円高・円安の仕組みと輸出企業に与える影響をわかりやすく解説

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外国為替市場ではよく「円高」「円安」という言葉が利用される。

この円高や円安という言葉を聞いたものの「どのような意味なのか、経済にどのような影響を与えるのか」をはっきりと理解していない方も多いのではないだろうか。

この記事では円高と円安が何を意味しているのか、起こる原因や企業などに与える影響を解説する。

この記事の監修者
中島翔 CWC株式会社 代表取締役
中島翔
CWC株式会社 代表取締役

学生時代にFX、先物、オプショントレーディングを経験し、FXをメインに4年間投資に没頭。その後は金融業界のマーケット部門業務を目指し、2年間で証券アナリスト資格を取得。あおぞら銀行では、MBS(Morgage Backed Securites)投資業務及び外貨のマネーマネジメント業務に従事。さらに、三菱UFJモルガンスタンレー証券へ転職し、外国為替のスポット、フォワードトレーディング及び、クレジットトレーディングに従事。その後国内大手仮想通貨取引所Coincheckでトレーディング業務、新規事業開発に携わり、NYのブロックチェーン関連のVCを経てCWC株式会社を設立。証券アナリスト資格保有 。
Twitter : @sweetstrader3 / Instagram : @fukuokasho12

円高・円安の仕組み

まずは円高・円安がどのような仕組みなのかを見ていこう。

円高

円高とは円の価値が上昇することを意味している。

ドル/円の為替レートで考えるとドル/円が100円から90円に下落すると円高となっている。

100円から90円になっているので価値が下がったと勘違いしやすいが、1ドルを交換するのに100円必要だったのが、90円でよくなったと考えるとイメージしやすいだろう。

円安

円安は円の価値が下落することを意味している。先ほどの円高とは逆の動きで、為替レートで100円が110円のような方向に推移した状態が円安となる。

1ドルを交換するのに100円でよかったのが、110円必要になったと考えるとイメージしやすいだろう。

なぜ円高・円安が起こるのか

次に円高や円安はなぜ起こるのかを解説する。

実需のフロー

最初の要因として実需のフローがある。

実需とは実際の企業が外貨の決済で必要となる外貨を調達するためのフローを意味している。

たとえば、ある商社が原油の決済をおこなうときに、ドルが必要だとする。

その場合、日本円を保有している商社は銀行など取引がある金融機関にドルを1,000万ドル欲しいなどの注文をする。

すると銀行がドルを市場から購入し、商社に売却する。商社は受け取ったドルを送金して、原油を購入する。

このようにビジネスに紐づいた資金の流れを実需のフローと呼んでおり、上記の場合はドル高の要因となる。

FXのようなトレードと違い、購入した外貨を再度売って日本円に交換することがないのが、実需のフローの特徴だ。

トレードの場合は外貨を購入したら、基本的には利益が出ているタイミングで決済をするが、このような動きがないということになる。

政策金利の変動による投資家動向の変化

通貨金利は各国の政策金利によって変化し、通貨金利が高ければ高いほど、スワップポイントが高くなる。

スワップポイントとは2カ国間の金利差によって発生する利益のことで、たとえばトルコと日本の通貨の金利差は以下のようになっている。

政策金利が引き上げられる見通しが立ってくる場合、その国の通貨は上昇しやすいと考えることができるため、機関投資家は常に各国の中央銀行の政策動向や、経済の見通しを注意してチェックしている。

その国の景気の過熱感を抑えるために政策金利を引き上げることが一般的であり、その見通しを予想しながら為替市場ではトレードをおこなっている投資家も多く存在する。

つまり金利が高い通貨にお金が流れやすく、政策金利の動向はダイレクトに通貨の強弱に影響するといえる。

政策金利の上下を判断するにはその国自体の分析が必要となり、そのほかの要因全体を捉えて判断する必要があるため、一朝一夕で身につけるのは難しい。

日々の努力の積み重ねによって分析能力は向上するため、日々考えていく習慣をつけるといいだろう。

イベント発生時の急変

為替市場は常に先読みをする投資家で価格が形成されているが、予期しない事態が発生すると、短期的に大きく相場が動くことがある。

たとえば大地震などの災害が発生し、株式市場が暴落するような状況に陥った場合、リスク回避のために日本円が買われやすくなり、円高方向で推移する動きが発生する。

株の価値が大きく下がることがあれば、円高になりやすいことを覚えておこう。

リスク回避で購入されやすい通貨は日本円とスイスフランであり、両者の共通点は「政策金利が低い」という点だ。

キャリートレードでリスクを取って低金利通貨を借りて、高金利通貨を購入し、金利差を得るようなプレイヤーがいるが、そのようなプレイヤーがリスク回避時にはポジションを一旦減少させる動きを取るため、巻き戻しの高金利通貨売り、日本円やスイスフラン買いが発生する。

輸出企業に与える影響

輸出企業の場合、商品を海外に輸出して、海外の各国で製品を販売し、売上代金はその国の通貨で得る。

たとえば日本で10万円(1,000ドル)の商品を、為替レートが1ドル100円のときに海外で販売したとする。

1,000ドルが売上として計上されるが、これが決算月に1ドル90円になった場合、日本円で9万円の売上になり、利益が1万円減少してしまう。

逆に、1ドル110円になった場合は日本円換算で11万円となるため、1万円利益が大きくなったと考えることができる。

日本は輸出企業が多いため、「円安=日本にいい影響を与える」と考えられていることから、株高になると円安が進行するような動きになりやすいが、これは日本特有の動きである。

通常は株高になると、その国の政策金利が引き上げられる可能性が高まると考えられ、通貨高になりやすい。

為替市場が円安に向かえば輸出企業はメリットが大きくなり、円高になると不利になりやすいという関係性がある。

輸入企業に与える影響

輸入企業の場合は輸出企業の場合と逆の関係性となる。海外から商品を購入する場合はその国の通貨で支払いをする。

たとえば、アメリカで1,000ドル(10万円)の商品を輸入するときに、1ドル100円の場合は、10万円をドルに交換して商品を購入することになる。

もし1ドルが90円となっている場合、1,000ドルは9万円で購入することができるため、仕入れ原価が1万円安くなる。

つまり、輸入企業からすると円高になることで仕入れの金額が安くなるため、メリットが大きくなるのだ。

日本円の今後の見通し予想

日本円は米国株高から日本の株も上昇してきており、株高に連れて円安が進行している。

足元は岸田政権が誕生してから増税の話題が後を尽きないことから、米国に株価は遅れを取る動きとなってきており、株安が進行する懸念が生じている。

株安となる場合、日本円は買われやすい(円高)に進むと考えるのが普通だが、日本は輸出企業が大事な産業の一つとなっている。

そのため、自民党政権の環境下1ドル100円以下に進行させてしまうと、企業団体からの圧力が加わりやすくなり、為替市場の安定は命題となっていることから、ここから大きく円安が転換して円高に進行することは考えにくいだろう。

株安によってある程度の円安圧力は抑えられることになるが、短期的に円高が進行した場合は円安方向でポジションを取りつつ、分散して投資をおこなうといいだろう。

スワップポイントで金利を得ながら、円高に進行する場面では為替レートを分散してポジションを取っていくことでリスクコントロールが可能となる。

無理なエントリーは避けつつ、自身が決めたタイミングでゆっくりと長期的なポジションを構築することで、資産運用の大きな武器の一つになるだろう。

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(画像:Shutterstock)

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