FXにおけるロシアルーブルの特徴・今後の見通し・取り引きの注意点を解説

ロシアルーブルはロシアが発行する法定通貨だ。
ロシアは1991年に起こったソビエト連邦共産党解散を機にほとんどの企業を民営化したが、国家全体のGDPの半分を担っているのは未だ国営企業であり、融資に関しても国営銀行が主体である。
また、世界一の広大な国土を保有していながら、総人口は1億4,000人程度と日本と同等水準に収まっており、経済規模に関しても世界各国の中で10位前後と国土面積を考慮すればやや控えめな印象だ。
しかし、天然ガスの輸出量は世界1位、石油に関しても2位を誇っていることから、エネルギー分野に焦点をあてればトップクラスの資源国といえる。
米国が大寒波に見舞われたときにはロシア産のLNG(液化天然ガス)を大量に緊急輸入したこともあるため、経済的な影響力は決して小さくない。
そして、ロシアの政策金利は2021年11月14日時点で7.5%に設定されている。
国民が一定期間内に生み出すモノやサービスの価値のこと
ロシアルーブルの概要
ここからは、ロシアルーブルの価格変動要因や金融政策、流動性について説明する。取引をおこなう上で重要なポイントとなるため、きちんと押さえておこう。
ロシアの金融政策
ロシアの政策金利は過去10年に渡って4%以上を推移しており、全体的に高水準である。
その背景としては、ロシアがインフレ率を強く意識した金融政策を展開しており、インフレと政策金利が密接に関係していることがあげられるだろう。
インフレとは、国内で販売されているモノやサービスの価格が上昇することを指している。たとえば、100万円の自動車が110万円に値上がりすることで、通貨の価値が下がる。
これは一般市場への流通段階だが、国家はさらに上流に位置する輸入品価格のコントロールに焦点を絞っている。
たとえば、インフレ率が高まると「ロシアルーブルの価値が下落」してルーブル安に発展する可能性があり、天然ガスや石油を輸入する諸外国にとっては安く購入できる。
そのため、ロシアにとってはより多くの天然ガスや石油を輸出できることが見込める。
しかし、ロシアが他の国から輸入する場合は、より多くのルーブルが必要となる。
すなわち、輸入品の値段が高くなってしまうのだ。ロシアは主に自動車や電気機器、医薬品などを輸入していることから、インフレ率の高騰がもたらす影響は決して小さくないといえるだろう。
そこでロシア中央銀行がインフレ率のコントロールに用いるのが、一般金融機関へ融資する際の金利となる「政策金利」だ。
政策金利を引き上げると、一般企業にとっては高金利でお金を借り入れることになるため、事業拡大が抑制されて国民の消費を抑制することにも繋がる。したがって、ロシア全体の景気過熱に歯止めがかかるのだ。
つまり、ロシア中央銀行は通貨安やインフレ率の上昇を防ぐために、政策金利を引き上げる金融政策をおこなっている。
ロシアルーブルの流動性
ロシアルーブルは全体的な取引量が少なく、流動性が低いマイナー通貨であり、特徴として突発的な価格変動を起こしやすい。
まずはマイナー通貨に価格変動が発生しやすい理由について触れておきたい。
米ドルやユーロといった取引量が大きく流動性が高い通貨は、大きな注文があったとしても勢いを相殺するような反対注文も入りやすく、相場の値動きが安定する傾向にある。
しかし、ロシアルーブルのようなマイナー通貨は、値動きを抑えるような反対注文をおこなうトレーダーが少ない。
そのため、ロシア経済の好転といった大量の買い注文に繋がる情報がリリースされると相場が突発的に上昇する可能性が高く、逆に経済が悪化した場合は価格が急激に下落しやすいのだ。
参考までに、BISの調査よるロシアルーブルの取引量は全通貨のうちの1%程度であり、80%以上のシェアを占める米ドルや30%を超えるユーロと比較すればその差は圧倒的といえるだろう。
