サマーズ元米財務長官、お金の問題は「プライバシーがあり過ぎること」【Consensus: Distributed】

ローレンス・サマーズ元米財務長官は、政府が発行する通貨には「プライバシーがあり過ぎるのかもしれない」と述べ、マネーロンダリングの蔓延、汚職で手に入れたお金の保管や移動に広く使われていることを指摘した。

トレーサビリティはメリット

「今、我々がお金について抱えている問題は、あまりにも多くのプライバシーが関連していると思う」とサマーズ氏は5月11日、米CoinDeskのバーチャルカンファレンス「Consensus: Distributed」で語った。

「法外な額の脱税、汚職や麻薬取引にまつわる数兆ドル規模のマネーロンダリングにおいて、政府の政策の最も望ましくない目的は、大規模な金融取引に関して匿名性を推進することだ」

暗号資産(仮想通貨)コミュニティや他のコミュニティーにおいて、多くの人はお金のデジタル化と物理的な現金の排除はジョージ・オーウェルが描いたような監視国家につながると懸念しているが、サマーズ氏はトレーサビリティ(追跡可能性)は欠陥ではなく、メリットと率直に主張した。

中央銀行がデジタル通貨を発行する理由があるとすれば、「それは逆のこと」と同氏は述べた。

「大規模なプレーヤーと小規模なプレーヤーの間の競技場を平準化し、匿名の金融がはびこることをより困難にすること。すべての重要な自由の中で、数百万ドルの取引を匿名で行う能力は、最も重要ではない自由の1つだ」

プライバシーへの懸念も

サマーズ氏の発言は、欧州中央銀行(ECB)のイブ・メルシュ(Yves Mersch)専務理事の姿勢とは対照的だ。メルシュ氏は同じ日の基調講演で、デジタル通貨について一部の人が持つプライバシー上の懸念に共感を示した。

「トークンベースのデジタル通貨は完全な匿名性を保証しないかもしれないという意見もある。仮にそれが事実であることが証明されると、社会的、政治的、法的な問題が必然的に浮かびあがることになる」とメルシュ専務理事は述べた。

しかしサマーズ氏にとって、政府の認可を受けた匿名のデジタル通貨は、1970年代以降の金融犯罪への取り組みにおいて政府が遂げてきた前進を損なうことになる。

「金融コミュニティーの功績の1つは、銀行の秘密主義をめぐる問題についてある程度の進展が見られたことであり、主権的な収益を得るための取り組みにおいて一部の国々において後退するとしたら、あるいは匿名の価値の保管手段を提供することによって競争に加わることになるとしたら、悲劇的なことだと思う」とサマーズ氏は語った。

インフレ懸念は賢明ではない

もう1つの話題についてサマーズ氏は、新型コロナウイルスに対する救援策の一環として中央銀行がグローバル金融市場に供給している数兆ドルのお金によってインフレが蔓延すると考えることは「賢明ではない」と述べた。

エコノミストは2008年の金融危機の後、FRB(連邦準備制度理事会)のバランスシートは「将来、大規模なインフレを引き起こす」と警告したとサマーズ氏は述べた。だが、そうはならなかった。

「今回のバランスシートの拡大は必然的にインフレの到来を示すと考えることは賢明な判断ではない」

先週発表されたレポートによると、FRBの資産は2月末から62%増となる6兆7000億ドルに急増した。

一部の暗号資産投資家は、中央銀行による資金供給が引き起こすインフレの可能性に対して、ビットコインはヘッジとして機能すると主張している。

しかしアナリストは、消費者需要の低迷と高い失業率は物価と賃金の上昇圧力を弱めるため、景気後退はしばしばデフレに陥る可能性があると指摘している。

サマーズ氏は、「今回の混乱の大きさを考えると、インフレのリスクが3カ月前よりも大きくなっていることを認識しないことは愚かなことだろう」と認めた。

新型コロナウイルスが経済と市場に及ぼす壊滅的な影響を緩和するために当局が取り組むなか、「財務省とFRBの役割は不鮮明になる」可能性が高いとサマーズ氏は述べた。

「必然的に、通貨政策と財務政策の役割はより重複するようになるだろう。中央銀行の独立性が最重要視される時期は過ぎた」

翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸
写真:CoinDesk
原文:The Problem With Money Is ‘Too Much Privacy,’ Says Ex-US Treasury Secretary Summers