FXで損切りルール・目安を決めないトレードはリスクが大きい理由

FXは、日々変動する相場や通貨発行国の経済状況を分析し、外貨の売買差益と金利差によるスワップポイントで資産を増やしていく投資手法である。
レバレッジをかけることで預けた資金以上の取引ができることから、どうやって大きな利益を得るかに注目されやすいが、FXを長く続けるのに重要なのは、利益を出すことよりも可能な限り損失を抑えることだろう。
そのためには「損切りルール」を決めて、それを徹底して続けることが大切だ。
この記事ではFXの取引で大切な損切りの目安、そして損切りルールを決めないことで生まれるリスクについて解説する。
明確な損切りのルールがあるわけではない
- まったく同じ値動きは存在しないから
- 様々な要因で価格が変動するから
損切りとは、自分が保有している建玉に発生した含み損を決済して、それ以上損失が拡大しないようにする手法だ。
資金を守るために損切りはかなり重要であるが、「すべての状況に当てはまる明確なルールが存在するわけではない」ということは知っておいてほしい。
まったく同じ値動きは存在しないから
ある程度似たような相場はあっても、まったく同じ値動きになることはない。
たとえば、上昇中のドル/円のチャートが100円付近で何度も反発しているとしよう。
数銭程度の微細な反発を繰り返した後、徐々に右肩上がりになってそのまま100円を突き抜ける可能性もあるが、将来的にどうなるかを正確に判断することはできない。
100円を抜けずにそのまま一気に下落する可能性も十分に考えられる。
このような不確実性の高い相場において、確実な損切りのルールを決めるのは困難といえるだろう。
様々な要因で価格が変動するから
為替相場の価格はいつも同じ要因で変動するわけではないため、損切りルールもその都度適切な基準を設定する必要がある。
代表的な価格変動要因としては、次の4つがあげられる。
- 経済政策に関与する大臣や関係者による発言
- 市場予想に反する経済指標発表の結果
- 中央銀行による政策金利発表
- 戦争や経済的対立等の地政学リスク
また、ファンダメンタルズに分類されるこれらの要因以外にも、テクニカルの視点から大きな注文が入り、値動きが発生するケースもある。ファンダメンタルズとは、国家や企業の経済状態を示す指標である。対してチャートパターンを中心に将来的な値動きを予測する手法をテクニカル分析と呼ぶ。
たとえば、数か月に渡って反発してきたドル/円の90円ラインを下抜けたとしよう。
その場合、相場に参加しているトレーダー達はもっと下がるのではないか、という期待を込めて売り注文を大量に入れるケースが多い。
このように、経済的な要因だけでなく投資家やトレーダーの動きなど、様々な要因が折り重なって価格が変動しているため、損切りルールもその都度で柔軟に切り替えていく必要がある。
<経済指標発表>
各国の経済状況を数値化した指標。雇用統計や政策金利発表があげられる。
<地政学リスク>
ある特定の国または地域が抱える社会的、経済的な緊張感の高まりが、異なる国や地域に影響を及ぼすこと。
損切りのルールや目安を決めないことのリスク
- ロスカットで大きく資金を失う可能性がある
- 機会損失が発生する
- 損切り貧乏に陥ってしまう
次に、損切りのルールや目安を決めずに運用することのリスクについて見ていこう。
損切りはFXの取引をおこなう上で最も重視するべき手法であり、損切りができずに多くの資金を失うケースもあるため、ここで触れるリスクをきちんと把握してほしい。
ロスカットで大きく資金を失う可能性がある
損切りのルールを決めずに取引することのリスクとして、ロスカットによる大幅な損失があげられる。
FX会社はトレーダーの資金を最低限度保全するため、口座資金額に対して一定割合の含み損が発生した場合、保有している建玉を強制的に決済する。
しかも大きな損失を出してしまうことで、証拠金を追加しなければ同じLotで取引できなくなったり、負けを取り返すために大きくLotを張って取引をしてしまったりするリスクがともなう。
こうなってしまうとギャンブル要素が強くなってしまい、ルールに沿った忠実な取引をすることが難しくなる。
まずはルールをしっかりと決め、「証拠金の〇%の損失が出たら絶対に損切りをする」という強い意志を持つことが大切だ。
機会損失が発生する
損切りルールを決めないでいると、口座資金を減らしたくない気持ちばかりが先行して、含み損を放置してしまうことがある。
FX業界ではこの状態を「塩漬け」と呼んでおり、いつか含み益に転じることを願って建玉を保有し続けることは決して良いこととはいえない。
口座資金に対して取引量が多すぎると、塩漬けにしている間に新しい注文を入れることができず、機会損失が発生するからだ。
また、塩漬け中に新しく注文を入れて、その注文も逆行してしまえば、ロスカットになってしまう可能性も十分にあり得る。
損切りをしない状態が続くことで、チャンスが訪れたときにその機会を逃してしまうリスクがあるのだ。
損切り貧乏に陥ってしまう
きちんと損切りをしているとしても、感覚だけで決済を繰り返していてはトータルの利益よりも損失が大きくなってしまうだろう。
FXではこういった状態を「損切り貧乏」と呼んでおり、将来的な値動きの予測が十分でないため、利益に繋がる効果的な注文ができずに損失を増やし続けてしまう。
そのため、損切り貧乏に陥っている人は、移動平均線等のテクニカルチャートを利用して「次に移動平均線にタッチするまでは注文しない」といった明確な注文ルールを確立してほしい。
