コロナワクチンをDIY、ビットコイナーたちの取り組みとは

匿名のビットコイナーたちは、学界、製薬会社、FDA(米食品医薬局)を飛び越えて、コロナウイルスのワクチン開発に自力で取り組んでいる。

コロホープ(CoroHope)と呼ばれるグループによる「バイオハッキング」の資金は、クラウドソーシングで集められたビットコイン。同グループは、FDAの認可を受けたワクチンの開発に10年携わった経験を持つ生物学者が参加していると主張した。

ブロックストリーム(Blockstream)の共同創業者マーク・フリーデンバッハ(Mark Friedenbach)氏をはじめとするビットコイン・コミュニティーの著名メンバーらは、この謎のチームを保証している(「詐欺ではない」と同氏はツイートした)。

そして、インスピレーションの源泉はビットコインの非中央集権的な精神だ。

「仮想通貨はこの問題にユニークな形で貢献できる。なぜなら我々と同様、伝統的なシステムの外側にあるから。我々の元々の支援者はビットコイナー。我々はこの問題についてビットコイン、そしてビットコイン開発者と協力していきたい。得られる限りのサポートが必要だ」とコロホープの広報担当者はCoinDeskにメールで語った。

FADが障害に

急速に拡大するコロナウイルスに対応できるワクチンの発見において、FDAが障害となる可能性があるとコロホープは考えている。なぜならFDAには、バイオハッカーから見ると、必ずしも公共の利益にならない厳格な承認プロセスがあるからだ。

「FDAに準拠した製造工程は信じられないほど過剰に規制されている。書類のための書類、4重のチェック、いつまでも続く委員会……役所仕事の最悪のケースだ。我々はもっと機敏に動くことができる」と広報担当者は述べた。

コロホープは、WHO(世界保健機構)がコロナウイルスのパンデミックを宣言することに3月11日までかかったことを指摘し、「世界中で続く対応の甘さによって、数千もの命が失われるだろう。残念ながらコロナウイルスは世界的パンデミックであり、率直に言って我々は規制当局が優れた対応をしてくれることを待つつもりはない」と述べた。

ビットコインに隣接した他の取り組み(3Dプリントの銃、オンラインのブラックマーケット)と同様、こちらも議論を呼びそうだ。

「誰かが新たな方法で何かを開発しようとすることに懸念はない。科学とはまさにそういったもの」とジョンズ・ホプキンス大学で生命倫理学と公衆衛生の教えるナンシー・E・カス(Nancy E. Kass)教授は述べた。

「しかし、ワクチンが適切な安全性と有効性のテストを経ていないのに、効果的があると主張し始めることは、有害かつ問題で、混乱や誤解を生むことになる」と同教授は述べ、FDA規則をガイドラインとしてあげた。

コロホープの広報担当者はこの意見に同意した。

「我々はコロイダルシルバーを万能薬としてテレビで売りさばくわけではない」と広報担当者は述べた。

「たとえ我々のワクチンが安全に投与されたという数千の報告、(中略)そして感染者とキスしてもワクチンのおかげで感染しなかったという報告が寄せられたとしても、効果的なワクチンと宣言することはない。それは明らかにFDAの管轄であり、我々にはFDAに対する人々の信頼を損なう意図はない」

CDC(疾病予防管理センター)にコメントを求めたところ、米国立衛生研究所(National Institutes of Health)に連絡するよう指示された。国立衛生研究所は質問があまりにも多く寄せられており、回答できないと述べた。FDAはコメントの求めに応じなかった。

重すぎる法的責任

コロホープはワクチン開発の新しい手法を用いているため、リスクを負っている。最も人気のビットコイン・フルノード・ソフトウエアであるビットコイン・コア(Bitcoin Core)に携わっているブライアン・ビショップ(Bryan Bishop)氏は「開発をまとめるため」にプロジェクトに加わったが、数日で辞めた。

患者に副作用をもたらした場合の「法的責任が重すぎる」とビショップ氏は述べた。

ビショップ氏は、昨今の医療責任に関する複数の問題の指摘した最近のニューヨーク・タイムズのコラムを引き合いに出した。FDAも製薬会社も悪い事態に関わりたくないのだ。

コロホープの広報担当者は、法的責任はまさに同グループのメンバーが少なくとも今のところ、身元を明かさないことを選んだ大きな理由だと述べた。

「現段階では匿名が好ましい。法的責任に関するブライアン氏の懸念はグループの他のメンバーも共有している」と広報担当者は述べた。

同じ理由で、コロホープはプロジェクト詳細の公表にも消極的だ。

「医療関係者がメンバーにいるかどうか言うことはできないし、言う必要はない。我々は関連する専門知識を持つ人々を積極的にプロジェクトに誘っており、この取り組みに参加しているすべての人の安全を最大限に確保するために、参加している間はプライバシーに十分気を配ることを勧めている」と広報担当者は付け加えた。

