【柳澤大輔】地域通貨で「人のつながり」を可視化する。面白法人カヤックが考えるカラフルな地域社会とは?

鎌倉を本拠地とし、地域を中心とした新しい経済の形を模索する面白法人カヤック。代表取締役CEOであり「鎌倉資本主義」を発信する柳澤大輔氏は、ブロックチェーンを活用した地域通貨に地方創生の可能性を見出している。「鎌倉資本主義」と、その実現のための地域通貨のあり方を聞いた。

柳澤大輔(やなさわ・だいすけ)/面白法人カヤック 代表取締役
1974年香港生まれ。慶應義塾大学環境情報学部を卒業後、ソニー・ミュージックエンタテインメントに入社。1998年に合資会社カヤックを学生時代の友人と3人で設立し、24歳で代表取締役に就任。2005年に株式会社に組織変更。「サイコロを振って給料を決める」ユニークな社内制度や、毎年100以上の新サービスの開発で注目を集める。Webディレクターとしてカンヌ国際広告賞、東京インタラクティブ・アド・アワードなど、国内外のあらゆるWeb広告賞を獲得。

鎌倉で地域通貨を作るのは「どこでするか」にこだわるから

大半の企業が東京に本拠地を置く中、面白法人カヤックは鎌倉に本社がある。なぜカヤックはわざわざ東京を離れ、地方で活動しているのか。柳澤氏によれば、それは鎌倉が「面白い」からだという。

「鎌倉には海と山と文化的施設が一箇所に集まっています。だから住みたい街としての人気も高いのに、観光客も多い。さらに今度は市長も含めて会社を誘致するぞなんて言ってるから働く人も増える。色々な要素がごちゃっと入っていて、古いものと新しいものが同居しているんですね。これが面白い」

この面白さに着目する背景には、「どこでするか」にこだわるべきだという柳澤氏の考えがある。

『何をするか』『誰とするか』『どこでするか』の3つを充実させると幸せになると考えているんです。自分が『何をするか』というと、当然自分のやりたいことを。その前に『誰と』、つまりどういう仲間と一緒にやるかがあって、『どこでするか』と考えたときに、鎌倉という場所を選んだということなんですね」

その上で、柳澤氏は鎌倉の地域活性化に取り組んでいる。手段として着目するのが地域通貨だ。ここ数年、地方創生の文脈で地域通貨を活用する流れは盛んになっている。例えば2018年6月、岡山県西粟倉村が地方自治体として初めて、仮想通貨を使った資金調達手法であるICO実施を決定したことは記憶に新しい。

一方で、地域通貨ありきで考えられている面もある。導入しても流通量が増えず、なかなか地方創生に結びつかないという課題を抱える自治体も多い。その点について柳澤氏はこう語る。

「地域通貨の流通を増やすためには、まず消費場所を作らなきゃいけません。お金を使うところがまず必要なんです」

地方も「リトル東京」。いまの資本主義は「ゲームバランスが悪い」

柳澤氏の描く地域通貨のあり方とはどのようなものだろうか。構想の背後には、自身が鎌倉で取り組む経済のかたち「鎌倉資本主義」がある。これは、GDPという単一の指標を追い求める従来の資本主義ではなく、地域を中心とした新しい資本主義だという。

「いまの資本主義には2つの大きな課題があると言われていて、それは『地球環境汚染』と『富の格差の拡大』。これらが起きている理由は、国全体で言うとGDP、会社で言えば売上・利益というものだけを追求するからだと思います。その結果、もっとも生産性の高い場所、例えば東京に会社を置き、社員をひとつのパーツのように考えていくようになる」

柳澤氏はこうした資本主義の仕組みを「面白くない」と捉える。

「本来、『成長する』とか『儲かる』ことは楽しいことなんです。資本主義にはお金の増減というある種のゲーム感覚があり、だからこそ資本主義はここまで発展しました。だけど『富の格差の拡大』が起こってしまい、資本主義は誰かがずっと勝ち続けているゲームになってしまった。この状態はゲームとして面白くないですよね。つまり、いまの資本主義は『ゲームバランスが悪い』のが問題なんです」

確かに現在の社会には様々なアンバランスが生じている。例えば長距離・長時間の電車通勤や、海外食品の輸入はGDPを増やす。一方で、通勤時間は短い方が楽で、地元で取れた食品の方が安くて新鮮だ。GDPや売上という指標だけを追求するのが原因だろう。

閉塞感が強まり、『ゲームバランスが悪く』なった資本主義社会が「面白さ」を取り戻すためには何が大事なのだろうか。柳澤氏によれば、「面白さ」とは「多様性」であるという。

「同じような人が、同じようなことをして、同じようなことを話していたら全然面白くないですよね。それを社会という大枠で見たときに、どの地方都市も“リトル東京”みたいになっているのがいまの状況です。そうではなく、地域ごとに特徴がある地域社会が生まれていけば、社会はもっと『面白く』なるはず」

地域の「人のつながり」「自然や文化」を可視化して増やす

では、どうすれば各地域が多様な特徴を持った「面白さ」を獲得していけるのだろうか。柳澤氏は地域の魅力を次の3つの「地域資本」として言語化し、これを指標として増やすことが大事だと考える。

1.地域経済資本(財源や生産性)
2.地域社会資本(人のつながり) 
3.地域環境資本(自然や文化
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柳澤大輔『鎌倉資本主義――ジブンゴトとしてまちをつくるということ』(2018年)