注文ルールにのっとり、損切りの回数や損失金額を軽減していくことで、着実に利益を積み重ねていくことができるだろう。
チャートに表示させて将来的な値動きを判断するためのツール。
自分の中で損切りのルールを決める目安
- 注文と逆方向に動いたとき
- 含み損が〇〇円になったら
損切りルールに明確な定義は存在しないが、ルールを決めるための目安はいくつか存在する。
大きな損失を防ぎつつ、コツコツと利益を積み上げていくには大切なことなので、ぜひとも参考にしてほしい。
注文と逆方向に動いたとき
自分の注文の根拠が崩れて逆方向に動いたときは損切りの目安とすることをおすすめする。
代表的な売り注文のサインである三尊(*7)を例にあげると、右肩付近で売りから入ったところ、思うように下落せずそのまま中央の山を越えて上昇したため損切りをおこなうといったイメージである。
「想定した値動きにならなかったら損切り」というふうにわかりやすいルールを決めておくとよいだろう。
また、移動平均線で反発したら売り注文を入れるがラインを抜けたら損切り、あるいは上昇トレンド中に買い注文をおこなうが、直近安値を下回ったら損切りするなどのルールも有効だ。
将来的な値動きを予測するFXにおいて、自分の予想外の値動きとなった場合は負けを認めて、大きな損失になる前に損切りするということを意識しておこう。
ヘッドアンドショルダーあるいはトリプルトップの別名を持つ。チャートが上昇して高値を付けてから反発下落、再度上昇して1度目の高値を超えた高値を付けて再び下落し、中央の山よりも低い位置で高値を付けて下落しているチャートパターン。
含み損が〇〇円になったら
注文の根拠が難しく感じる場合は、「含み損が1万円に到達したら損切り」というふうにルールを決めておくことをおすすめする。
ただし、損失にフォーカスしなければならないため、口座資金を減らしたくない気持ちが先行し過ぎると損切り基準を少しずつ引き延ばして、最終的に塩漬けにしてしまう可能性もあるだろう。
また、よく似た指標として含み損ではなく逆行値幅で判断する方法もあるが、こちらも同様に機械的な決断力がなければロスカットぎりぎりまで躊躇してしまうケースがある。
そのため、逆行値幅や含み損を損切りの目安とする場合は、新規注文と同時に損切り注文を設定しておいて、自分の感情とは関係なく決済がおこなわれる状態にしておくとよいだろう。
トレードスタイル別の損切りの目安
FXのトレードには大きく「スイングトレード」「デイトレード」「スキャルピング」「中長期トレード」という形で時間軸に合わせたトレードが存在する。ここでは「スイングトレード」デイトレード」「スキャルピング」の損切りの目安について見ていこう。
スイングトレード
スイングトレードは建玉を数日~数週間程度保有するスタイルであり、取引量を小さく設定してある程度相場が逆行しても耐えられるような金額で取引をおこなうようにしよう。
取引量を大きくしてしまうと大きな逆行がおこったときにロスカットになるだけでなく、「起きたときに大きく相場が逆行していたらどうしよう」といった精神的不安にさらされる可能性も十分に考えられる。
そのため、余裕をもった取引量で取引し、損切りの目安も数十から百pips程度と広く見積もっておくことをおすすめする。
デイトレード
保有した建玉を1日以内に決済するデイトレードは、短期間で取引が完結するスタイルである一方、その日の相場状況次第で10pipsから100pips程度と想定利益幅が大きく異なる。そのため、損切り目安も変動しやすいのだ。
たとえば、目立った経済指標発表がなく緩やかな値動きの相場なら、30pips程度の利益を狙いつつ損切りは半分の15pip程度を見込んでおくとよいだろう。
逆に乱高下が予想される場合は、利益を80pips、損切りを40pipsと少し広めに設定してもよいだろう。ただし、大きな損失にならないように取引量には気をつけよう。
「利益と損切りを同じ値幅にしたい」と考える人もいるかもしれないが、正直あまり得策とはいえない。
第一に、損切りは含み損が拡大し始める段階に実行する必要があるため、利益幅ほどに膨れ上がってしまうと資金の大部分を減らしてしまう可能性があるのだ。
次に注意しておきたいのがスプレッドの問題である。スプレッドとは、FX会社が設定している売値と買値の価格差であり、実質的な取引コストといえるだろう。
具体的には、スプレッドが1円の米ドル/日本円を100円で買うと、101円に上昇するまで利益が得られないということだ。
したがって、利益と損切り幅をまったく同じにしてしまうとスプレッドの分がマイナスになってしまうことから、スプレッド分も考慮して、損切り目安は利益の半分程度にすることをおすすめする。
スキャルピング
数秒から数分程度で取引を完結させるスキャルピングは、1回あたりに狙う利益幅を10pips程度に抑えて、少しずつ利益を重ねていくスタイルだ。
また、実際の資金に対して大きな通貨量を保有するのが基本であるため、逆行した際に許容できる値幅は他のトレードよりも低く設定しておくことが大切だ。
損切り目安に関しては5pips以内に設定するのが一般的である。
しっかりと損切りルールを決めてリスク管理を徹底することが大切
FXは、売買差益やスワップポイントを積み重ねて資産を増やせる利益効率の高い投資であるため、ついつい利益を出すことばかりに注目してしまいがちだ。
しかし「どれだけ資産を減らさないか」という視点は利益を出す以上に重要であり、そのためには損切りルールをしっかり決めて、それを忠実におこなうことが大切である。
これからFXを始める人は、損切りができないことのリスクをしっかりと理解して、堅実なトレードで利益を積み重ねていこう。