FXにおけるナンピンとは?メリットやリスク・取引で気をつけるべきポイントを解説

FXには様々な種類の取引方法が存在するが、その中でも「ナンピン」は含み損の軽減と利益の増大が狙えることから、最強の手法と呼ぶトレーダーも少なくない。
効率的に資産を増やす方法を模索している人にとっては魅力的に聞こえるかもしれないが、結論として安易な気持ちでナンピンをするのはやめておいた方がいい。
上手く使いこなせればメリットが大きい反面、通貨の管理や将来的な値動きの予測が不十分では、資金を大幅に失ってしまう可能性もあるからだ。
ナンピンとは?
ナンピンは、米相場が盛んだった江戸時代から用いられていた業界用語であり、「損失が発生している状態を平らにする」という意味から「難平」と表記される。
たとえば、米ドル/円が120円の時点で1Lot分の買い注文を入れて、その後110円まで価格が下落したタイミングで、同じ数量を買い増すと、平均購入単価を115円まで下げることができる。
- 120円+110円=230円
- 230円÷2Lot=115円
120円の建玉だけでは115円まで相場が再上昇しても5円分の含み損が発生してしまうが、110円の建玉を追加保有することで5円分の利益が出た時点で損失を相殺でき、さらに相場が上昇すればより大きな利益を得られる。
ただし、一見メリットが多いようにも思えるナンピンには相応のリスクが存在することも理解してほしい。。
<建玉>
注文をしてから決済するまでの取引(ポジションとも呼ばれる)
<含み損>
建玉に発生している損失であり、利益の場合は含み益となる
ナンピンのメリット
ナンピンは平均購入単価の引き下げと利益の増大が狙える手法だ。
含み損が発生してしまったとしても注文を増やすことにより、早い段階で損失を解消できるだけでなく、相場が上昇したときにより大きな利益を獲得できるだろう。
また、ナンピンで早くに含み損を解消できれば、取引の回転率を上げることが可能だ。
ナンピンにはリスクも存在する
ナンピンは一見するとメリットの多い取引手法だが、実際には様々なリスクがともなう諸刃の剣ともいえる。
- 損失が拡大する場合もある
- ロスカットが執行される可能性がある
- メンタルに影響を与えやすい
何の戦略もなしにナンピンを繰り返すと、資金を大幅に減らしてしまう可能性もあるため、しっかりとリスクを理解してほしい。
損失が拡大する場合もある
ナンピンはより大きな利益が獲得できる反面、損失が拡大するリスクがある。
ナンピンを成功させるには建玉を保有している価格まで回帰、あるいはそれ以上に相場が高騰する必要があり、そういった条件が整うにはある一定の値幅を往復するレンジ相場が該当する。
具体的に解説すると、100~150円の値幅を上下している中でナンピンすれば、一時的に含み損が大きくなったとしてもいずれ利益に転換する可能性が高い。
しかし、売買注文のいずれか一方向に動き続けるトレンド相場の場合は、120円と110円でナンピンして平均購入単価を下げたとしても、100円を切ってさらに下落していくリスクがある。
そのため、保有している通貨量の分だけどこまでも損失が拡大し、ナンピンが完全に逆効果となるのだ。
また、レンジ相場とトレンド相場の区別ができない場合、「価格が戻ってくると勘違いして」取引量を増やし、結果として損切りを余儀なくされるケースも少なくない。
最低限トレンドが発生しているかどうかが判断できるようになってからチャレンジすることをおすすめする。
ロスカットが執行される可能性がある
先ほど触れた損失の延長となるが、口座資金に対して一定割合の含み損が発生すると強制ロスカットが執行されるリスクもある。
ロスカットとは、トレーダーの資金を最低限保全するためのシステムであり、FX会社ごとに水準が設定されている。
具体的に以下条件に基づいてロスカットが執行される金額の例を見てみよう。
