コロナ対策に3Dプリンターを活用、だが知的財産権が課題──ブロックチェーンは解決策になるか?

キャシー・バレラ(Cathy Barrera)氏はコンサルティング企業プリズム・グループ(Prysm Group)の創業時からのエコノミストで、ジップリクルーター(ZipRecruiter)で主任エコノミストを務めた経歴を持つ。ハーバード大学でビジネス経済学の博士号を取得した。

マスク製造に3Dプリンターを活用

イタリアのスタートアップから、アメリカの一地方の学校まで、多くの組織が人工呼吸器の部品やマスクなどの個人用保護具(PPE:personal protective equipment)への世界的に切迫したニーズに応えるため3Dプリント技術を採用している。

危機の際には、供給と需要のギャップは拡大し、表面化する。3Dプリントはこれらの問題を解決するための最適なソリューションだ。

現在、これらの危機的な不足に対して、その場しのぎの対応が行われている。非効率的で、間違っている。

そうではなく、必要な物資をシームレスに供給できるように、アメリカは全国規模での強固な3Dプリントの製造能力を必要としている。現在のパンデミックの間にこれを実現することは明らかに不可能だが、次の危機が訪れる前にそうした製造能力を整えるべきだ。

オバマ大統領による構想をはじめとして、これまでの取り組みは行き詰まってきたが、我々は今、このタスクを達成するために必要なツールとリソースを手にしている。

この目標を達成するために残された課題は、技術的なものではなく経済的なものだ。重要なことに、ブロックチェーンはこの課題を克服するために重要な役割を果たす。

3Dプリントの3つのメリット

危機によるこれらの緊急課題に備える方法の1つは、備蓄だ。しかし、我々が目撃し、医療従事者が直接体験したように、今必要な物資は耐久性がないため備蓄がうまくいかないことがある。別の有望な方法は、3Dプリントを使って一部の物資の需要を満たすことだ。

3Dプリント技術には、需要と供給の想定外のギャップを解決するために最適な3つの大きな特徴がある。

第1に、伝統的な製造技術と比べて、3Dプリントはより柔軟性がある。適切な原材料と設計図があれば、必要なものは(ほぼ)何でも、機械を再配置することなく同じ機械で作ることができる。

第2に、3Dプリントでは物資が利用される場所の近くで製造を行うことができる。これによって輸送コストを削減し、現地のニーズに基づいた製造を行うことができる。

第3に、3Dプリントでは物資をオンデマンドで製造し、それをほぼ即座に使うことができる。

実際の製造にかかる時間には幅があるが、再配置と輸送にかかる時間を削減することで、不足の対処にかかる全体のスピードはより速くなる。

こうしたメリットが存在するにもかかわらず、3Dプリントはアメリカの耐久消費財のGDPの0.90%(アメリカの全GDPの0.06%)に相当する121億ドル規模の産業に過ぎない。

自宅での製造を可能にするという当初の期待を果たすことにはおおむね失敗している。しかし、普及不足はもはや技術的な問題のせいにはできない。3Dプリンターの能力はこの10年で大幅に改善した。

現在、最高水準の3Dプリンターは、250を超えるさまざまな原材料を利用でき、以前の3Dプリンターより100倍も高速で、90%の材料効率を実現している。3Dプリントで作られた品物の強固な市場を実現するための障害は、むしろ経済的なものだ。

知的財産権という悩みの種

3Dプリントによる大規模な製造──特にリモート製造──の実現に立ちはだかる大きな課題は、物資のデザインを生み出す人たちの知的財産権の保護にある。

デジタルグッズは保護が難しいことで知られている。例えば、1990年代後半から2000年代前半にかけて、音楽のデジタル化とインターネットによって数百万もの楽曲の著作権が侵害された。同様の問題はデジタル化された映画や書籍でも浮上している。

3Dプリントの設計の権利が保護されなければ、供給元が革新的で社会的に有用な物資を届けるための十分なインセンティブはなくなる。

この問題はこれまで、デジタル著作権管理(DRM:Digital rights management)としてさまざまなスキームで取り組まれてきた。

だがこれらのスキームで繰り返し発生する問題は、知的財産権を保護するために単一の仲介者に依存するという点だ。この単一の仲介者は購入者と販売者の双方にとって問題がある。

アップルのiTunesのDRMは有名な例だ。アップルは、競合の音楽販売業者をiPodから排除するためにDRMを利用したという訴えを退けることに成功した。アップルは、iPodのソフトウエアを改善するためには、競合が締め出されることになったアップデートは必要だったと主張した。

ブロックチェーンの可能性

ブロックチェーンは、仲介者なしで知的財産権を管理する技術として有望だ。過去に試されたDRMソリューションとは対照的に、ブロックチェーンベースのシステムはさまざまなプラットフォームやフォーマットを超えて同じコンテンツに誠実なユーザーがアクセスすることをより簡単に実現する。

DRMの万能薬ではないが、暗号化と組み合わせれば、各コンテンツの購入と移動を記録するブロックチェーンは著作権侵害を検知し、責任の所在を明らかにすることをより簡単にするだろう。

3Dプリントの設計の著作権侵害を完全になくすことはできないとしても、技術的、経済的に適切に設計されたブロックチェーンベースのプラットフォームは、DRMを回避するために必要なコストを引き上げる。多くの3Dプリンターを使った製造者にとっては、シンプルに設計にお金を支払う方がより魅力的なことになる。

3Dプリント製造の利用増加をサポートするためには、デジタル財産権に取り組む必要がある。

強制力のある財産権、十分に練られた契約、そして適切な市場設計によって、購入者は販売者を信頼でき、販売者はデジタル市場に参加するための適切なインセンティブを与えられる。これらの経済的課題が克服されれば、「平常」時の利用のための3Dプリントの製造能力を高めることができるだろう。

我々の最も重要なサプライチェーンにおいて3Dプリントが実現する柔軟性、地域性、適時性は、次の大きな危機に対して我々を準備万端な状態にしてくれる。

翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸
写真:Shutterstock
原文:3D Printing Could Help Now, Except for the IP Issues