GMとBMWが自動運転データを共有しようと考える理由

大手自動車メーカーのゼネラルモーターズとBMWは、自社および他社の自動運転車のデータを共有する手法としてブロックチェーン技術を活用しようとしている。

この取り組みの狙いは、各社が自社のみに囲い込んでしまう貴重なデータを公開・共有することで、それこそが最終的には間もなく登場する自動運転車の普及を後押しする。予備的な取り組みは「スマートモビリティ」業界でのブロックチェーン技術の活用を目的に2018年に設立されたコンソーシアム「MOBI(Mobility Open Blockchain Initiative)」の支援を受けて行われてきた。

CoinDeskは、「AVDM(autonomous vehicle data markets)」と名づけられた、新たなMOBIワーキンググループの議長をゼネラルモーターズ(GM)が務めるという情報を得た。GMは、将来のデータ共有のためにブロックチェーンを使うという明確な構想を持っており、2018年末、そうしたシステムに関する特許を申請した

AVDMワーキンググループの議長、GMのグローバルイノベーションのマネージャー、ミハル・フィリポウスキィ(Michal Filipowski)氏はCoinDeskにメールで次のように述べた。

「AVDMワーキンググループの議長を務め、さまざまなOEM事業者やサプライヤーが名を連ねるMOBIのメンバーとともに、この協調的な取り組みを開始できることに興奮している」

そして注目すべきことに、MOBIの設立メンバーであるBMWもデータ共有に対して、初めてその関心を表明した(BMWは以前、リース車両の走行距離管理のためにブロックチェーン技術をテストした)。

BMWも他のメンバーと同様、自動運転車のデータを囲い込むことは、その幅広い普及の「大きな障壁」となることを認識している。

「ブロックチェーンの出現によって、分散型データマネジメントが可能になり、プライバシー保護と高い効率が実現できる」とBMWグループのブロックチェーン・リーダー、アンドレ・ルコウ(Andre Luckow)氏はCoinDeskに語った。

「さらに、分散型機械学習、安全なマルチパーティー型機密コンピューティング、分散型データ市場といった新しい技術が自動運転時代のデータ処理基盤となるだろう」

振り返ると、自動運転車は大きなハードルに直面している。例えば、さまざまな場所や場面での走行を「学習」するためには、膨大なデータが必要となる。テストコースを走行することと、混雑した市街地を雨の日に走ることはまったく異なる。

貴重な財産

アメリカのシンクタンク、ランド・コーポレーション(RAND Corporation)のレポートによると、自動運転車がどのような条件下でも安全に走行できるレベルに達するには、数千億マイルもの自動走行が必要になる可能性がある。その過程で、データはカメラとライダー(Lidar:レーダーの原理を使った、レーザー光による検知システム)によって集められる。

AIのトレーニングに使う、こうしたデータを集めることは簡単なことのように思える。だが、自動運転車企業 ── 自動車メーカーであろうと、ウーバーあるいはグーグル子会社のウェイモ(Waymo)であろうと、各社は自動運転車が収集したデータを自社の貴重な財産と考えがち。

これがブロックチェーンに期待する理由、とシリコンバレーにあるルノー・日産自動車・三菱自動車アライアンス・イノベーションラボのビジネスイノベーションの責任者、セバスチャン・ヘノット(Sebastien Henot)氏は述べた(同氏はMOBIのビークル・アイデンティティ・ワーキンググループの議長も務めている)。同氏はCoinDeskに次のように語った。

「自社のデータこそが非常に貴重なものと考えるのは古いやり方。新しい方法ではデータは料理の材料のようなものと考える。本当に価値あるものを生み出すためには、いろいろなデータをミックスできることが不可欠になる。データ・マーケットプレイスには技術的にブロックチェーンが必要。なぜなら、誰が、誰に、何のデータを共有したのかを明確にするルールが定められた環境を作ることができるから」

MOBIメンバーのOcean Protocol(4月8日に事業開始)は、ブロックチェーンを活用したデータマーケットの構築とAIの共有を目指している。共同創業者のトレント・マコナギー(Trent McConaghy)氏は、誰もが使える企業向けデータ共有基盤のようなサービスを作ろうとしている。そこではデータは誰もが使えると同時に、提供したデータの安全性は守られる。

マコナギー氏は、Ocean Protocolは「統合型機械学習(federated machine learning)」(1カ所にまとめられた学習データを持たない機械学習の方法で、データはスマートフォンなど元の場所に保持される)を採用し、そこに分散型技術を追加すると述べた。

グーグルや他の企業は、プロセス全体を管理する「集中型の統合的機械学習を強く推進している」とマコナギー氏は語った。

「そうした取り組みではデータ保有者は大きな不安を感じる。だから、分散型の方法で、1カ所にまとめられたデータではなく、元の場所に置かれたままのデータを次々と使うことで、そうした気持ち悪さと集中型の学習をやめることができれば、より素晴らしい。分散型の統合型機械学習こそがOceanが進めようとしていること」

そしてこうした、より分散型のアプローチは、MOBIのAVDMグループの一員として、BMWとGMが推進しようとしていること。

BMWグループのIT担当、マイケル・オートマイヤー(Michael Ortmeier)氏は、Oceanのデータ共有の方法に同社は「大きな興味を持っている」と語った。

「我々はOceanや他のメンバーと議論するためにMOBIコンソーシアムを活用しており、間違いなく、こうした議論を続け、深めていく」

ウェイモのデータ

ウェイモ(Waymo) ── グーグルの親会社アルファベットが所有する自動運転テクノロジー開発企業は、自動運転車の走行データの収集に関して他社を引き離していることは明らか

しかし、走行距離を重ねても、ウェイモが自社のみで必要なレベルに達するにはまだ何年もかかるだろうとMOBIの創業者でCEOのクリス・バリンジャー(Chris Ballinger)氏は語った。

トヨタ・リサーチ・インスティテュート(TRI)の元CFOであるバリンジャー氏は、ウェイモは月に数百万マイルの自動運転走行を行っていると見ている。

「距離で言えば、数千万マイル走行するだろう。やらなければならないことであり、自動運転車を普及させるためには、間違いなく、取り組みをスピードアップさせなければならない。だが皆が参加し、データ共有をスタートさせれば、データの桁数は1桁あがる」

しかし、グーグル副社長兼チーフ・インターネット・エバンジェリストのヴィントン・サーフ(Vint Cerf)氏は、ウェイモは自動運転車に求められるゴールにまだまだ達していないという主張に反論した。

「ドライビング・データ」をどう定義するかで変わってくると、サーフ氏は言う。

「我々はセンサーの動作をエミュレート(模倣)するソフトウェアにさまざまなデータを入力することで、すでに数十億マイルにおよぶシュミレーションを行っている」と同氏はメールでCoinDeskに述べた。

自動車メーカーがデータ共有のためにブロックチェーン・ネットワークを使う可能性に関して、サーフ氏はこう付け加えた。

「ブロックチェーンは、デジタル署名となにも変わらない」

翻訳:Masaru Yamazaki
編集:佐藤茂、浦上早苗
写真:Toy car traffic image via Shutterstock
原文:GM, BMW Back Blockchain Data Sharing For Self-Driving Cars