- 口座資金:50万円
- レバレッジ:25倍
- ロスカット水準:100%
- ドル/円レート:100円
- 取引量:10Lot(10万通貨)
- 100円×100,000=10,000,000円
- 10,000,000円÷25=400,000円(必要証拠金)
- 400,000円×100%=400,000円(ロスカット金額)
- 口座資金500,000円-必要証拠金400,000円=100,000円(口座資金の余力)
- 100,000円÷1pips(0.01円×10万通貨=1,000円)=100pips(ロスカットまでの値幅)
この通り、10Lotの建玉で100pips逆行すると10万円の含み損が発生し、必要証拠金の40万円を残して強制的に決済がおこなわれる。
言い換えれば口座資金の5分の1を喪失してしまうということだ。無作為におこなうナンピンもそうだが、レバレッジの大きい取引はリスクも増大することをしっかりと理解しておいてほしい。
そして、ナンピンによって取引量が増えれば当然ロスカット金額も上がってしまい、多額の資金を失うことになる。
メンタルに影響を与えやすい
ナンピンはハイリスク・ハイリターンの手法であることから、トレーダーのメンタルに負荷をかけやすい。
たとえば、注文を入れた当初はナンピンをするつもりがなくても、より大きな利益を得たい気持ちが先行して衝動的にナンピンをしてしまうことがある。
そういった場合は適切な分析ができていないため、レンジ相場からトレンド相場に移行するタイミングで買い増してしまうリスクもあるだろう。
ナンピンの手法
ここからは、ナンピンの様々な種類について解説する。買い増す行為自体はいずれも同じだが、それぞれの特徴についても理解してほしい。
ナンピン・マーチンゲール
ナンピン・マーチンゲールとは2つの手法を組み合わせた戦略である。あらかじめ売買ルールを設定して自動取引をおこなうEA(Expert Adviser)でも頻繁に用いられている。
マーチンゲールとは、約200年前からギャンブルの世界で活用されているベット方法だ。
勝率50%のゲームにおいて、一度負けたら次回は倍のベット金額を積んでいく行為を無制限に繰り返すことを指しており、どれだけ負けが込んでもたった1回勝てば全ての損失を巻き返せるというロジックである。
そしてナンピン・マーチンゲールはそういった考え方をFXに取り入れて、注文ごとに倍の通貨量を保有していく仕組みだ。
数ある手法の中でも理論上は最大限に勝率が高められる上に、通常のナンピンに比べてより大きな利益が得られるだろう。
ただし、運用するにはどれだけ含み損が増えても倍々方式に通貨量が増やせるほどの潤沢な余剰資金がなければ、現実的には難しいといえる。
値幅を固定したナンピン
正式な名称があるわけではないが、値幅を固定したナンピンは最もオーソドックスなナンピンの1つといえるだろう。
最初に注文を入れてから0.5銭ずつ下落したら買い増すといったように、機械的に取引する手法だ。
ちなみに、この方法で通貨量を倍にしていけば先ほどのナンピン・マーチンゲールとなる。
ドルコスト平均法
ドルコスト平均法は、厳密にいうとナンピンとは異なるが、今回はよく似た取引手法として紹介する。
通常のナンピンは含み損や値幅、通貨量の多寡にフォーカスして買い増す一方、ドルコスト平均法は通貨量を固定して、1日あるいは1ヶ月といった期間ごとに注文を入れる、価格よりも時間に重きを置いた方法である。
一回あたりの通貨量を少額に抑えることから、短期的に大きな利益が獲得しにくい反面、日々変動する相場を細かく気にする必要がなく、分析の手間も削減できるだろう。
ナンピンのようなメンタル面の負荷や大きな損失リスクも軽減できることから、中長期視野の資産運用を目指す人におすすめの手法といえる。
ナンピンで損失を拡大させないために大切なこと
