中国最南端の海南省が「ブロックチェーンの都」になるまで──2800社が活動する“中国のハワイ”

中国最南端の島・海南省で、「国家ブロックチェーン産業創新発展基地建設及び越境金融と数字経済検討会」が7月中旬、開催された。同省は「中国のハワイ」とも呼ばれるリゾート地だが、実は近年「ブロックチェーンの都」との異名もとっている。なぜそう呼ばれるようになったのか。今後の見通しとともに確認してみよう。

海南省の所在地(infinetsoft / Shutterstock.com)

中国のブロックチェーン産業、勝負の3年が動き出す

2019年10月、共産党中央政治局会議は、AI、ビッグデータなど、新産業技術の中から特にブロックチェーン技術を“自主イノベーション”の重要な突破口と位置付けた。優先順位を明らかにしたのである。その直後から各地方は動き始めた。防疫体制解除となった2020年4月以降、動きは加速し、湖南省、海南省、浙江省寧波市、北京市などの有力な地方政府が次々に「区塊鏈発展計画2020~2022」を発表している。

3カ年計画が多いのは、照準を2022年の第20回共産党大会に合わせているからだ。中国共産党は2021年に創立100周年を迎え、22年の党大会では、次の100年に向けた最先端の研究成果を誇示したい。とにかく中国のブロックチェーン産業にとって、勝負の3年となるのは間違いない。

海南省はブロックチェーン政策の集積地

中国は、各地方に試験区を作り新技術の研究開発を競わせる。自動運転、ビッグデータ、自由貿易、越境Eコマースなどの試験区がある。ブロックチェーン試験区もその1つだ。

最初のブロックチェーン試験区は、2018年10月、海南自由貿易区に設置された。2020年には全国26カ所にまで拡大した。上海を中心とする長江デルタに11ヵ所、香港周辺の珠江デルタに4ヵ所、北方に3ヵ所、重慶など中西部に7ヵ所ある。

海南省は南シナ海に位置する島からなる最南端の省。人口は945万人(2019年)と小型の省だが、中国が領有権を主張する南シナ海を“管轄”している。海南島は、新中国成立の翌年1950年に広東省に編入された。その後1988年、海南省として独立、同時に全島が貿易特区に指定された。その熱帯海洋性気候を富裕層が好み、国内最大の高級リゾート地となった。リゾート開発バブルもすでに経験済みである。観光以外の産業といえば、農業や鉱業くらいである。

中央政府は7月、海南省の離島に新たな免税政策を導入した。iPhoneを香港より安く買えるため大人気を博した。香港のショッピング機能の代替を見据えた、新たな肩入れのようにも見える。海南省は常に特別扱いされてきた。

中国政府は6月上旬、海南省政策の集大成といえる「海南自由貿易港建設総体方案」(方案)を公布している。ここに至る直近3年間の主な動きを見てみよう。

2018年
7月「中国(海口)跨境電子商務総合試験区」……越境Eコマース試験区設立
10月「区塊鏈試験区設立」……国内初のブロックチェーン試験区

2019年
11月「海南省高新技術需求の通知」……ブロックチェーンを含む重点方向示す
12月「鏈上海南計画」……ブロックチェーン、ビッグデータの知的所有権システム
12月「区塊鏈産業発展6条措置」……ブロックチェーン10億元(152億円)基金

2020年
5月「区塊鏈産業発展若干措置」……ブロックチェーンによるデジタル資産交易プラットフォーム開設

ブロックチェーン関連事業が非常に多く、海南省はいつしか中国ブロックチェーンの“都”と呼ばれるようになる。

“ブロックチェーンの都”の実態──2800社が活動

6月の方案には、海南国家ブロックチェーン技術と産業創新発展基地を建設する、と明記されている。“都”の現状はどうなっているのだろうか。

海南省には2020年6月末現在、本社支社合わせて2800社のブロックチェーン企業が拠点を構えている。2018年比2000社以上増加した。アリババ、アント・グループ(アント・フィナンシャル改名)、テンセント、百度、ファーウェイなど毎回おなじみのIT巨頭に加え、多くのブロックチェーン専門企業が参入した。

欧科集団(OKCoin)、火幣(フォビ)、Biboxなど、業界のリーダー企業が支社を置いている。その他、直近に設立されたベンチャー企業の一群が活動している。

安邁雲(アンマンユィン)……2019年、海南省で設立。コンピューター技術開発とサービス。
椰雲(イエユィン)……2018年、海南省で設立。コンピューター技術開発とサービス。
鍵融(リェンロン)……2017年、深圳市で設立。ブロックチェーン技術開発と応用。

また方案は、企業と人材誘致のためさまざまな優遇策を準備した。通常25%の企業所得税は15%、個人所得税も実効税率が15%を超える部分は免税となる。会社からも個人からも15%以上は徴収しない、と宣言した。その結果、海南省には6月中旬までに13万もの“高度人材”の履歴書が集まった。そのうち9000は、海外からのものだった。

突破口は越境(貿易)金融、やはりアリババの登場か

これらの超強力な政策サポートを受け、海南省にはブロックチェーン企業と人材が集積した。方案では独立の立法権まで認められている。都にふさわしい成果が必要だ。そこで7月に検討会を開催し「越境金融と数字(デジタル)経済を突破口とする」と道筋を示すことになった。

数字経済は、すべての社会と経済システムをデータ化するという広い概念のため、より具体性を持つのは越境(貿易)金融である。前提として当然貿易取引がある。そのために、海外送金が必要で、これはアリババが執念を燃やす分野である。

アリババは2015年から、海外送金サービスに乗り出している。出資や海外企業の買収を通じ、紙の書類に頼る従来型国際貿易と、時間のかかるSWIFT(国際銀行間通信協会)送金体制を、自社ネット通販に適した、少量多頻度型モデルへの改変を目指してきた。

アリババは海南省の“貿易の自由”を背景に、ブロックチェーン技術を用い、こうした自社構想の総仕上げを図りたいのだろう。ここでもアリババが動かないことには始まらない、という現代中国の特色を示すことになりそうだ。

とにかく、ブロックチェーンの都が次の段階に向かうのは間違いない。香港情勢次第では、海南省の貿易の自由はさらに拡大するかも知れない。北京、上海、香港に加え、海南省までウオッチする必要が出てきた。

文:高野悠介
編集:濱田 優
画像:Shutterstock.com