DeFiには犯罪利用を乗り越える時期が必要──逆説的な視点から普及への課題を考える

DeFi(分散型金融)が犯罪組織に使われることは、DeFiの有用性がある意味、認められたことになるだろう。なぜなら、高度な金融商品を利用することが難しく、利用のために多額の費用も厭わないグループがあるとすれば、それは犯罪組織だからだ。

米司法省は11月3日、かつて存在した闇サイト「シルクロード(Silk Road)」に関連する10億ドル(約1040億円)を超えるビットコインを押収したと発表した。

シルクロードは2011年2月にスタートし、すぐにある意味でビットコインを象徴するものとなった。暗号資産(仮想通貨)支持者の中には、もはや犯罪行為が暗号資産取引に占める割合は小さいと主張する人もいるが、耐検閲性は分散型技術の大きな特徴であり、犯罪組織は暗号資産の普及に一役買っている。

犯罪組織に支払い能力をもたらすことは、ビットコインに価値をもたらしている。そして価値には、ランサムウエアや闇サイトのような犯罪だけではなく、サイハブ(Sci-Hub、無料の学術論文共有サイト)や抑圧的な政権に対抗する勢力に資金を提供することも含まれる。

スマートコントラクトの有用性

犯罪組織が使っていることは、製品や市場が耐検閲性を備えている証拠であり、イノベーションが犯罪以外の世界で使われるかどうかの指標ともいえる。検閲に耐えうる真に有用な決済手段が存在しなければ、シルクロードを作ることはできなかっただろう。

シルクロードで犯罪組織がビットコインを有効に利用できるという事実は、暗号資産が有用で、検閲に耐え得るツールであることを証明している。現状、オンライン犯罪では主にビットコインのほかにモネロ(monero)なども使われている。

2017年のICO(イニシャル・コイン・オファリング)バブルとFomo3Dのようなゲームは、イーサリアム・ネットワークが別のタイプの犯罪、すなわち未登録の証券販売や他の巧妙なポンジスキーム(出資金詐欺)に使われていることを示している。これはパーミッションレス(非許可型)スマートコントラクト・プラットフォームとしての有用性の証拠だ。

だがイーサリアムがポンジスキームなどに有用だからと言ってもそれまでのこと。耐検閲性を備えた技術の成功には、犯罪に使われることは必要条件だが十分条件ではない。

DeFiは怪しいおもちゃか

イーサリアムの最新の注目トレンドは、もちろんDeFi(分散型金融)だ。

DeFiとは、スマートコントラクトを使った金融サービスで、銀行や弁護士のような仲介者を必要とせず、代わりにオンラインのブロックチェーン技術を使用し、自動化された法的強制力のある合意を作り、利用する能力だと、ノッティンガムトレント大学のジェレミー・エグ-タック・チア(Jeremy Eg-Tuck Cheah)准教授は述べている。

これらのスマートコントラクトはプログラム可能で、Dapp(分散型アプリ)に組み込むことができる。我々は今、自動マーケットメーカー(AMM)、資金配分において重要な役割を果たす自律分散型組織(DAO)、オフチェーン資産の価格行動を模倣する合成資産を構築するためのUMAやSNXのようなプロトコル、スマートコントラクトとチェーン外のさまざまなデータをつなぐチェーンリンク(Chainlink)のような分散型価格オラクル、そして2017年には利用できなかったあらゆる種類のインフラを手にしている。

一部の人は、DeFiは新しいインフラではなく、情報に疎い人からお金を奪うために作られた怪しいおもちゃにすぎないと言うだろう。この新しい金融インフラに実際の有用性はあるだろうか? それとも、DeFiが解決しようとしている問題のほとんどは、そもそもDeFiが引き起こした問題なのだろうか?

闇サイトの課題

犯罪者の金融インフラが構築されつつあることを示すいくつかのヒントがある。最大級の闇サイトの1つであるヒドラ(Hydra)は、2019年末にICO(新規コイン公開)を検討したが、最終的には断念した。闇サイトの出口詐欺の歴史を考えると、こうした資金調達はきわめてリスクが高いものだ。闇サイトのエンパイア・マーケット(Empire Market)は最近、出口詐欺で3000万ドル相当のビットコインを手に入れたと報じられた。

ガバナンストークンがブームになっていることを考えると、トラストミニマイズな方法(信頼できる第三者を可能な限り必要としない方法)でユーザーとベンダーの双方が所有し管理できる市場が必要ではないだろうか? ユニスワップ(Uniswap)がシルクロードに出会ったと考えてみよう。

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闇サイト運営者が望むもう1つの製品は、出口詐欺やサイトに対する継続的なサイバー攻撃のようなリスクに対抗するための保険製品。DeFiで言えば、ネクサスミューチュアル(Nexus Mutual)のような製品だ。

保険金請求の問題、そしてドラッグの出荷をめぐる争いでさえも分散型の手法で処理することができる。紛争解決は闇サイトにとって最も手間のかかる問題であり、信頼できる第三者による紛争解決はセキュリティホールとなる。クレロス(Kleros)のような分権型プラットフォームに紛争解決を外注してはどうだろうか?

DeFiの真のハードルとは

闇サイト上の価格情報を使って金融商品を作ることもできるだろう。フロリダ産のドラッグ、オーストラリア産のドラッグなどの価格インデックスを簡単に作ることができる。ウエスト・テキサス・インターミディエート(WTI)原油価格(西テキサスで産出される原油の価格)が原油市場の基準価格となっているように、ドラッグ市場の基準価格ができるかもしれない。航空会社がWTI先物を使って燃料コストの変動をヘッジすることと同じように、ドラッグ生産者や密輸業者は同様のヘッジ取引ができる。

歴史は繰り返さないが、韻を踏む。もしDeFiが本当に検閲に耐えうるものであり、価値を創造するのであれば、最も必要としている人たち、つまり犯罪者に使われることは避けられない。ドラッグ密輸業者が信用できる第三者を必要とせずに荷物に保険をかけることができ、ドラッグディーラーがテキサスの石油価格と同じようにオーストラリア産ドラッグの価格に賭けることができた時、私はDeFiがプロダクトマーケットフィット(PMF)を実現した、つまり市場に完全に受け入れられたと信じることができる。

DeFi支持者は、こう考えてみる価値があるかもしれない。

我々はそうした普及を目にしているだろうか? もしそうでないなら、何が邪魔しているのか? その原因がDeFi普及に対する真のハードルだ。

ボアス・ソブラド(Boaz Sobrado)氏はテック業界で仕事をしており、インターネットを最も必要としている人々に提供している。

翻訳:新井朝子
編集:増田隆幸、佐藤茂
写真:Shutterstock
原文:DeFi Still Needs a Silk Road Moment