ビットコインとイーサリアム、投資判断が異なる理由

「デジタルゴールド」と呼ばれるビットコイン(BTC)に新たに投資する機関投資家は、すでに次の投資ターゲットを模索しているだろう。

その投資先は暗号資産のイーサリアム(ETH)かもしれない。12月1日、イーサリアムは待望の「イーサリアム2.0」をスタートさせた。アナリストたちは、イーサリアムはビットコインに代わる資産としてではなく、イーサリアムが持つ独自の優位性に基づいて投資判断すべきと話す。

「デジタル資産はビットコインだけでなく、きわめて巨大なものと考えるべきだ。それぞれの暗号資産に、それぞれの用途が存在する。ビットコインとイーサリアムには、アセットアロケーションにおける最適な組み合わせがあると思う」と金融メディアグループ「リアル・ビジョン(Real Vision)」の共同創業者兼CEOのラウル・パル(Raoul Pal)氏は11月30日に公開されたドキュメンタリーで述べている。

早くからのビットコインの投資家であるパル氏にとって、その理論的根拠は、さらに説得力を増しているようだ。つまり、ビットコインはより高価なものになり、新規の投資家にとっては、リスクの高い賭けになっている。

イーサリアムは史上最高値の半値

​投資家は手頃な価格で暗号資産の新たなチャンスを求めるだろう。

イーサリアムの価格も上昇を続けているが、それでも史上最高値(1432.88ドル)の半値程度であることを考えれば、今が投資のチャンスと信じたくなる。​さらにイーサリアム2.0がネットワークの拡張性やセキュリティ、エネルギー効率を向上させたことで、その魅力はさらに増した。

少なくとも今のところcoindeskが取材したアナリストやトレーダーは、イーサリアムがビットコインのFOMO(機会を逃すことへの恐怖:fear of missing out)に取って代わるとは考えていない。

「機関投資家は、デジタルゴールドというストーリーをもとにビットコインを購入している。イーサリアムはまだそこまでの話題にのぼっていない」とメッサーリ(Messari)のシニア・リサーチアナリストのライアン・ワトキンス(Ryan Watkins)氏は話す。

イーサリアムは「ビットコイン価格の上昇によって、暗号資産に詳しい人たちの間で話題となっている可能性が高い。初心者にとっては、ビットコイン以外の暗号資産は理解しにくいだろう」と、デリバティブ取引所「Alpha5」の創業者ビシャル・シャー(Vishal Shah)氏は言う。

ビットコインとイーサリアムの相関関係

一部のアナリストは、多くの機関投資家がビットコインに資金を投入し、価格を押し上げるにつれ、イーサリアムや他の暗号資産は徐々にビットコインからは分断されたものになるだろうと述べる。

実際、ビットコインは一時2万8000ドルを超える記録的な高値となっているが、イーサリアムは史上最高値の1448.18ドルにはまだほど遠い。coindeskのデータによると、ビットコインとイーサリアムの90日相関係数は夏以来、徐々に弱まっている。係数は0.93から12月初めには0.7近くまで下落した。

ビットコインとイーサリアムの相関計数(2020年1月〜)
出典:CoinDesk Research

​「相関関係のポイントは、いつでも消え去る可能性がある。そうなれば、保有している資産の中心的なファンダメンタルズを理解したくなるだろう。もし、ビットコインが有するリスクの代わりにイーサリアムを保有していた場合、価格の相関が乖離すれば、まったく異なる何らかのリスクにさらされていることになる」と話すのはデジタル資産調査会社デルファイ・デジタル(Delphi Digital)のアシュワス・バラクリシュナン(Ashwath Balakrishnan)氏。

S&P500に比べれば暗号資産は小さい

ビットコインは2020年、多くの投資家にとってドルの購買力低下に対するリスクヘッジ資産となった。バラクリシュナン氏によると、イーサリアムは分散型アプリケーションのエコシステム構築を目指す「ワールド・コンピューター」のための通貨と考えられているという。

ビットコインと他の暗号資産との間に歴史的に密接な相関関係があるのは、デジタル資産のエコシステムが世界経済に比べてきわめて小さいことが理由かもしれない。

暗号資産の時価総額は、7200億ドル(約75兆円)超と推定されているが、S&P500の時価総額は30兆ドルを超えている。ほぼすべての暗号資産が異なるファンダメンタルズに基づいているなか、単に暗号資産市場がきわめて小さく、閉鎖的なものだ。ビットコイン以外の暗号資産は、ビットコインの価格を追っているように見えるかもしれない。

相関データからすべてを把握できるわけではない。価格は連動して動くこともあるが、その相関性がどれ程かは別問題だ。2020年の夏、DeFi(分散型金融)の爆発的ブームが起きた時、イーサリアム価格は約2年ぶりの高値をつけた。その頃、ビットコインはまだ2年前の価格を更新できずにいた。

投資家にとっての「イーサリアム2.0」

イーサリアムブロックチェーンのアップデート、いわゆる「イーサリアム2.0」は​2023年まで続く。そのため、市場はネイティブ通貨のイーサリアム(ETH)にあたえる影響を見守る必要がある。基盤となるネットワークの大規模なアップデートによって、イーサリアムは単にビットコイン価格を追うのではなく、独自のファンダメンタルズに基づいて動くようになる可能性がある。

「システム全体に可能性をもたらすイーサリアム2.0の心臓部はイーサリアムだ。イーサリアムは、イーサリアムブロックチェーンの価値保存のための資産であり、取引手数料である。加えて、PoS(プルーフ・オブ・ステーク)システムにおける役割から、イーサリアムブロックチェーンの究極のセキュリティ源でもある」(メッサーリのレポート)

つまり、ビットコインは価値の保存手段とコモディティの間の資産と考えることができるが、イーサリアムは最終的にはキャピタルアセット、コモディティ、価値の保存手段という3つの資産クラスが組み合わさる初めての資産になる可能性がある。

​「イーサリアムの価格がイーサリアム自体によって牽引され始めると、ビットコインを保有するリスクの代わりとして保有しても、期待どおりに機能しないようになるだろう」とバラクリシュナン氏は説明した。

翻訳:新井朝子
編集:増田隆幸、佐藤茂
画像:Shutterstock
原文:Why Ethereum and Bitcoin Are Very Different Investments