ペイパルが米ケンブリッジ・ブロックチェーンに出資した理由

オンライン決済のペイパル(PayPal)は同社初となるブロックチェーン・スタートアップへの投資を行った。

2019年4月2日の発表によると、ペイパルはケンブリッジ・ブロックチェーンが実施したシリーズAラウンドの追加拡張ラウンドに参加した。ケンブリッジ・ブロックチェーンは、金融機関や企業が共有台帳を利用して繊細なデータを管理するための支援を行なっている。

ケンブリッジ・ブロックチェーンは今回の調達額を開示していない。ペイパルも同じく、同社の出資額を非公開としたが、米SEC(証券取引委員会)に提出された開示資料によると、ケンブリッジ・ブロックチェーンは過去9カ月間で350万ドル(約3億9000億円)の資金を株式発行で調達している。同社は2018年5月に、700万ドル規模のシリーズAラウンドを終了しており、調達総額は1050万ドル。

シリーズAには、台湾Foxconnのベンチャーキャピタル、HCM Capitalとデジタル・カレンシー・グループ(Digital Currency Group)などが参加。今回の追加拡張ラウンドには、ペイパルの他に慈善目的の投資を主とするOmidyar Networkなどが参画した。

ペイパルの今回の投資は控えめだが象徴的と言えるだろう。ペイパル広報担当者は、「ケンブリッジ・ブロックチェーンは、デジタルIDにおいてブロックチェーンを利用しており、ペイパルを含む金融サービス企業が活用できるものだ。今回の投資は、ブロックチェーン技術を利用するための連携がどこまで可能かを見極めるという意味合いもある」と述べた。担当者によると、今回の出資はペイパルにとって初のブロックチェーン企業への投資だという。

ペイパルとケンブリッジとの接点

ケンブリッジ・ブロックチェーンのHPより

米マサチューセッツ州・ケンブリッジに拠点を置くケンブリッジ・ブロックチェーンは、ペイパルがスポンサーするアクセラレーター・プログラム「フィンテック・ヨーロッパ2018(Fintech Europe 2018)」に参加してきたスタートアップ企業だ。

また、同社は、ルクセンブルク政府と同国の金融機関が支援するデジタルIDサービスのLuxTrustとも協業している。一方、ペイパルはヨーロッパのヘッドオフィスをルクセンブルクに移すとともに、同国で銀行免許を取得している。

「具体的なことは話せないが、今やろうとしているのは実験的なこと。(ペイパルが)ルクセンブルクで存在感を築いたことと、我々がこの国で進める事実は、ある意味、現在に至るきっかけになったのかもしれない」と、ケンブリッジ・ブロックチェーンCEOのマシュー・コモンズ(Matthew Commons)氏は述べる。

実際、2018年終わりに向けて、ケンブリッジ・ブロックチェーンはペイパルの企業ベンチャーグループと直接関わるようになり、結局は今回の投資に至ったと、コモンズ氏は話す。

ケンブリッジ・ブロックチェーンは、ブロックチェーンを活用してデータの保存・共有・認証を行う。同社は現在、15名の社員を米国、パリ、北京などのオフィスに配置している。主要な収入源は、金融機関で口座を開く際に必要な個人情報や顧客情報に関する研修プログラムである。また、同社は商業的サプライチェーンのデータに関連してFoxconnと関わる事業も行なっている。

ケンブリッジ・ブロックチェーンは、分散型ID認証ファウンデーション(DIF=Decentralized Identity Foundation)のメンバーでもある。DIFには、エンタープライズ・イーサリアム・アライアンス(EEA)やR3、IBMブロックチェーン、ハイパーレジャーが同じくメンバーとして加わっている。

同社は、EU一般データ保護規則(GDPR=General Data Protection Regulation)や欧州の決済サービス指令(PSD2)などの同地域における厳しい規制に対応する事業経験を有している。

ヴェンモ(Venmo)やハイパーウォレット(Hyperwallet)、スウィフト・フィナンシャルなどのプラットフォームを展開し、世界で膨大な数の取引口座を持つペイパルにとって、ケンブリッジとの協業はユースケースの一つになるだろう。

翻訳・抜粋:CoinDesk Japan編集部
編集:佐藤茂、浦上早苗
写真:PayPal image via Shutterstock
原文:PayPal Makes Its First-Ever Investment in a Blockchain Startup