【LINE出澤CEO】スマホの終わりにトークンエコノミーは成長するのか?「キラーアプリが変える」

8年前の2011年、東日本大震災は携帯電話の機能を麻痺させた。大切な人と連絡がとれない、その予期せぬ不便と不安がきっかけとなって、メッセージアプリのLINEは生まれた。その後のスマートフォンの普及は、LINEを瞬く間にキラーアプリに変えた。

メッセージ、ニュース、ゲーム、音楽、マンガ、決済、投資、保険……今では、あらゆるサービスをそのプラットフォームに乗せて、国内外で1億6000万人を超える月間アクティブユーザーを有する日本最大級のプラットフォーマーになった。

東京・新宿のLINE本社。世界で約7000人が働き、年間2000億円超の売上収益を稼ぐ。

2018年、利益の圧迫を指摘する証券アナリストを横目に、LINEは投資のアクセルを踏み込み、戦略事業と位置づけた金融とAI、eコマースの事業開発を急ピッチで進めた。金融では、野村ホールディングスやみずほフィナンシャルなどとの戦略提携を結び、LINEが本格的に始めようとしているLINE Financialの姿が想像できるまでになった。

そして、8月、戦略事業のさらに先にある未知の領域で、新たな挑戦を始めると発表。独自に開発したブロックチェーンを使ったトークンエコノミーを作るための「LINE Token Economy」構想だ。

世界で約7000人が働き、年間2000億円超の売上収益を稼ぐLINE。その経営の指揮をとる出澤剛CEOは、人を驚かせる「WOW(驚き)」を見つけ、社会が受け入れるサービスをつくり上げることをミッションに掲げる。そして、大企業となったLINEの速い事業開発スピードを維持することを常に意識していると話す。

「LINE」アプリが2011年にコミュケーションにおける「WOW」を多くの人に与えたように、LINE Token Economy構想は、ユーザーたちを魅了するエコシステム(生態系)へと変わっていくことができるのか?そして、それを実現させるための戦略とは何か?CoinDesk Japanは出澤氏に話を聞いた。


スマートフォンが終わる瞬間

−−LINE Token Economy構想を始めるきっかけは何だったのですか?

出澤:プラットフォーム思考がその一つにあると思います。LINE自体もスマートフォンという非常に大きな変化の流れの中で、コミュニケーションで言えばLINEはプラットフォームになりました。次のプラットフォームって何なんだろうと考えると、いくつか説明の仕方があると思うんです。

一つは、次の大きな流れを常に考えています。スマートフォンで育ったLINEなので、スマートフォンがなくなる瞬間というか、終わる瞬間というのが、失速する一番大きなタイミングになり得るので、次の大きい山というか、技術的な大きい流れ、あるいは世の中を便利にするようなインパクトを大きいレイヤーの中で考えています。

この観点では、AIが次の大きなパラダイムシフトになるだろうと思います。LINEはコミュニケーションのインターフェイスを一生懸命やっている会社なので、スマホ以上に便利なインターフェイスって何だろうと考えると、やはり音声プラットフォーム/音声インターフェイスだろうと。音声+AIのクローバ(Clova=LINEが開発したAIアシスタント)を一生懸命やっているんです。

これはスマートフォンの次のプラットフォームレイヤーになるだろうという見立てからやっています。

ブロックチェーンにおいては、LINEが提供しているLINE Payだとか準備中の新銀行という金融の流れとは少し違った、パラレルワールドというか、そこの延長線上にあるというものというより、別の次元のチャレンジとして進めています。将来的には、なだらかなグラデーションが起きながら、いまの金融サービスとLINE Token Economyが融合していく可能性はもちろんあるんですけど。

熱狂の終わり、本質の始まり

−−ブロックチェーン・仮想通貨を取り巻く環境はここ数年で変わってきました。

出澤:我々は今、ブロックチェーンという大きな技術的トレンドでどんなことができるのか、または世の中にどんなインパクトを与えられるのかを探りながら、チャレンジしているところです。

ブロックチェーンとかクリプトカレンシー(仮想通貨)では、一時の熱狂的ブームは過ぎて、逆により本質的になってきて、見直されてきているように思います。

dApps(分散型アプリケーション)と言われるものは出てきてはいるけれど、「ブロックチェーンを使っています」だとか、「暗号通貨です」みたいな枕詞なしに、ユーザーにとって本質的に便利ですばらしいサービスが出てるんだっけと言うと、まだまだそうでもない気がします。

どちらかと言うと、技術先行、話題先行、特に投機的話題先行ということで、本質的なユーザーの価値みたいなものが語られていないし、証明ができていないというところがありますよね。

そういう意味で、我々自身がサービスをつくっていく会社として、真正面からチャレンジしていこうと、LINE Token Economyとその上で展開されるいくつかのdAppsのプロトタイプの着手に取り組んだのです。

トークンエコノミーと価値の配分

LINE Token Economyのフローチャート(LINEのHPより)