「この3つのうち、従来の資本主義での資本にあたるのが『地域経済資本』です。従来の資本主義は、この経済資本のみを指標としているシステム。そうではなく、『地域社会資本』つまり地域コミュニティなどの『人のつながり』や、『地域環境資本』、その地域の自然や文化なども資本として捉えます」

この3つは前述の「何をするか」「誰とするか」「どこでするか」とも対応している。そしてこれらをバランスよく増やしていくことが、持続可能な成長を可能にし、人の幸せにつながる。これが「鎌倉資本主義」の考え方だ。

鎌倉「小町通り」

柳澤氏は、「鎌倉資本主義」が従来の資本主義の問題を解決し得る考え方だと語る。

「現在の資本主義では、儲かるとお金がどっと流れ、それが投資とか利子によってさらに増える構造になっている。もちろん従来資本主義は、成長のエンジンとして必要ですが、それだけではなく、例えば『人のつながり』を増やすような方向に流れれば、富の格差は多少収まるような気もします。また、地域に注目すると域内消費が増えるから、輸送コストも減って環境破壊も収まるんじゃないでしょうか」  

地域通貨は「人のつながり」の見える化を可能にする

「鎌倉資本主義」を実現していくためには、「人のつながり」である地域社会資本、「自然や文化」などの地域環境資本が抜け落ちないように設計していくことが必要。そのためのアイデアとして柳澤氏が構想するのが、ブロックチェーンを活用した地域通貨だ。

なぜ柳澤氏は地域通貨に着目したのか。それは、ブロックチェーンによって「さまざまなお金のかたちをデザインすることが可能」だからだという。

「法定通貨の特徴の1つは『匿名性』です。よく『お金に色はない』と言われますが、これは誰にもらったかで価値が変わらないということ。でもブロックチェーンを使えば、たとえば『人におごると増えるお金』だったり、『使わずに貯めておくと、価値が減ってしまうお金』のようなものも設計できます」

このブロックチェーンの特徴に着目し、柳澤氏は「人のつながり」を可視化した地域通貨の設計を構想している。

「従来のお金の流れの中で、人とのつながりを増やすことにしか使えないお金を流通させる。例えば金融資産として置いておき、利率でどんどん増えるっていうのは、お金は増えているんだけど何にも価値を生み出していないかもしれないですよね。そうではなく、本当にあったかい人のつながりを増やすような使い方を増やす。そういう意志を地域通貨に込められると思います」

通貨だけ作っても、使う場所がなければ意味がない

ブロックチェーン上の地域通貨自体はまだ開発段階だという。しかし柳澤氏が冒頭で語った、地域通貨を流通させるために必要な「消費場所」は既に動き出している。そのひとつが「まちの社員食堂」だ。

鎌倉に拠点を持つ企業・団体が手を組み提供する「まちの社員食堂」

2018年4月にオープンした「まちの社員食堂」は、鎌倉で働く人たちのための食堂。通常の社員食堂とは違い、鎌倉で働く人なら誰でも利用できる。地元の飲食店や料理人が週替りでメニューを提供するのが魅力のひとつ。地域ならではのコンテンツで人を集め、消費場所とすることで地域通貨の流通量が増やすのが狙いだ。

地域の特徴を活かしたコンテンツは「まちの社員食堂」にとどまらない。鎌倉の老舗企業で、「鳩サブレー」で知られる豊島屋とカヤックが共同で運営する「まちの保育園 かまくら」や、日本テレビの土屋敏男氏が発案した「まちの映画館」、鎌倉での就業者を増やす取り組みである「まちの人事部」など、「まちの○○」シリーズとして展開している。

地域通貨ありきではなく、先に活動があるのが強みだ。それは「面白法人」カヤックとしての考え方が現れている面でもある。

「忘れちゃいけないのは、やっぱり使っていて楽しくないと地域通貨を使う理由もないので。これを使うと楽しいっていうのが直結していないと、おそらく使われない」

だからこそ「まちの○○」シリーズというコンテンツを先行させている。

「『まちの○○』シリーズは自ずと人のつながりを増やす活動。だからそこで使える地域通貨を作れば、自然と「人のつながり」を増やすような性質の通貨になるんじゃないかと思っています」

個人が地域通貨を使う未来は、必ずやってくる

地域通貨にはこの「人のつながり」という抽象概念を、数字として可視化する役割もある。そうすることで、「鎌倉資本主義」を拡大していくための目標が明確化されるからだ。

「会社というのは、指標である売上・利益を上げるための生きものです。つまり、指標でないものを追いかけるという機能はないんですね。だから、会社として僕らが『人のつながり』を増やしていくべきだといったときに、その指標がなければ無理です」

その核となるブロックチェーン上の地域通貨アプリは、2019年秋頃のローンチを目指す。

「『鎌倉資本主義』の考え方、アプリ開発、消費場所づくりの3つを同時並行で進めています。いま概念は整理したけれども、指標化したアプリはまだですし、それによって資本主義の問題が解決されるかどうかもやってみないと分からない」と柳澤氏は語る。

しかし確信もある。

「ただ、この先にある未来の潮流として、いろんなお金を各人が持つ時代にはなるんじゃないかと思います。自分の愛する地域が何箇所かあって、その地域間を流動的に住むような人も増える。そして、その地域を盛り上げるために地域通貨を持つ。こういう未来はきっと来るんだろうなと思いますね。だから僕は、その途中のピースを埋めるという感じでやっています」

地域通貨が作る、多様性に富んだカラフルな社会。東京への一極集中を覆す、「面白い」未来を待っている。

構成:弥富文次
編集:久保田大海
写真:CoinDesk Japan編集部