ハーバード大が経済再開の行動計画案を発表──暗号資産の第一人者も協力

ハーバード大が経済再開の行動計画案を発表──暗号資産の第一人者も協力

イーサリアムコミュニティの理論的リーダーは、ハーバード大学が発表した新型コロナウイルス対策のアクションプラン作成において重要な役割を果たした。

民主主義の防波堤

ラディカルエクスチェンジ・ファウンデーション(RadicalxChange Foundation)の創業者で、マイクロソフトの主席研究者でもあるE・グレン・ワイル(E. Glen Weyl)氏は、ハーバード大学のダニエル・アレン(Danielle Allen)教授や他の専門家と協力して、「Road to Pandemic Resilience(パンデミック回復力ロードマップ)」を作成した。

56ページにおよぶ文書は、通常の人々の暮らしに永続的な打撃を与えることを防ぎつつ、健康を守るための検査の拡大、追跡、支援された隔離をを行う道筋を示している。

「公共衛生の分野では、専門家が大勢いる(中略)だが、あるべき政策フレームワークを考えるために他の人たちと連携した形で取り組んでいない。経済についても同じように感じた」とワイル氏はCoinDeskに語った。

ワイル氏とアレン氏は、学術界、産業界に強力な影響力を持ち得るグループを組織した。

メンバーは、ブログ「マージナル・レボリューション」を運営する2人の経済学者の1人のアレックス・タバロック氏、ロードマップの解説動画を作成したユーチューブ(YouTube)界のレジェンド、ヴィ・ハート(Vi Hart)氏をはじめとするワイル氏のマイクロソフトの同僚たち、ハーバード大学の教授陣、そしてブレークスルー・インスティチュート(Breakthrough Institute)、ニュー・アメリカ(New America)といったNGOのリーダーなどだ。

ハーバード大学のエドモンド・J・サフラ倫理学センター(Edomond J. Safra Center for Ethics)での今回の取り組みは、まずは一連のホワイトペーパーと議論を通じて行われ、最終的には4月21日に発表された文書にまとめられた。ワイル氏はこの文書を「コンピレーション」と呼んだ。

報告書は次のように結論付けている。

「大志を高め、素早く目的を持って行動すると決意すれば、我々は存続に関わる脅威に対する民主主義の防波堤となることができる」

戦いの努力

この計画の核となるのは、新型コロナウイルスには大規模に拡大した検査と追跡で対処しなければならないという考え方だ。さらに、ウイルスに接触した合理的な可能性がある人々は、彼らを悲惨な状態にしたり、キャリアを損なったり、他の人に感染させることのないような形で隔離されるべきと述べている。

計画のポイントは、強力だが限定的な権限を持つ一時的な組織設立の提案だ。第2次世界大戦時の軍需生産委員会(War Production Board)と同じような考え方から、パンデミック検査委員会(Pandemic Testing Board)と名づけられている。

「この計画で我々が主張していることは、経済の非常に狭い範囲について、すべてを調整するためにさまざまな人たちとともに取り組むことによって、権限の本当の集約を手にすることだ」とワイル氏は述べた。

並外れた権限を持つ中央集権的な権威は、ラディカルエクスチェンジが通常提示する処方箋ではないことをワイル氏は認めた。

「我々の動きにとって、多くの中央集権化は大きな焦点ではない」

しかしワイル氏も執筆に協力した報告書は、今は異常事態と指摘した。

「そうした急速な協調が成功したほぼすべての歴史的事例において、中央当局は、目標を設定し、全体が成功するために必要とされた相互に連動した目標を各パートが確実に達成できるようにした。この権限は、サプライチェーンにおけるレベル、望まれる目標を達成するために各レベルに求められるアウトプットの種類を明確にし、すべてのパートがこの計画と調和して動くように誘導し、システムに対する不信につながる一部の失敗を回避しなければならない」

分散化された中央集権化

連邦政府単独の指揮統制型の対策によって新型コロナウイルスに打ち勝とうとするのではなく、そうしたモデルは民間組織を政府のさまざまなレベルと融合させた場合にのみ機能することを、当局が認識してくれることを望むとワイル氏は述べた。

「もちろんラディカルエクスチェンジは、その種の新しい協調を大いに支持している。あらゆるものをサポートするために、多くの新しいテクノロジーで補完する必要がある」

「Design of the Pandemic Testing Board(パンデミック検査委員会の構成)」というセクションで、報告書はそうした委員会を招集するための2つのモデルを提示し、ワイル氏は特に、議会が資金を出すが、各州の同意を通じて招集される組織を想定した「連邦主義者モデル」に注意を向けた。

ワイル氏はこれは政治的に可能と述べた。なぜなら、連邦政府のリーダーたちは国家的な対策をまとめ上げることに失敗し、州政府のリーダーたちは実際には、より分散化した方法でその空白を埋めることができる可能性がある。

「トランプ政権が直面した課題は、我々にとっては励みになっている。なぜなら、新型コロナウイルスに対処するために、より分散化したアプローチを取ることになることを示しているから」とワイル氏は述べた。

報告書は、柔軟なTTSI(Testing, Tracing & Supported Isolation)戦略を用いて、経済の中で必須とされる40%でウイルスの感染を安定させることに当初は焦点を当てる戦略を提示している。