つまり、ロシアルーブルは流動性の低さから値動きが大きくなりやすく、利益を得る機会が多い一方で、損失が拡大しやすいリスクもあることを理解しておいてほしい。
世界各国の中央銀行をメンバーとした国際決済銀行組織
ロシアルーブルの価格変動要因
次は、ロシアルーブルの価格変動要因を見ていこう。ロシアルーブルは流動性が低いことから突発的な値動きになりやすいため、取引をおこなう上ではとくに注意してほしい。
原油価格
ロシアは世界トップの原油産出国であることから、原油価格の動向はとくに重要だ。
原油価格が高騰すれば、ロシアにとっては収益拡大に繋がるため、成長が期待できる資産としてロシアルーブルが買われる可能性が高まるだろう。逆に下落すれば売りが強まるという予測にも役立つのだ。
原油価格の動向を知るには、米国テキサス州とニューメキシコ州で算出される高純度原油の先物価格を表す「WTI原油先物価格」をチェックしてほしい。
運営主体は米国だが、WTI原油先物は世界中の投資家が参加する大規模な市場であるため、ロシア産の原油価格の指標としても活用できる。
地政学リスク
ロシアはヨーロッパや中国と地理的な距離感が近いことから、地政学リスクに関しても注意してほしい。
地政学リスクとは、特定の地域やエリアで発生した軍事、あるいは政治的な問題が別の地域へ与える影響を指しており、他国への軍事関与や領土問題などがあげられる。
たとえば、2014年に勃発したウクライナ侵攻による経済制裁、そしてトルコ軍によるロシア軍用機撃墜のニュースも一時大きな話題となった。
日本においては第二次世界大戦以降、北方領土問題が尾を引いている。近年は膠着状態が続いているとはいえ、いつ新たな動きがあっても対応できるように把握しておく必要がある。
そして直近では、中国海軍と共同しておこなった日本近海の周航も新たな緊張を生んでいることから、ロシアルーブルを取引する際はしっかりと情報を押さえてほしい。
ロシアの経済指標
ロシアルーブルを取引する上では、ロシアの経済状況を掴むために経済指標もチェックしておこう。具体的には次の項目を押さえてほしい。
経済指標 | 概要 |
---|---|
政策金利 | ロシア中央銀行による政策金利発表 |
インフレ率 | インフレの度合いを示す指標 |
貿易収支 | 輸出と輸入額を差し引いたロシアの貿易収益額 |
WTI原油先物価格 | 世界的な原油価格の指標 |
先ほど触れたロシアの金融政策を考慮すれば、政策金利やインフレ率の変動はロシアルーブル相場の直接的な価格変動要因に繋がるため、とくに注目してほしい。
また、貿易収支とWTI原油先物価格もロシア経済の収益に深く関わる指標である。
ロシアルーブルは通貨の流動性が低いことから、事前の市場予測との乖離が大きいほど突発的な価格変動が起こる可能性があることにも注意が必要だ。
取引の際は乖離の度合いからどのような値動きになるかをあらかじめ想定しておくとよいだろう。
ロシアルーブルの今後の見通し
ロシアルーブルの今後の動きを把握するために、まず政策金利の動向をしっかりと理解しよう。
2020年初頭、コロナウイルス感染拡大によってロシア国内の消費が冷え込んだ際は、一時的に4%前半まで下落する動きを見せた政策金利だが、経済的に復調してからは7.5%と高水準に持ち直している。
ロシア中央銀行は依然としてインフレ抑制を継続する姿勢である。
インフレ率は経済が上昇基調の際に高まる性質を考慮すれば、ロシアの中心産業である原油の価格についてもしっかりと把握してほしい。
原油価格
2021年10月現在、エネルギー資源の価格が世界的な高騰を見せており、とくに原油価格に関しては2022年も堅調に推移していくことが見込まれている。
そのため、原油価格高騰によるロシアのインフレ懸念は引き続き年を跨いで継続すると予測されていることから、政策金利に関しても伸びしろがあるといえるだろう。