次はナンピンで損失を抑えつつ、成功率を高めるために把握するべきポイントを解説していく。
- 通貨量の管理を徹底する
- 底値と高値を狙う
- 損切りルールを守る
通貨量の管理を徹底する
ナンピンにおいてまず注意したいのが、通貨量の管理である。
トレードに慣れないうちは「最初の注文」に比重を置きすぎて、後から買い増す証拠金の余力がなくなってしまう事態に陥りやすい。
資金100万円と仮定した場合の証拠金余力について、次の表を参考にしてほしい。
【レバレッジ25倍:買いナンピンの場合】
通貨量 | 必要証拠金 | 証拠金の余力 | |
---|---|---|---|
初回注文(100円) | 7万通貨 | 28万円 | 72万円 |
1回目のナンピン (98円) |
2万通貨 | 合計35万8400円 | 49万8400円 (必要証拠金+初回2円分の損失) |
2回目のナンピン (96円) |
1万通貨 | 合計39万6800円 | 21万6800円 (必要証拠金+初回4円分+1回目2円分の損失) |
3回目のナンピン (95円) |
1万通貨 | 合計43万5200円 | 14万4800円 (必要証拠金+初回5円分+1回目3円分+2回目1円分の損失) |
ちなみに上記の余力額は「下落中に発生する含み損」を考慮していない表面上の計算値であるため、実際の金額はこれらよりもさらに余裕がない。
このような取引をおこなうと、初回注文に対する買い増し分が少なすぎて平均購入単価を十分に下げられないばかりか、早い段階でロスカットに至ってしまう。
すなわちナンピンすることで逆に自分自身を追い込んでしまうのだ。
ナンピンの効果を最大限に高めるためには、衝動的に注文するのではなく、初回を2万通貨程度に抑えつつ、それ以降の買い増し分を同額か少し多めに取ることができる通貨量に設定するとよいだろう。
底値と高値を狙う
ナンピンをおこなう際は、チャートが底値か高値にタッチしたタイミングを狙うのがおすすめだ。それ以上価格が伸びる可能性が低いことから、含み損を最低限に抑えられるだろう。
具体的には、4時間以上の長期足チャートの高値、あるいは安値同士を結んだトレンドラインや、代表的なテクニカルチャートの1つである移動平均線も有効だ。
下落中の相場で価格がラインに触れるとトレーダー達の買い注文が入りやすく、底値でナンピンを仕込むことができる。
ただし、そのままラインを突き抜ける可能性もあるため、チャートが触れた瞬間に注文するのではなく、一旦冷静に値動きを観察して、きちんと反発を確認するようにしよう。
- ローソク足の時間軸を指しており、4時間、日足、週足、月足があげられる
- 短中期足には1分、5分、15分、30分、1時間などがある。
損切りルールを守る
損切りルールの順守は全ての取引手法にあてはまる注意点だが、損失が拡大しやすいナンピンにおいてはとくに重要といえる。
「移動平均線やトレンドラインを下抜けた場合、または買い増した建玉に〇円分の含み損が発生したら損切り」といったシンプルなルールを決めておくことをおすすめする。
通貨量が多い分損失額も大きくなってしまう一方、きちんと実施すればロスカットによる大幅な資金喪失を防ぐことができるだろう。
ナンピンはリスクを把握して初めて効果を発揮する
ナンピンは、利益の増大や平均購入単価を引き下げるメリットがある一方、メンタルに影響を与えやすくロスカットに繋がりやすいといったリスクもある。
そのため、トレンド相場かレンジ相場の区別がつかない人や、高値と底値の判断に自信がない人には基本的におすすめできない手法であり、衝動的に買い増す癖がある人にとっても危険性が高いだろう。
しかし、将来的な値動きを予測しつつ損切りルールや通貨量の管理が徹底できれば、大きな利益を積み重ねていくことが可能だ。
ナンピンにチャレンジしようとしている人は、リスクとメリットの両方をしっかりと把握して、安全かつ効率的な取引を心がけてほしい。