「経済のその部分を安定化できれば、残りの部分を再開させることはずっと容易になる」とワイル氏は指摘した。

台湾

新型コロナウイルスの感染が拡大する以前、ワイル氏は台湾の成功に関心を持ち始めていた。

ワイル氏とバーチャルリアリティのパイオニア、ジャロン・ラニアー(Jaron Lanier)氏は、いかにして台湾のハッカーカルチャーが、危機についてのデータをシェアするアプリケーションを作成するために集結し、人々をより良く備えさせ、パニックに陥ることを回避したかについての記事を発表した。

台湾の成功は、この危機を通じて良く伝えられており、ラディカルエクスチェンジは、同国の新型コロナウイルス対策組織と直接つながりを持っていた。台湾のオードリー・タン(Andrey Tang)デジタル大臣は、ラディカルエクスチェンジのボードメンバーでもある。

ワイル氏は、タン大臣が現場で働く人々と連携させるために技術者を派遣し、人々の実際のニーズに合うソリューションを生み出すことに深く関わっていたことを発見した。

「台湾が本当に正しく行ったことは、テクノロジーの融合と、そそのテクノロジーを開発するためにさまざまな人々に権限を与えたことだと思う──暗号資産は常に正しいわけではない」とワイル氏は述べ、個人のプライバシーを保護した接触履歴の追跡を例にあげた。

テクノロジー

ハーバード大学が報告書を発表する少し前に、ラディカルエクスチェンジは今回の危機で有用となるかもしれない問題解決のための分散型アプローチの事例を発表した。

ハーバード大学のロードマップはブロックチェーンや関連する技術に言及していないが、ワイル氏はブロックチェーン業界は果たすべき重要な役割を持っていると述べた。

例えば、接触履歴の追跡のためにモバイル技術を使う問題がある。ワイル氏は、広い都会エリアにおいてそうした追跡を行うために、技術は特に重要と説明した。

誰かに話を聞き、地下鉄で乗り合わせたすべての人を突き止めることはできないが、携帯電話に搭載されたブルートゥースを使えば、暗号化ツールを用いて、感染した人の個人情報を誰かに明かしたり、またその逆をすることなく、アプリケーションによって感染者との接触を確認し、警告することができる。

プライバシー保護論者が、これらの技術をこのように使うことに大いに懐疑的なことはウェイル氏も承知しているが、よりプライバシーを保護するような方法で暗号化ツールを組み込む余地はあるとワイル氏は述べた。

アップルとグーグルが進めている取り組みのようなレベルでさえ、「それなりの役割を担う可能性はかなり大きいと考えている」とワイル氏は述べた。

加えて、パンデミック環境がアメリカに真に壊滅的な打撃を与える形で市民参加を弱体化させることをワイル氏は懸念している。

「民主的な関わりを維持するために、台湾のデジタル民主主義プラットフォーム『V台湾(VTaiwan)』のようなシステムをぜひ手に入れたい」

V台湾は、テクノロジーを活用した公の審議プロセスであり、ここ数年にわたって台湾での法案の制定を促進してきた。リモートワークが進む現在の状況に大いに適用できる。

「この計画が採用されれば、そして我々はその可能性はかなり高いと考えているが、私は焦点をそうした取り組みの方に素早く転換する」とワイル氏は語った。

経済

最後にワイル氏は、厳重な公衆衛生の取り組みと経済的打撃を緩和する方法を結びつけるという、微妙な目標を念頭に置いてこのプロセスに参加したと述べた。

危機が広がるにつれ、ワイル氏は政治家が「公衆衛生の状況を他の不況のように扱う」姿を目の当たりにした。

「これは当初我々があらゆるものに対応していたなかでの大きな問題だった。彼らは1つのコインの両面としてではなく、2つの独立したものとして捉えていた」

暗号資産ユーザーは長年、アメリカ政府とアメリカ企業がいかに経済を管理しているかについて批判的で、ときにはアメリカは新たな崩壊に向かっていると主張したが、ワイル氏は今回の危機の影響は、完全に政府や企業のせいにするには大きすぎると述べている。

「経済的問題に向かっていたとの意見に共感している。我々が目にした崩壊はきわめて極端なものだった。まったく異なる経済レベルのものだ」とワイル氏は語った。

「歴史において、最も深刻な経済の落ち込みかもしれない」

そしてこの深刻な落ち込みは、債務超過の企業や過剰なドルだけでなく、人々が実体経済にあまり参加していないという事実にも関係している。

これがいわゆる「実体経済」において、あらゆる種類の奇妙な影響をもたらしている。例えば、サプライチェーンが必要な場所にルートを変更する方法を見つけられなかったり、ある種の保険会社が誰も予期しなかった方法で事実上、お金を発行している。

暗号資産や他の業界では、自宅待機命令の合法性について熱心な議論が行われているが、封鎖の影響は命令以上に続いていくとワイル氏は述べた。

だからこそ、人々が再び参加しても安全だと合理的に感じることができるように、できるだけ早くTTSIが必要とワイル氏は主張した。

「正直なところ、祖父母を死に至らしめたくないから、多くの人々は自宅にいるのだと思う。だから自宅待機命令を解除することは解決策ではないと思う」

Harvard Roadmap to Pandemic… by CoinDesk on Scribd

翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸
写真:Christine Kim for CoinDesk
原文:How a Crypto Guru Shaped Harvard’s Roadmap for Reopening the US Economy

おすすめ記事: