イーサリアムの大規模アップデートは新たなデリバティブ市場を生むか

より速い、より効率的なネットワークに進化するため、イーサリウムブロックチェーンは大規模アップグレード「イーサリアム2.0」を進めている。アップグレード作業が暗号資産市場にもたらす影響は何か?

イーサリアム2.0の新しい「ステーキング」システムは、ネットワークの固有のイーサリアム(ETH)トークンをロックアップしてしまう可能性がある。そのトークンを売買しようとする投資家は、デリバティブ市場に頼らざるを得なくなるかもしれない。

イーサリウムブロックチェーンは、「PoW(プルーフ・オブ・ワーク)」と呼ばれるビットコインと同じ検証メカニズムを採用しており、新しいデータブロックやトランザクションは複雑な暗号計算を行う高性能コンピューターによって検証されている。

現在進められているアップグレード作業によって、イーサリアムブロックチェーンは「PoS(プルーフ・オブ・ステーク)」に移行する。投資家はトークン報酬と引き換えにブロックチェーン上にイーサリアム(ETH)をステーク(担保として預け入れ)することで取引の検証を行う。銀行口座に現金を預け、利息を受け取るようなものだ。

イーサリアムの流通量が減少する可能性

結果的に、新しいステーキングシステムは、流通しているイーサリアム(ETH)の30%を吸収してしまう可能性があると、分散型投資会社メタカルテル・ベンチャーズ(MetaCartel Ventures)のパートナー、アダム・コックラン(Adam Cochran)氏は推測する。

PoSモデルのバリデーター(検証者)になるには、最低32イーサリアム(約1万2400ドル=約130万円)をステークする必要がある。

「資産をチェーン上にロックしておくインセンティブが大きいため、市場からある程度の流動性がなくなる可能性がある」とデジタル資産保管会社、アンカレッジ(Anchorage)の共同創業者兼社長のディオゴ・モニカ(Diogo Monica)氏は話す。

失われた流動性

2020年5月に行われたイーサリアム開発会社コンセンシス(ConsenSys)の調査では、65%のイーサリアム投資家がイーサリアム2.0と呼ばれる新システムに資産をステークすることを計画しており、そのうちの半数はバリデーターとしてノードを運営したいと考えていることが分かった。

ほとんどのステーキングメカニズムにはロックアップ期間(引き出しできない期間)が定められており、イーサリアム2.0のステーキングサービスであるロケットプールステーキング(Rocket Pool Staking)は3カ月〜1年までのステーク期間を設定している。

ネットワークのアップグレードが進むにつれ、一部のイーサリアム(ETH)はステークキングでロックアップされる可能性がある。イーサリアム2.0は複数年におよぶ3つのフェーズで展開される予定で、オリジナルのPoWベースのブロックチェーンは「フェーズ1.5」で2つのネットワークが統合されるまで並行して運営される。

暗号資産データ会社メッサ―リ(Messari)のウィルソン・ウィシアム(Wilson Withiam)氏は「デポジット・コントラクト(預け入れ契約)に送られたイーサリアムはおそらく(フェーズ1.5まで)ロックアップされたままになり、それによって容易に利用可能なイーサリアム(ETH)の量は減少する可能性がある」と述べる。

ステーキング・デリバティブの可能性

国債の利回りはほぼゼロ、またはマイナスであることを考えると、イーサリアムステーキングの利回りの3〜5%は魅力的だ。ユニスワップ(Uniswap)などの分散型取引システムにイーサリアム(ETH)を預ける投資家は少ないだろう

「その場合、原資産が現在ステークされているかどうかを抽象化したイーサリアムの売買手段(いわゆる、デリバティブ商品)を作り出すインセンティブが生まれるだろう」(アンカレッジのモニカ氏)

デリバティブは解決策になるかもしれない。

イーサリアム先物の建玉((未決済の契約総数)
出典:Skew

ステーキングからの固定収入は別の商品としてパッケージ化することさえできるだろう。暗号資産をステークする所有者は、ステークに対する債権を表すクーポントークンを作成できる。そしてそのトークンをイーサリアム(ETH)や他の暗号資産と取引する。つまり、クーポントークンの買い手は原資産を所有することなく、利回りを得ることができる。

クーポントークンを販売するのではなく、保有者は分散型融資プラットフォームでイーサリアム(EHT)を担保として預け入れることができる。

イーサリアムは価格上昇を続けるか

メッサ―リのウィシアム氏はステーキング・デリバティブは必ず登場すると考えている。

「トレーダーは取引可能な資産にアクセスできることになり、彼らは得意なことを続けられる。取引所はこうした資産関連の新しい市場を提供でき、デリバティブ資産が取引所の外に移せなければ、顧客を自らの商品群の中にロックできる可能性がある」(ウィシアム氏)

ただし、これらはすべて憶測に過ぎない。

多くの暗号資産アナリストはイーサリアム(ETH)のステーク需要が増えれば、イーサリアムの価格は上昇する可能性があると考えている。イーサリアム価格は約390ドルと年初から3倍になっている。このリターンはビットコインの年初からの上昇率56%をはるかに超えている

「購入と保有の両方の金銭的インセンティブは、ネットワークのセキュリティを向上させ、劇的な価格上昇につながる可能性がある」と調査会社デジタル・アセット・データ(Digital Assets Data)のコナー・アベンドシャイン(Connor Abendschein)氏は言う。

年初からのイーサリアムとビットコインの価格推移
出典:TradingView

翻訳:下和田 里咲
編集:増田隆幸、佐藤茂
写真:SunnyGraph/Shutterstock
原文:First Mover: Ethereum’s Transition to Staking Could Push More Traders to Use Derivatives