“ひまわりの小都市”が始めるデジタル通貨──お金の“地産地消”しかけるフィノバレー

人口4万6000人の小さな九州の都市がデジタル地域通貨を2月に始める。

長崎県の島原半島南部に位置し、夏には各所でひまわりの花が咲き乱れる南島原市だ。「島原手延べそうめん」で知られる南島原市は来月から、デジタル地域通貨「MINAコイン」の運営を開始する。市民が、お金をスマートフォンにチャージし、1MINAコイン・1円の価値を持つMINAコインに変換して市内の商店で利用することができる。

南島原市は2月から3月15日までの間、チャージした金額に対して50%のポイントを付与するキャンペーンも準備し、総額1億5000万ポイントを市民に与える。2万円をチャージすれば、1万円分のポイントが与えられ、市民は3万円分の買い物ができるというわけだ。

市は、市内の商工業者が潤い、資金が市内に循環することで地域経済の活性化を目指すとしている。新型コロナウイルス感染症対策の一環として、市内のキャッシュレス化を進める狙いもある。

デジタル地域通貨プラットフォーム

南島原ひまわり畑-4
南島原市で咲くひまわりの花(写真:南島原市)

国内では独自のデジタル地域通貨を流通させて、地域経済の活性化を図るコミュニティ(自治体)が増えているが、そのデジタル通貨の運営プラットフォームを開発して、事業の拡大を進めているのが東京・港区にあるフィノバレーで、東証マザーズ市場に上場しているデジタルマーケティング企業、アイリッジの子会社だ。

MINAコインの開発を手がけたのもフィノバレーだ。

フィノバレーが開発したのはデジタル地域通貨プラットフォームの「MoneyEasy」で、ユーザーはスマートフォンアプリで地域通貨をチャージでき、店舗に置かれたQRコードを読み取って買い物をすることが可能だ。店舗側にとっては、システムの導入費用や手続きは不要だという。

これまでに、岐阜県・飛騨高山地域の「さるぼぼコイン」や、千葉県木更津市の「アクアコイン」に活用されてきた。1コイン1円の価値を持つさるぼぼコインは、飛騨信用組合が発行する地域通貨で、ユーザー数は3万5000人を超える。電気料金をさるぼぼコインで支払えば、最大9%分のポイントがユーザーに付与される仕組みも備えられている。

世田谷のデジタル商品券×デジタル通貨

「人口減少、特に労働者人口の減少は、日本の多くの都市が抱え続けてきた社会問題であり、経済問題」(フィノバレー・川田修平社長)

さらにフィノバレーは、東京・世田谷区が2月に始める「せたがやPay」のプロジェクトにも参画している。せたがやPayのシステムの開発と運営の支援を行う。

せたがやPayは、世田谷区の商店街振興組合連合会が導入するデジタル商品券・地域通貨で、新型コロナウイルスなどの感染予防に対応するため、非接触型のキャッシュレス決済が基本となっている。せたがやPayにはMoneyEasyがその基盤として使われ、今後区内の4000店舗への導入を目指すという。

フィノバレー・代表取締役社長の川田修平氏は、「人口減少、特に労働者人口の減少は、日本の多くの都市が抱え続けてきた社会問題であり、経済問題につながっている。デジタル地域通貨の循環を地域で活発化させることで、その地域経済を活性化できないかと考え、MoneyEasyの開発を進めてきた」と話す。「自治体からの問い合わせはここ数年で増え続けている」

現に、南島原市の人口は1945年の9万1000人をピークに、減少を続けてきた。

地元の発電所をトークンで所有する

台湾の水力発電施設(写真/Shutterstock:写真は記事とは関係ありません)

地域のお金がその地域の外に流出してしまえば、「地産地消」という概念を基にしたコミュニティ経済の活性化は難しくなると川田氏は言う。地方に居住する人が大都市に本社を置く大手の電力会社から電気を購入すれば、お金は地方都市から大都市に流れていく。

例えば、あるローカルコミュニティに水力発電所や再生可能エネルギーを利用する発電施設があって、居住者がその施設に投資でき、その施設から電気を購入する仕組みがあれば、電力とお金の地産地消を可能にすることができると、川田氏は話す。

株式や社債、不動産などの証券を暗号化・トークン化してブロックチェーンなどを使って発行・流通させる「セキュリティトークン」は、小口化することができ、個人投資家が売買しやすい次世代のデジタル証券として注目を集めている。

川田氏は、セキュリティトークン(ST)とデジタル地域通貨を組み合わせることで、地域のインフラ施設の資金調達と運営を画期的に進めながら、電気とお金の地産地消を実現することが可能になると述べる。

ローカルコミュニティの経済政策

「子供たちが経験するこれからの未来を考えたら、個人として危機感を強く感じるし、今できることは何かをもっと考え続けていきたい」(川田氏)

「自治体が、地域デジタル通貨やその基盤を利用した経済政策を有効に進めていくには、全体の構想をどう設計していくかが重要になる」と川田氏。

ポイント還元などの経済的メリットを訴求し過ぎると、ユーザーがプレミアム付き地域振興券を取得することだけを目的にして、その利用は一時的なものになってしまう。一方、デジタル地域通貨を飽くまでも「助け合い」ベースのみで運用すると、ユーザーが限定されてしまうことが多いと川田氏は説明する。

「ヨーロッパでも過去に多くのデジタル地域通貨が生まれ、地域経済の活性化を後押しする方法が考えられてきた。日本では少子高齢化が速いペースで進み続けている地方都市が多くある。子供たちの世代が経験するこれからの未来を考えたら、個人として危機感を強く感じるし、今できることは何かをもっと考え続けていきたい」(川田氏)

|取材・文:佐藤茂
|写真:多田圭佑