広報担当者によると、コロホープは「今のところ、わずかなビットコインのみ」を受け取った。コロホープはアドレスを公開したが、当記事公開時点では取引は行われていない。

だが、同グループは「この取り組みのプライバシーに敏感な性質」を理由に寄付者に対して、個別のビットコインアドレスを取得するために直接連絡することを勧めている(取引ごとに新しいアドレスを利用することは、プライバシーの観点では最善の方法と考えられている。パブリックブロックチェーンでの資金の流れを追跡することが困難になるためだ)。

効果の保証はない

コロナウイルスは急速に拡大しているが、コロホープがどのくらいの期間でワクチンを開発できるかはわからない。そもそも効果があるかも。

「これは治療法ではない」とコロホープは計画を説明した文書で警告した。

「未試験のワクチンはおそらく効果がなく、なんの保証もない。政府、巨大企業、あるいはバイオハッカーの集団のいずれが開発したとしても同じことだ。他のどんな薬もそう。我々の最優先事項は我々が開発するワクチンが有害ではないことを保証することであり、潜在的効果の優先度は安全性の次だ」

この慎重な免責事項は「控えめに約束をして、約束以上のものを届けるという多くの警戒心」から追加されたとコロホープの広報担当者は述べた。

「こうしたワクチンが効果を持つ可能性は小さい(バイオテック企業アイノビオ[Inovio]のワクチンでもおそらく20%、我々は最適化の資金を何百万ドルも持っていないため、さらに低くなる)」と広報担当者は続けた。

「しかし費用便益分析を行った時、ほんのわずかな可能性でも投資する価値はある」

他のバイオハッカーたちも、伝統的なシステムが持つ問題を回避したいという願いを共有している。

例えば、アナーキストでトランスジェンダーのバイオハッカーは、しばしば自分たちに不親切な医療システムを避けるために、自作のエストロゲンとインシュリンの製造に取り組んでいる。

しかし、バイオハッキングの動きは広がっているが、ワクチンのバイオハッキングはきわめて新しいことだ。

「我々の知る限り、ワクチンをバイオハックした人はまだいない」とコロホープの広報担当者は述べた。

こうした他に類を見ないほど致命的なウイルスには、先駆的アプローチがより合理的かもしれないと広報担当者は主張した。

「新型コロナウイルス(COVID-19)は1918年のスペイン風邪以来(それを超えることはないが)、そして間違いなくバイオハッキングが話題になって以来、最も危険なウイルスだ」

プラスミドワクチン

だが、コロホープにはプランがある。

具体的には、アイノビオ・ファーマスーティカル(Inovio Pharmaceuticals)の取り組みにインスピレーションを受け、いわゆるプラスミドワクチンを作ろうとしている。ペンシルベニアに拠点を置く上場企業アイノビオは試験に成功し、4月に人間での臨床試験を行う予定と述べた。

少人数のコロホープのチームには、実験を行う「ウェット」ラボに1名、クラウドソーシングで十分な寄付が集まればもう1名が「待機」し、そして「生物学分野以外」に数名がいる。

最終的に、コロホープは開発したDNAシーケンスやハードウエアをすべてパブリックドメインに入れ、オープンソフトウエアと同様に、誰もが調査・修正・利用できるようにする計画だ。

「我々のチームの生物学者たちは、臨床試験のために数グラム規模でプラスミドDNAワクチンを製造した経験を持つ」とコロホープの広報担当者は述べた。

「詳細をあまり明かすことはできないが、それは政府機関のためのもので、契約メーカーのもとで行われた。彼らは10年以上にわたって生体分子の製造も行い、その経験はすべて関連している。分子生物学者なら誰でも実験キットでプラスミドを作った経験はある。だが産業規模で行うには、我々が持つ専門的知識が必要だ」

当初集まった資金でコロホープが最初に目指すことは、プラスミドDNAワクチンを開発して「プラスミドを設計・合成し、予備試験を行って、それを関心を持つラボに送ること」だ。

文書によると、コロホープがさらに資金を集めることができれば「我々はワクチン製造を開始し、規模を拡大し、ワクチンを配布できる」。だが、コロホープは自分たちができることには限界があると考えている。

「ワクチンの安全性を確保するために品質コントロール試験は行うが、我々は臨床試験や動物実験を行うことはできない。その部分はコミュニティに詳細に議論してもらう」と文書には記されている。

アイノビオや別の会社のワクチンがすぐに承認されたとしても、全員に必要な量を製造するためには「しばらく時間がかかる」。そのため、取り組みは有益なものになり得ると広報担当者は述べた。

「リストの最後にいる人たちも、自分の健康を自分たちの手に収める権利がある。我々の最終目標は、そうした状況にあって伴うリスクを理解しているすべての人が、我々のワクチンを入手できるようにすることだ」

翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸
写真:Shutterstock
原文:Bitcoiners Are Biohacking a DIY Coronavirus Vaccine