ビットコインはアマチュア無線、その存在価値とは?

ビットコインを理解することは難しいから、人はわかりやすい「たとえ話」として、ビットコインはEメールだ、デジタルゴールドだ、eキャッシュだと言う。

ただ、どれも的を得た表現とは言い難い。ある程度うなづける説明として、こんな呼び方がある──ビットコインは「アマチュア無線」だ。

J.P. コニング(J.P. Koning)は、カナダの証券会社の元リサーチャーで、現在はカナダの大手銀行で金融ライターとして働き、人気ブログ「Moneyness」を運営している。

見方を変えると、ビットコインは古臭いものとも言える。ビットコインブロックチェーンのダウンロードには何日もかかる(1994年にソフトウエアをダウンロードするのに膨大な時間がかかったように)。送金サービスを使えばリアルタイム決済ができる時代に、ビットコイン決済には60分かかるのだ。

数千ものコンピューターが常にそれぞれの作業を複製していて、きわめて非効率だ。さらに何と言ってもプライバシーがない。中世の市場のように、誰もが保有状況を見ることができる。こうした特徴は時代遅れとも言えるが、ユニークでもある。

ニッチな趣味「アマチュア無線」

アマチュア無線(ハム)は、愛好家同士が特定の周波数帯を使って声や信号でコミュニケーションをとる。その歴史は古く、イタリア人発明家のグリエルモ・マルコーニ(Guglielmo Marconi)が1896年に、イギリスのソールズベリー平原でモールス信号を送信する実験を行った。

アマチュア無線のように古めかしいものが、メールやスナップチャット(Snapchat)、iPhone、フェイスブック(Facebook)と同じ世界に存在していることはとても奇妙に思える。数キロメートルほどしか通信できない。絵文字も動画もGIFもなければ、プライバシーもない。誰でも他の会話を聞くことができる。

それでもアマチュア無線無線は依然として盛んなニッチ分野だ。世界中の協会がアマチュア無線を存続させている。

アメリカ無線中継連盟(American Radio Relay League)によると、アメリカには約76万4000人のアマチュア無線オペレーターがいる。日本には100万人以上が存在する。国際アマチュア無線連合(International Amateur Radio Union)は、世界のアマチュア無線資格保有者を300万人としている。

ビットコインも愛好家向け

アマチュア無線と同様に、ビットコインも愛好家向けだ。

コインベース(Coinbase)にビットコインを預けている熱狂的な投機家のことではない。

フルノードを実行し、ライトニング(Lightning)を使って、自分のビットコインを安全に保管し、頻繁に取引を行うユーザーのことだ。こうしたビットコイナーは少なく、恐らくアマチュア無線オペレーターよりも少ないだろう。

だが不思議なことではない。愛好家だけが、ビットコイナーに必要な技術を習得することに必要な時間と忍耐を持ち合わせている。

このことはアマチュア無線も同じだ。無線機をセッティングして、周波数をスキャンする。近くの愛好家を見つけるには時間と努力が必要だ。

ビットコイナーは、ビットコインが普及して主流となること、そしてビットコインによる法定通貨の打倒「ハイパービットコインゼーション(hyperbitcoinization)」を夢見ている。

現実は、アマチュア無線が主流にならなかったように、その可能性は低いだろう。人が求めるのは楽しくて使いやすいiPhoneであって、古臭いアマチュア無線ではない。

しかし、ビットコインが主流にはならず、ニッチなものにとどまったとしても、重要な役割を果たすことができる。アマチュア無線がそのヒントを与えてくれる。

アマチュア無線の重要な役割

大地震が起きたとしよう。最先端のコミュニケーションシステムは突如ダウンし、携帯電話サービスも電気も使えない。ワッツアップ(Whatsapp)もダメだ。インターネットにも接続できない。

そこで、アマチュア無線の出番だ。バッテリーやバックアップ用の発電機を使って、アマチュア無線はバックアップ用のコミュニケーションネットワークを再構築する。

誰かが困っていたら、緊急リクエストを次々と中継して送信できる。通常の範囲を超えて、遠くまで届けられ、どこかの時点で助けが得られる。

2005年、ハリケーン・カトリーナがアメリカを襲ったとき、電話回線はダウンし、救急通報システムは崩壊した。

アマチュア無線オペレーターは、緊急コミュニケーションネットワークを立ち上げて、即座に行動した。ニューオリンズで屋根の上に取り残された被災者からの救難連絡が、アマチュア無線を通じてユタ州へ、そしてルイジアナ州の救急隊員へと伝えられ、被災者は救助された。

2017年のハリケーン・マリアの襲来では、プエルトリコのアマチュア無線オペレーターは、アメリカ本土と連絡するための唯一の手段となった。秩序を取り戻すために、彼らは警察や電力会社と連携した。

2009年に津波がインドを襲った時には、最大級の被害を受けたインド洋のアンダマン・ニコバル諸島の島々でアマチュア無線ネットワークは唯一のコミュニケーション手段になった。

アマチュア無線の強み

なぜ、アマチュア無線は災害時に効力を発揮するのか?

ビットコインと同じように、アマチュア無線は反脆弱性を持っている(つまり、脆弱ではない)。アマチュア無線オペレーターは独立ノードとして連携することで、分散型のピアツーピア(P2P)コミュニケーションシステムを作り上げることができる。

アマチュア無線は簡便でエネルギー効率が良いため、電力会社のような、脆弱な中央集権型システムへの依存度が小さい。そしてビットコインネットワークと同様に冗長性が高い。仮に1つのノードが機能していなくても、他のノードが機能する。

アマチュア無線のようなニッチなものが災害時に重要な役割を果たせるのであれば、ビットコインもそうした役割が果たせるだろう。ビットコインシステムが役に立つ災害とはどのようなものだろうか?

ビットコインの強み

データサイエンティストであるマット・アールボーグ(Matt Ahlborg)氏の研究がヒントになる。同氏はベネズエラやナイジェリアの人々が送金のためにビットコインを使っていることを突き止めた。これらの国の政府がウエスタンユニオン(Western Union)のような通常の送金手段に対して、人為的に高い料金を課しているためだ。

もう1つ、ヒントがある。アメリカの一部の州では合法ドラッグの販売者はクレジットカードでの支払いの受け取りが認められていない。その代わりにビットコインで受け取っている。

あるいは、ペイパル(PayPal)がサービス提供を停止した際にビットコインでの寄付に移行したサイハブ(Sci-Hub、学術論文共有サイト)もある。

つまり、ビットコインネットワークが重要な役割を果たす災害は、おそらく従来型の決済システムが障害に陥ったような事態が関係してくるだろう。

分散型のバックアップを確保しておくことは良いことだが、ジル・カールソン(Jill Carlson)氏が指摘するように、こうしたバックアップが主流となった世界には住みたくないはずだ。5年後に皆がアマチュア無線を使うようになるとすれば、それはインフラを永久に破壊するような自然災害が起きた時だけだ。

同じように、5年後に「ハイパービットコイン化(ハイパービットコインゼーション)」が起こり、皆がビットコイナーになるとすれば、それは未知の災害が起きたような場合だけで、誰も望むことのない悲観的な後退だ。

翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸、佐藤茂
写真:Garvinfredforsale/Flickr
原文:How Bitcoin Is Like Ham Radio