オプション取引の成長はビットコイン市場のイノベーションを促進する──だがその方法は想定外

リチャード・ローゼンブラム(Richard Rosenblum)氏は仮想通貨流動性プロバイダーであるGSRの共同創業者。本記事の見解は筆者のもので、CoinDeskの立場を反映するものではない。

機関投資家の参入を後押し

先物と同様に、メジャーな取引所でのビットコイン・オプションのローンチは期待を集めていた。

楽観的な観測筋は、急成長するオプション市場へのシカゴ・マーカンタイル取引所(CME)およびバックト(Bakkt)の参入は、機関投資家のビットコイン市場への参入をさらに後押しすると考えている。それは確かだろう──だが、必ずしも2社が期待する形でではない。

大手機関投資家、マイナー、その他この分野に関わっている企業にとって、オプション取引は、リスクとボラティリティを管理する新しい強力なツールとなる。

しかし、他の金融市場で見られるように、こうした性質は上場されたオプション取引自体からもたらされるものではない。むしろ、実際のアクションは相対でのヘッジ取引から生まれる。企業に特化したこうしたプロダクトは、基本的なオプション取引の流動性に依存するが、取引所の取引高を動かすことになる。

この理由を説明する前に、ヘッジ手段としてのオプションの需要の高まりは強調するに値する。オプション取引は2019年、仮想通貨分野において最も急速に成長を遂げたプロダクトだ。2020年、その取引高の上昇は加速する可能性が高い。

仮想通貨デリバティブの取引高は、仮想通貨のスポット市場および一部の金融デリバティブがそれに対応するスポット市場を小さく見せることに比べると初期段階にある。それでも、さまざまなデリバティブプロダクトの出現は、この分野の成長にきわめて大きな影響をもたらすだろう。

オプションによるリスクマネジメントとは

オプション市場が企業のリスクマネジメントの基礎として機能する方法を理解するために、筆者がかつてゴールドマン・サックスで世界最大級の企業のためにヘッジプログラムをマネジメントしていたことを例に挙げてみよう。

そこでは焦点は自然リスクのある企業のリスクヘッジをサポートすることにあった。供給サイドでは、コモディティにおける最大の年間取引は、メキシコが自国の石油生産の利権料をヘッジするためにプット(売る権利)を買う場合だった。需要サイドでは、航空会社や運輸会社が燃料価格をヘッジするためにオプション市場を使う。

しかし、これらの企業が直接「上場された」プロダクトを取引することはめったになかった。上場されたオプションプロダクトの特徴は、企業のリスクヘッジには適しておらず、専門家や投機に適している。企業は取引所に上場されたプロダクトの流動性を使った、企業向けに特別に作られたプロダクトを取引することを好む。

仮想通貨の世界において、これらのプロダクトの満期が1日であることは、トレーダーが満期日のボラティリティに対処しなければならないことを意味する。つまり、市場心理や他の非経済的な要素の影響を受けがちになる恐れがある。

1日でのヘッジは、マイナーなどの企業が自らのアウトプットの価値を適切に守り、市場リスクから自らを適切に守るためには短すぎるだろう。そうではなく、カスタムメイドのスワップやオプション戦略はエコシステム内の多くの企業に、ヘッジとしてより優れたソリューションを提供する。より長期間にわたるリスクとバランスさせることで、毎日、一定の率でヘッジすることが可能になるからだ。

石油生産者とマイナーの類似点

石油生産者とビットコインマイナーの間には、さらに類似点を見出すことができる。マイニングコストは新しいマシンが登場したり、電気料金が変動することで変わる。

ビットコインのボラティリティも採算性に影響する。大手マイナーが上場したり、株主グループの監督下にあることで、良好な財務状況を維持することへの圧力は増している。

加えて、5月に予定されている半減期が招く利益への圧迫は、マイナーにボラティリティリスクをより良くマネジメントすることを迫ることになる。市場の独占が進むにつれて、より多くのリスクが少数のマイナーの手に握られることになる。

石油生産者と同様に、マイニングコストが仮想通貨の市場価格を超えないようにするために、マイナーはますますヘッジソリューションに期待している。融資企業もマイナーにヘッジを義務づけ始めるだろう。そうすれば、マイナーは弱気市場の際にも借り手としての義務を果たせるようになる。

新しいプロダクトやサービスの出発点

石油企業でもビットコインマイナーでも、企業は通常、取引所で直接取引することはない。企業は異なるプロダクトとビジネスの進め方を求める。

日々のリスクを1日の「一括」償還でヘッジすることから生じる時間的なミスマッチに加え、企業はFCM(フューチャーズ・クリアリング・マーチャント)を通じて取引しなければならないため、先物取引所と直接取引することは困難。このことが仮想通貨関連企業向けに専用に作られたヘッジプロダクトにつながる。

しかし、これらのプロダクトもどこかで核となるボラティリティリスクをヘッジする必要があるため、まずは上場されたプロダクトで流動性を確保することが必要となる。上場されたオプション市場における流動性は、こうしたタイプのヘッジの基礎となる。

ひとたび企業がこれらの上場されたプロダクトをヘッジできれば、残されたリスクは少ない。マーケットメイカーはこうしたリスクを引き受け、これらのヘッジの取引相手となる準備が整っている。

大手取引所に上場された基本的なオプション取引は始まりに過ぎない。企業、マイナー、その他の企業にとって、ボラティリティの元となる流動性が飽和状態に達した時に何が起こるかが興奮を生む。

特に企業のヘッジとリスクマネジメントに関わるため、これは他のボラティリティ関連のプロダクトを数多く作るための土台となる。究極的には、これは望まないリスクを減らし、より多くの投資を可能にする。

このように、上場されたオプションはまったく新しいプロダクトやサービスの出発点となっている。

翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸
写真:Shutterstock
原文:Options Growth Will Ignite Innovation in the Bitcoin Market – But Not in the Way You Think