−−LINE Token Economy構想を発表されたとき、出澤さんは「価値は公平に分配されるべきとする考えが根底にある」と言われました。

出澤:やっぱり我々は、CGM(Consumer Generated Media=消費者がインターネット上で書き込んでいくことで作られていくメディア)をずっとやってきた会社でもあります。

ユーザー参加型のウェブビジネスを多く手がけきた中で、そういったサービスってプラットフォーマー・事業者が場を提供して、ユーザーがどんどん書いていってアクティブになります。そうすると、サービスは次第に力強くなって、広告収入が発生するようになっていきます。

サービスをつくる時に誰が頑張ったのかというと、ユーザーさんが面白いことを書いてくれたり、価値ある情報を書いてくれるから、そのサービスは大きくなるんですよね。

ユーザー自身がサービスの貢献者で、一緒につくっていく仲間だと考えると、ブロックチェーンを使えば、そこに対して健全な関係性の中での報酬還元ができるのかなというのが、別の角度から見た考えの源なのかもしれません。

いまのサービスは、ユーザー参加型が多く出ているし、インターネットの流れに合致しています。本質的にユーザーが喜んでくれるようなことが、もっとできるんじゃないかと。

例えば、それでサービスに紐づいたトークンが発行されて、サービスの価値が上がることによってトークンの価値が上がっていく。サイトの価値が上がり、トークンの価値が上がっていけば非常に好循環なサイクルが生まれる。

Airbnbとホストの関係

Airbnb・CEOのブライアン・チェスキー氏は、「Airbnbは我々の忠実なホストに株主になってほしい。そのためには、規則の変更が必要になる」と、Axiosの取材で述べたという。(写真:Shutterstock)

−−サービスとそのサービスをサポートする仲間との絆と言うべきか、深い関係性をトークンでさらに強くしていけると?

出澤:似たような発想で言うと、Airbnbがホストに対して、株式を出そうしているという話があったと思います。ブロックチェーンを使うことによって、似たようなことができるのでは。これって、資本主義のあり方というか、会社のあり方も新たな枠組みで捉えられるようになるかもしれません

Airbnbは株式所有に関する規則の変更を求めて、米証券取引委員会(SEC)に要望書を提出したと、米メディアAxiosが2018年9月に報じている。Airbnbは、宿泊施設を提供するホストが、同社の株式を得られるよう規則の改正を求めているという。市場では、Airbnbが2019年にも株式を上場すると言われている。

出澤:利用者自体がサービスを強くしていき、それに対するインセンティブ(報酬)が与えられるという仕組みで、サービスと個人との関係性はこれから変わっていくだろうと思ってます。

経済的価値の裏側で、株式を持つイメージで、独自のコインだとかを持てるようになると、貢献とインセンティブの正しい関係性みたいなものが作れるかもしれない。企業と消費者の関係性が変わっていく中で、一つの面白いチャレンジになるなと思っています。

トークンエコノミー自体も、お金だったり価値というものに対して、より分かりやすく今の時代に則した形で、新しい接し方というものを考えていきます。それをやっていくと、生態系(エコシステム)はできてくるんだろうなと思ってやっているんです。将来的には、グローバルの大きいプレイヤーは、自社トークンを出してくるようになってくるかもしれないですね。

キラーアプリがすべてを変える

−−ブロックチェーンが近未来でその利用を広げるためには、何が必要と考えますか?

出澤:挑戦的な領域だし、新しい波に対してしっかりと取り組んでいきたいです。時間がかかるものだと思います。ただ、スマホもそうでしたけど、キラーアプリが出た瞬間に、その普及が一気に変わってくるというか。スマホでは、例えばLINEだとか特定のゲームがきっかけとなってスマホにシフトしていく人が増えてくるような現象があったんです。

音声インターフェイスでも僕は同じことを言っていますし、ブロックチェーンを活用した技術で言うと、やはりキラーアプリのdAppsが出るタイミングからだと思いますね。

多くのスタートアップはブロックチェーンを使ったゲームだとか、dApps的なゲームを作っていますが、例えば何かそういうところからキラーアプリは出てくるのかなと思ったりもします。または、そのキラーアプリが消費者向けではなくて、金融機関向けのソリューションかもしれません。

ただ、我々の得意分野は消費者向けのところです。そこの分野で我々が貢献できるんじゃないかなと思ってます。なので、発表させてもらったCGM向けのdAppsとトークンエコノミー構想のようなものに可能性があると思っています。


LINE Token Economy構想で、LINEは自社開発のブロックチェーン「LINK Chain」上で利用できるコイン「LINE Point(日本国内向け)」と「LINK(海外向け)を発表。今後、分散型アプリケーションが、このLINEのエコシステムに参加すれば、ユーザーに対してコインを付与することができる。

聞き手・構成・文:佐藤茂
編集:浦上早苗
写真:多田圭佑