そういった市場の期待感は既に織り込まれていると観測されており、2021年10月の時点では約1年7か月ぶりの高値を更新している。
このような期待値が裏切られた場合
ロシア経済の重要指標となる貿易収支やWTI原油先物価格が市場予想から大きく下落した場合は、突発的な売り注文が発生する可能性が高い。
それにともなう経済的な低迷が引き起こす政策金利の引き下げは、さらなるインパクトを呼ぶだろう。
たとえ政策金利が期待通りに推移したとしても、「中国との軍事的連携や北方領土問題といった地政学リスクが活発化した場合は、ロシアルーブル/日本円の下落に繋がる」というリスクも考慮しながら取引してほしい。
ロシアルーブルはどのような人におすすめできる通貨か
ここからは、ロシアルーブルが持つ特徴から、どのような人におすすめできる通貨なのかを解説する。
- 高水準の政策金利
- 地政学リスクに注意が必要
- 原油価格の影響を受ける
おすすめできる人
ロシアルーブルは、FXにおける通貨の中でも高水準の政策金利であることから、長期的に建玉を保有してスワップポイントを得る取引をするトレーダーにおすすめだ。 そして、原油価格やロシアのインフレ率を見て政策金利の変動予測が立てられる人や、マーケットニュースから地政学リスクを読み取り、ロシアルーブル相場に与える影響を分析できるトレーダーにとっても取引に適しているといえるだろう。
おすすめできない人
ロシアルーブルは地政学リスクや原油価格の影響を強く受ける性質上、マーケットニュースや経済指標発表といったさまざまな情報を分析するのが苦手な人にはおすすめできない。
少なくともWTI原油先物価格のチャートなどをチェックして、どのように推移しているか、前回と比べてどうなっているのかを明確に判断できるようになってからチャレンジしてほしい。
また、政策金利が発表される際のロシア中央銀行の発言などはとくに重要な指標であるため、基本的な金融用語もしっかりと覚えておく必要がある。
ロシアルーブルを取引する場合の注意点
次にロシアルーブルを取引する際の注意点を見ていこう。
- 取り扱っているFX会社が少ない
- 突発的な価格変動リスクが存在する
- 日本との政治的関係性も影響を及ぼす
取り扱っているFX会社が少ない
ロシアルーブルは全体的な取引量が少ないマイナー通貨であるため、取り扱っているFX会社が少ない。
同じくマイナー通貨であるトルコリラやメキシコペソと比較しても取り扱っているFX会社が少ないため、スワップポイントやスプレッドだけでなく、取引ツールの使いやすさやサポート体制なども含めて、どこで取引するかを決めてほしい。
また、実際に資金を入れなくても取引できるデモ口座や、将来的な値動きを表示する「未来予測チャート」なども利便性が高いため、FX会社を選ぶ際の参考にしてほしい。
突発的な価格変動リスクが存在する
流動性が低いロシアルーブルにおいては、ロシア中央銀行の利下げや期待感を裏切るネガティブな発言、または経済指標発表の内容が予想よりも悪かった場合、突発的な価格変動が発生する可能性がある。
そういったタイミングで自分の注文と逆方向にチャートが変動すると、予想外に大きな損失が発生するリスクがある。
そのため、経済指標や地政学リスクに絡むニュースについては欠かさずチェックしてほしい。
日本との政治的関係性も影響を及ぼす
ロシアルーブルを取引する上では、数十年継続している北方領土問題や近年巻き起こっている中国との軍事連携による緊張感の高まりに注意する必要がある。
万が一協議がもつれた場合は、エネルギー資源の輸出制限といった経済制裁に発展する可能性もゼロではなく、直接的なロシアルーブル/日本円の下落に繋がるだろう。
現状、そういった気配は見られていないが、完全に解消された問題ではない以上、頭の片隅には入れておいてほしい。