる。我々は、弁護士が「大丈夫だ」と判断するのを待つのではなく、最も先進的なテクノロジーをすぐに伝えている。
授業では、非常に難しい課題を与える。例えば「サンフランシスコに行き、24時間以内に仕事の内定をもらってくる」といったことや「サンフランシスコの路上でコンドームを売ってくる」といったミッションだ。こうした課題をやり遂げることができれば、どんなに売りにくい商材でも売れるようになる術と自信が身に付く。中には、わずか2時間そこらで2000ドルほどの売り上げを叩き出したチームもあった。
慌ただしい日常から少し距離を置き、参加者全員が自らの限界に挑みながら起業家間同士での絆を深めるサバイバルトレーニングを経験し、起業家にとって必要な「校訓」を暗唱する。「失敗し、成功するまで失敗し続ける」(I fail and fail until I succeed)。「短期集中で犠牲も厭わずコミットし、長期的な成功を生み出す」(Short-term sacrifice , Long-term success)などの言葉がある。

Mt.Gox事件でも15%しか下落しなかった
──ウォーレン・バフェット氏など暗号資産に否定的な投資家もいるが、ビットコインの価値をここまで信じている理由は。
ドレイパー氏:私がデジタルマネーに興味を持ったのは、2002年に韓国のある人物と会ったときだ。彼は「韓国では皆がリネージュというゲームに熱中し、息子の誕生日には剣を買ってあげた」と言った。それは実体のないデジタルデータに過ぎなかった。つまり、人々は法定通貨を使ってデジタル商品を購入していたのだ。

私は衝撃を受けた。いずれ、ゲームごとに異なる通貨がすべて繋がり、デジタルマネーが誕生すると想像した。のちにビットコインを知ったが、銀行ではなく、ソフトウェア内の第三者によって運営されている仕組みに衝撃を受けた。私は25万ドルを投資し、当初1BTCあたり4ドルで買おうとしたが、実際には36ドル程度で一部を手に入れた。
その後、2014年にマウントゴックスの流出事件が起きるのだが、実はこの事件の後こそ、私はBTCの真価を確信した。当時の世界最大のビットコイン取引所から約85万BTCもの流出があったにも関わらず、その価格はわずか15%しか下落しなかったからだ。BTCが銃やドラッグを買うためではなく、送金やグローバル経済から疎外された人々を繋ぐ、真に価値あるものとして使われている証拠だと思った。
ビットコインは貝殻や金、紙幣に続く通貨の進化形だ。ビットコインのおかげで世界はより豊かになる。私は強い確信を持っている。
BTCを所有しない企業は「無責任」
──「企業がビットコインを保有しないのは大きなリスクを背負う」とまで主張しているようだが。
ドレイパー氏:今ではただの確信というレベルを超え、ウォレットを持たない人がいること自体が信じられなくなっている。金融資産の運用という目線で考えると、現時点でBTCを所有していないのは大きなリスクを負う、無責任な財務管理だと言えるだろう。
銀行が倒産するリスクに備え、家計を預かる人は生活費の6カ月分、企業は運転資金の1カ月分をBTCで保有すべきだ。政府も自国通貨の価値下落に備え、戦略的にBTCを備蓄すべきだ。実際にドルも円も、BTCに対して価値が下落している。
──米ストラテジー(旧名マイクロストラテジー)が先駆けとなり、企業の財務戦略にBTCを組み込む企業も増えている。
ドレイパー氏:ストラテジーの戦略は非常に賢明だった。彼らは、自社の株式をBTCと並行させることを思いついた。株式を発行して得た資金でBTCを購入し、これを繰り返す。BTCにさらなる安定性と需要を生み出し、ビットコインネットワークをかなり広げた。
実は私にも、新しいDAT(デジタルアセットトレジャリー)企業のアドバイザリーボードに参加してほしいとの依頼が複数あったが、断ってきた。私は最初のものに投資するのが好きで、人のまねごとにはあまり興味がない。しかし、マイケル・セイラー氏が行ったことには多大な敬意を持っている。
決済での活用を早期に始めた日本
──グローバルな投資家から見て、日本のWeb3市場はどのように映っているのか。
ドレイパー氏:日本はBTCを受け入れ、決済に使用できるようにした最初の国だった。ある日本の宝石店を訪れた時、価格が円とBTCの両方で表示されているのを見た。あの宝石商は今ごろ、かなり裕福になっているだろう。
その後、一時的な後退はあったものの、小売決済でBTCを使用していた日本には依然として優位性がある。いつか、ビットコインなら決済可能だが、円での支払いを拒否する店舗も現れるだろう。
アメリカには今、イノベーションを奨励する素晴らしい政権があり、トランプ氏は自らを「ビットコイン大統領」と呼んでいる。日本も追随すれば、社会にとって大きなプラスになる。
ただ一つ言うとすれば、先に述べたマウントゴックス関連の訴訟に見られるように、日本は法制度を改善する必要がある。和解に10年以上かかるような裁判に誰が行きたいと思うだろうか。
「勤勉で誠実な」日本の起業家
──日本の起業家や投資家が、あなたのエコシステムに参加する方法を教えてほしい。
ドレイパー氏:私たちはどの国の企業にも資金提供を行っている。
私が司会を務める「Meet the Drapers」というピッチコンペの番組も世界中で展開している。日本ではまだだが、ソウルやブエノスアイレス、インドなどで開催してきた。この番組はYouTubeで見ることもでき、数百ある応募から選ばれた4社に出演してもらう。番組は大きなフォロワーを持っているため、勝たなくても出演するだけでメリットがある。優勝企業には約束の100万ドルを提供する。

日本でもっと多くのことがしたい。猫カフェやロボットカフェなど、日本には独自の文化があり、起業家たちは本当に革新的なことをしている。
DraperVCにぜひ連絡してもらいたい。日本語でビジネスプランを作成し、翻訳してからウェブサイトに送ってほしい。非常に興味深いものが見つかれば招待する。また、Draper Universityへの応募も歓迎だ。
私たちは2年前から日本政府と協働し、実に150人の創業者を受け入れてきた。日本の起業家は勤勉で集中力があり、誠実で、献身的で、優れている。より多くの日本の起業家に資金提供できることを楽しみにしている。
|インタビュー・文:橋本祐樹
|トップ画像:シリコンバレーからオンライン取材を受けたティム・ドレイパー氏
※編集部より:タイトルを変更し、更新しました。11月5日18時53分


