コロナ拡大のなか、大規模監視はプライバシーへの脅威となる

新型コロナウイルスは世界中で我々の日常生活を急速に変化させている。 

中国は人の移動に大規模な制限を課し、都市全体の封鎖を行っている。フランスは大人数の集まりを禁止した。

アメリカは大多数が在宅勤務できるようにする措置を取り、時給で働く人たちが体調を崩したり、自宅隔離を余儀なくされた際の支援も検討している。ニューヨーク・タイムズのコラムのタイトルが状況を端的に表した。「パンデミックにおいては皆が社会主義者」だ。

新型コロナウイルスの感染拡大の封じ込めに取り組む各国政府は、利用可能なあらゆるツールを活用しようとしている──大規模な監視ネットワーク、携帯電話の追跡、AI(人工知能)や顔認証などだ。

社会の健康を保つために、あらゆる選択肢を使うことは理にかなっている。だがそれは、ウイルスが(願わくば)去った後に対処しなければならない、プライバシーに対する問題を引き起こしている。

スマートAI流行予防ソリューション

9.11(アメリカ同時多発テロ)の直後、政府の監視能力が大幅に増大し、巨大テック企業が我々のデータ(ビッグデータ)から価値を見出すことをベースにビジネスモデルを構築してきたことから、間違いなく我々が学んだ通り、緊急対応時には良いとされることは通常の日常生活にはふさわしくないかもしれない。

中国では、高い企業価値を誇るAI企業センスタイム(商湯科技、SenseTime)のシステムが、体温の高い人やマスクを着用していない人を認識するために複数の都市に配備された。

自社ウェブサイトでセンスタイムはその「スマートAI流行予防ソリューション」をアピールしている。

同社は「人混みの中で体温の高い人を抽出・検知する素早く、効果的なシステム。AIを使ったこのソリューションは、ビルのエントランス、空港、電車や地下鉄の駅を含む公共の場所、オフィスビルに配備可能。このソリューションは、サポートスタッフが発熱──コロナウイルス感染を示す症状──した個人を直接身体に触れることなく特定することを可能にし、感染リスクを最小限にする」と記している。

センスタイムはBBCに対して、同社の技術は北京、上海、深センに配備されたと語った。メグビー(Megvii)などの他社も同様の製品をアピールしている。同社によると製品は北京で展開されており、「身体検知、顔検知、赤外線カメラと可視光によるデュアルセンシングを組み合わせた、AIベースの体温検知ソリューション」と同社は説明している。

ロシアでは、隔離された個人が自宅やホテルから出ないようにするために顔認証技術が配備されている。

スマートフォンの位置情報

個人の追跡に使われているのは監視カメラだけではない。多くの人が常に持ち歩いている、まさにうってつけのデバイスがある。スマートフォンだ。

中国の情報通信企業は顧客の移動記録を政府に提供し、ユーザーに最近、感染エリアに立ち寄ったかどうかを知らせている。一方、シンガポールなどでは、ライドシェアリングアプリからのデータを通じて、感染した個人の動きを追跡している。オーストラリアのモナシュ大学の研究者らが明らかにした。

国営の中国電子科技集団(CETC)は、新たな政府プラットフォーム「濃厚接触検知器(Close Contact Detector)を開発した。

このプラットフォームは同国の交通運輸部、中国鉄道、航空当局から提供されている公開された移動データを医療当局からの情報と組み合わせている。ユーザーは、アリペイ(Alipay)、ウィーチャット(WeChat)、QQを使ってこのサービスにアクセスできる。

アプリ自体は一生にわたってユーザーの位置情報を追跡するために使うことができる。最も恐ろしい例の1つは、利用が義務づけられているアリペイ・ヘルス・コード(Alipay Health Code)で、移動の自由に影響、隔離されるべきか、公共の場への立ち入りを許可するか否かを決定する。また位置情報は警察にも共有される。

ニューヨーク・タイムズは「ユーザーがソフトウエアに対して個人情報へのアクセスを許可するとすぐに『reportInfoAndLocationToPolice』と名づけられたプログラムがその人の位置情報、都市名、個人を特定できるコード番号をサーバーに送ることを突き止めた」。

このアプリがどのように機能するのか、どのようなデータを収集するのか、データはどこに送られるのかについて、透明性はないに等しい。

極端な状況下の極端な方法

「新型コロナウイルスの流行とともに、リスクスコアリングや移動の制限というアイデアは急速に現実になった」とヒューマン・ライツ・ウォッチ(Human Rights Watch)の中国担当シニアリサーチャー、マヤ・ワン(Maya Wang)氏はガーディアンに語った。

「今後、テクノロジーはますます抑圧的に使われ、人々がそれに抵抗することは難しくなる」

「ゾッとするよう展開」とワン氏は述べた。

「大規模監視のテクニックは複数のイベントの後、より永続的なものになった」

つまり、2008年の北京オリンピックや2010年の上海国際博覧会などのイベントは、大規模監視を中国で当たり前のものに変えた。同じことはコロナウイルスでも起こり得る。

香港の英字新聞サウスチャイナ・モーニング・ポスト(South China Morning Post)によると、武漢の当局はデータ収集要件を強化し、パンデミック予防分析のためのデータとして小売店での買い物やタクシー利用のデータを調査している。

ここ10年にはなかったパンデミックと世界が戦うなか、こうした対策は不可欠と主張するのは当然だ。しかし、中国政府はささいな部分を大々的にアピールする習慣がある。

「ビッグデータとインターネットの時代に、個々人の移動は明確に見ることができる」と国家衛生健康委員会の顧問リ・ランジュエン(Li Lanjuan)氏は国営テレビで述べたとBBCは伝えた。

だがこれらは、極端な状況に対処するために取られた極端な方法だ。通常の、合理的で不可避なものとして扱うべきではない。

さもなくば、パンデミック以上に、何十億もの人々の生活を根本的に変えてしまうことになるかもしれない。

翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸
写真:Shutterstock
原文:Mass Surveillance Threatens Personal Privacy Amid Coronavirus