サトシ・ナカモトの野望を果たすのはステーブルコインか──決済手段としてのビットコインに影

サトシ・ナカモトの野望を果たすのはステーブルコインか──決済手段としてのビットコインに影

ビットコインの相場が動かない。「まるでステーブルコインのようだ」とツイートされるほどだ。

「暗号資産(仮想通貨)業界の内外で起きていることを考えると、ビットコインがこれほどに退屈なことはまれだ」と暗号資産データのメッサーリ(Messari)は顧客に配信するメールに記した。

ビットコインをだまし取ろうと、オバマ元大統領やビル・ゲイツ氏などのツイッターアカウントを巻き込む大規模な乗っ取り騒動が起きた7月15日でさえも、ビットコインはわずか0.5%の下落にとどまった。

動きを止めたビットコイン、急拡大したステーブルコイン

「だまし取られたビットコインが全体から見ればわずかなものだったとしても、投資家はもはやビットコインは現金と同じようなものだと感じているだろう。ビットコインの方がはるかに追跡しやすいことを除いて」とビットブル・キャピタル(BitBull Capital)のジョー・ディパスクエール(Joe DiPasquale)CEOは述べる。

ビットコインの日足ローソクチャート。3週間以上、3%を超える値動きを見せていない。
出典:TradingView

ビットコインはサトシ・ナカモト氏がピアツーピア(P2P)決済の手段として設計された。ホワイトペーパーには「オンライン決済を一方の当事者から他方に直接送ることを可能」にする電子マネーの一種と書かれている。

およそ5年前に登場したステーブルコインは2020年、急速に拡大した。発行量は約120億ドル(約1兆3000億円)で、過去4カ月で2倍に膨らんだ。

暗号資産トレーダーは実際、ステーブルコインを使って取引所間で資金を移動させ保有する。投資家はステーブルコインを利用すれば、最大13%の利回りで貸し出すことができる。これは10年物米国債の20倍以上の利回りだ。

暗号資産取引所のビットスタンプ(Bitstamp)と調査企業コインメトリックス(Coin Metrics)が共同で発表したレポートによると、ビットコインの中核的機能とされた決済機能は、ドルと連動するテザー(USDT)やUSDコイン(USDC)などの「ステーブルコイン」に代替されつつある。

暗号通貨のパラダイムシフト

ステーブルコインの1日あたりの送金額は20億ドルを超えたが、ビットコインは20億ドルをわずかに下回った。国際送金やクロスボーダー決済では、「国際送金の容易さを考慮すると、ステーブルコインを利用する考えは理解できる」とアナリストらはレポートに記している。

「特にステーブルコインが爆発的に増えている今は、ちょっとしたパラダイムシフトのように思える」コインメトリックスのシニアリサーチアナリスト、ネイト・マドリー(Nate Maddrey)氏は言う。

送金額の推移(青:ステーブルコイン、赤:ビットコイン、緑:イーサリアム)
出典:Bitstamp/Coin Metrics

ステーブルコインの人気の高まりは、11年の歴史を持つ最も古い暗号資産であり、時価総額1700億ドルを誇るビットコインの有用性に関する難しい問題を提起するだろう。

「ビットコインが真の価値交換の手段になるような道はまったく考えられない」とマドリー氏は述べた。

ステーブルコインの台頭は、急速に変化し続ける暗号資産市場における新たな一章と言える。

起業家は「DeFi(分散型金融)」プロジェクトを発表し、金融企業は米国債や外国為替契約のような伝統的な資産をトークン化する準備を進める。フェイスブック(Facebook)は独自のデジタル通貨「リブラ(Libra)」の開発を加速させる。

大手決済企業のペイパル(PayPal)は、暗号資産取引機能の開始に向けて動いた。

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さらに世界中の国々は中央銀行デジタル通貨(CDBC)の研究開発を急ピッチで進め、最終的にはP2P決済の新たな選択肢となる可能性がある。最近では、日本とイギリスがデジタル通貨を検討していると伝えられた。

FRB(連邦準備制度理事会)はまだ独自の案を公表していないが、為替レートがドルに連動している国の中には、米ドルの代わりとなるCBDCを作れるかもしれない。

ステーブルコイン vs CBDC

CBDCはステーブルコインの需要を抑えることになるだろう。ステーブルコインの多くは、透明性が低く、信用力に乏しい新興企業が発行している。

「ステーブルコインでもらうか? それともドルに連動した法定通貨を持つ主権国家が発行するCBDCをもらうか? そう聞かれたら、私はCBDCを受け取りたいと答えるだろう」とデジタル資産企業ディジネックス(Diginex)のマット・ブロム(Matt Blom)氏はインタビューで述べた。

サンディエゴに拠点を置く暗号資産投資のブロックフォース・キャピタル(Blockforce Capital)は15日付の投資家向けレポートで、少なくとも今は、ステーブルコインの貸付や預け入れから十分な利益が得られると記している。

「ステーブルコインはデジタル資産のエコシステムにおける有用性を証明している。金利が下がり、場合によってはマイナス金利になっても、良質な取引相手にステーブルコインを貸し出すことで、我々が8%近くの利回りを得ている。伝統的金融業界の友人たちはショックを受けているだろう」(投資家向け月報)

ステーブルコインと中央銀行デジタル通貨(CBDC)を取り巻く動きが活発化するなか、ビットコインが暗号資産における主役の座を明け渡す日は来るのだろうか?

翻訳:新井朝子
編集:増田隆幸、佐藤茂
写真:Kon Karampelas/Unsplash
原文:First Mover: ‘Boring’ Bitcoin Shrugs Off Twitter Hack as Stablecoins Co-Opt Satoshi’s Dream

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