特殊なヘッドセットを通じて、現実世界にいながらデジタル世界に没入できるコンテンツ配信を可能にする「Mawari(マワリ)」。2017年に創業した「空間コンピューティング」分野のパイオニアで、NetflixやKDDI、T-Mobileなど大手企業向けに50件以上のプロジェクトを手掛けてきた。
同社が現在挑むのが、3D体験を支えるインフラそのものを「ユーザー自身の手で」作り上げる試みだ。これは、Web3の世界で言うDePIN(分散型物理インフラネットワーク)にあたり、ブロックチェーン技術を用いて交通やエネルギー、データストレージなどのインフラを分散的に構築する概念だ。
Mawariの場合、CPUを持つ人々が「ノード・オペレーター」として参加し、AIが生成する3Dアバターやコンテンツを世界中に高速配信するネットワークをともに作ろうとしている。
9月19日、MawariはCoinDesk JAPAN/N.Avenueと共催でワークショップを開催した。都内の会場には通信企業やWeb3事業者の担当者など50人が集まり、DePINの基礎知識からノードの仕組み、自社ビジネスに活用できる可能性まで意見を交わした。
トークンを活用した「みんなのインフラ」
初めに登壇したのは、プロジェクトのCo-founderである谷田部丈夫氏。DePINの基礎知識を解説した後、Mawariが目指すビジョンについても語った。
谷田部氏はDePINの根幹について「オーナーは皆さん」だと表現し、AirbnbやUberといったシェアリングエコノミーの構造と本質的に同じだと指摘。Airbnbのオーナーが自分のマンションを貸し出すように、DePINでは自身のコンピュータやサーバーをネットワークに提供する。

従来のインフラビジネスとの決定的な違いは「サービスが分散的に管理されているか」だとし、分散型インフラとして機能する代表的なDePINの事例を2つ紹介した。
1つ目に挙げたのは、一般のドライバーが車にカメラを搭載し走行することで地図データを作成するプロジェクト「Hivemapper(ハイブマッパー)」。走行データを提供することで、トークンを報酬として得られる仕組みとなっており、すでに世界中にある道路の35%を網羅するまでに成長していると解説した。
2つ目に挙げたプロジェクトは、Helium(ヘリウム)。ユーザーが小型の電波塔を自宅に設置してオーナーとなり、近隣でその電波が使われるとトークンで利用料が支払われる仕組みだという。約1年で100万スポットという驚異的なカバレッジを達成したと紹介した。
みんなの割り勘で築く「デジタル界の里山」
谷田部氏はこうした事例を踏まえ、従来は通信会社など中央集権的プレイヤーが担ってきたネットワーク構築を、分散型で実現できる点がDePINの革新性だと強調。巨大企業しか作れなかったインフラを「みんなで割り勘」して構築するようなものだと表現した。
また、DePINは日本で課題となっている「デジタル赤字」を解消できる可能性があると指摘。中央のプラットフォーマーを経由せず、ローカルに存在するオーナーに収益が直接還元される仕組みだからだ。
谷田部氏は「デジタル界の里山」という比喩も用いた。日本各地で地のものが消費されるように、デジタルの領域でも地産地消は可能だと提言。「みんなで分かち合い、シェアする」発想は日本人になじみやすく、DePINは日本でさらに広がる可能性があると述べた。

分散ネットワークに不可欠なガーディアンノード
プレゼンテーションの最後には、Mawariが目指すビジョンと分散型ネットワークを構築する仕組みについても語られた。谷田部氏は約8年前、CEOのLuis Ramirez(ルイス・ラミレス)氏とともにMawariを立ち上げ、次世代の空間コンピューティングを支えるリアルタイム配信とその分散型ネットワーク構築に注力してきた。
分散型ネットワークへの参加に必要な「ガーディアンノード(Guardian Node)」について谷田部氏は、XRコンテンツ配信の品質を監視・検証する役割を持つと説明。同社が販売を進めており、すでに14万台に迫る普及数を達成していると明かした。
さらに、イーサリアムのレイヤー2(L2)であるアービトラム(Arbitrum)と組んで独自の「Mawariチェーン」を構築していることや昨年11月にインフラの運営パートナーとしてKDDIと提携したことも共有された。
投資と技術協力、大手が語るMawariの可能性
第二部では、日本市場の課題や可能性について考えるパネルディスカッションが行われた。谷田部氏に加え、アニモカブランズジャパンCEOの天羽健介氏、KDDIオープンイノベーション推進本部副本部長兼ビジネス共創推進室室長の舘林俊平氏が登壇。N.Avenue代表取締役社長の神本侑季がモデレーターを務めた。
天羽氏は、自身の経歴とアニモカブランズジャパンの事業内容を紹介。2024年まで暗号資産取引所コインチェックで新規事業責任者を務めた後、日本のIP(知的財産)コンテンツを海外に送り出す事業やWeb3事業者のコンサルティングなどを展開していると説明した。
Mawariとの関わりについては、1年ほど前にCEOのラミレス氏と初めて会ったとし「サービスを体験した際に、データストリーミング技術の革新性と世界観に衝撃を受けた」と振り返った。即座にMawariへの投資を決定したと明かし、現在は日本市場を一緒に作っていくパートナーとして関わっていると説明した。
KDDIの舘林氏は、昨年11月に発表したMawariとの連携について、ガーディアンノードのサーバーをホスティングする役割を担っていると説明。通信企業として5Gを始めた当初から、「大容量・高速化のユースケースとしてARやVRを扱う企業との連携を模索していた」と述べ、美術館でのARガイドなどMawariのストリーミング特化技術を用いた様々な実証実験を一緒に行っていたことを振り返った。

そのうえで、今回のインフラ協力については「通信キャリアとしての使命」と話し、「多様なプレイヤーが参画するWeb3の世界で、基盤整備を担う立場として支援したい」と語った。
ユーティリティなきプロジェクトは淘汰される──DePINの必然性
議論は、DePINの現状と展望へと広がった。
天羽氏は取引所での経験から、暗号資産の世界ではユーティリティ(実用性)のないプロジェクトは淘汰されるが、DePINはインフラを分散的に構築するという点から「トークンを活用する意義が非常に大きい」と指摘。デバイスの進化やAI・通信技術との融合により、今後の成長が期待できる分野だと話した。
舘林氏は、DePINには性質の異なる二つの潮流があると分析。一つはHivemapperのように、グローバルに必要なインフラを「小口化」してみんなで構築する使い方。もう一つは、国内などローカルな範囲でインフラを守り、サステナブルに回すための活用法だという。
そのうえで、後者の「ローカルなDePIN」が日本の社会課題解決に直結すると解説。自社の例として、キャリアのアンテナメンテナンスを挙げた。高コストな専門技術者が現地に出向くのではなく、地方で生活する人が代行し、一部を報酬として受け取る仕組みがDePINで可能になるとの展望を示し、インフラを維持する人手不足といった地方の課題に対し、こうした仕組みは親和性が高いと述べた。
続けて舘林氏は、トークン経済によるインセンティブがないと、地方のインフラ運営が成り立たないケースが出てくる可能性を指摘。「(ローカルなDePINの)必然性が上がっていく」と述べ、注目していると締めくくった。

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