中国人民元の基礎知識|今後の見通しや取引における注意点をわかりやすく解説

FXの資産運用効率を高めるためには、通貨毎の特徴と値動きの主要因を掴み、今後の見通しを分析したり、適切なトレードスタイルを見つけることが大切だ。
現在の市場においては数多くの通貨が存在しているため、慣れないうちは「どの通貨を選択すればいいのかわからない。」という悩みもあるのではないだろうか。
この記事では世界第2位のGDPを誇りながら、6年近くにおよんで高金利を維持している中国人民元について解説する。
人民元を取引する注意点についても説明しているので、人民元の取引を考えている人はぜひ参考にしてほしい。
この記事の目次
人民元の基礎知識
人民元を発行している中国は、1949年の国家成立から現在に至るまで中国共産党による一党制を採用しており、人口、国土の水準は世界でもトップクラスを維持している。
近年においては、製造業を主体に目覚ましい経済発展を継続しつつ、IMF(国際通貨基金)が設けている加盟国準備資金の補完手段であるSDR(特別引出権)に組み込まれたことで国際通貨として認定された。
また、GDP(国内総生産)に関しても2010年の時点で日本を抜いて世界第2位に躍りでている。
こういった背景から、国際銀行間における決済シェアも英ポンドや日本円といった主要通貨と肩を並べるほどの高水準になっており、今後においても通貨の需要拡大や国家的な経済成長に注目が集まっている。
使用国 | 中国 |
---|---|
通貨記号 | 中国本土取引:CNY(オンショア人民元) 中国本土外取引:CNH(オフショア人民元) |
開始日 | 1949年 |
中央銀行 | 中国人民銀行 |
中央銀行総裁 | 易 綱 |
供給量 | 217.2兆人民元(M2) ※2020年11月末 |
最優遇貸出金利 | 3.85%(LPR、ローンプライムレート) ※2021年9月 |
10年国債金利 | 2.974% ※2021年10月27日終値 |
物価上昇率 | +2.7% ※2021年IMF予測 |
GDP成長率 | +8.2% ※2021年IMF予測 |
公式サイトURL | http://www.pbc.gov.cn/en/3688006/index.html |
人民元のオンショア人民元とオフショア人民元の違いと市場
人民元が持つ大きな特徴の一つとしてあげられるのが、同一の通貨でありながらオンショアとオフショアという2種類に区分けされた取引市場であることだ。
オンショア市場とは中国本土で居住者のみが取引できる国内市場を意味している。
オフショア市場は国外の投資家が人民元を売買できる市場のこと。基本的に国外の投資家は、オフショア市場でしか取引ができないようになっており、グローバルでみるとメインの市場となっている。
人民元は本来、中国の中央銀行であるPBOC(中国人民銀行)によってレートがコントロールされている。
さらに、原則として中国本土の居住者や貿易等の実需取引でしか利用できず、対ドルの変動幅に関しても±2%以内と厳格な運用がされてきた。
一方、そういった自国通貨の運営策は結果として国際金融市場に対してクローズドな環境を作りだすことに繋がってしまった。
中国自体は世界的な経済大国でありながら、通貨である人民元に関しては世界的に流動性が低いという反比例の構図となっていた過去がある。
この状況を改善するため、中国は人民元をよりオープンな市場へ解放しようと、2010年に香港にて国外における取引を管轄するオフショア市場を設け、従来の管理体制を継続するオンショア市場と区別するに至ったのである。
現在、外国為替市場において取引されているのは原則CNHと表記されるオフショア人民元であり、取引レートもオフショア市場の実勢レートに準じている。
オフショア人民元はオンショア人民元のCNYと違って、中国に居住していなくとも売買が可能だ。変動幅の制限もされていないことから、他の通貨同様、自由に取引することができる。
人民元の価格変動要因
価格変動要因を把握する基本的なポイントは「消費者物価指数や輸出産業の動向を示す貿易収支」「GDP等経済指標」があげられる。
中でもとくに注意したいのが、PBOCによる為替コントロールだ。
PBOC(Peoples Bank Of China)とは中国人民銀行の略称である。PBOCは日本の日本銀行の立ち位置となっており、中国の中央銀行となっている。
中国はこれまで輸出産業の優位性を維持するために、たびたび為替相場に介入しており、米中貿易摩擦が激化していた2019年には、人民元の基準レートを市場予想よりも低く設定することで元安に誘導した。
そして2015年も対米ドルで基準値を大幅に引き下げており、一瞬で約400pipsが値幅発生する要因を作ることもあった。
これらは市場において人民元ショック、あるいはチャイナショックと呼ばれており、市場介入による価格変動は今後も危惧されている。
また中国の場合、急なリスクというのが発生しやすいためシャドーバンキング問題などに注意が必要だろう。
中国経済が急に崩壊した場合、世界的に影響を与えることになる。FXの取引においては、円高圧力になったり、豪ドル安や新興国通貨安になったりという影響が出る可能性がある。
人民元のスプレッド・スワップポイント
2022年1月11日時点のFX会社のスプレッド・スワップポイントは次の通りだ。
人民元/円 | 外為どっとコム | みんなのFX | LIGHT FX | SBI FXトレード | 外貨ex byGMO | 楽天FX |
---|---|---|---|---|---|---|
スプレッド |
0.9銭 原則固定 ※例外あり |
0.9銭 | 0.9銭 | 1.69銭※1 | 3.0銭 原則固定 ※2 |
0.9銭 |
スワップポイント (買い) |
1円 | 1円 | 1円 | 0円 | 2円 | 2円 |
※1:注文数量1,001~100万までのスプレッド最頻値
※2:午前9時~翌午前3時
人民元においては通貨ペアの間に発生する金利差である、スワップポイントについて説明していこう。
中国の政策金利は3.85%(2021年11月20日時点)と高水準だ。
ちなみにオンショア人民元のCNYはスワップポイント自体が発生しない。
ただし、FXで取引するのはオフショア人民元であるCNHが基本であるため、念のために知っておく程度で問題ないだろう。
人民元を取引する場合の注意点
人民元の特徴を押さえたところで、ここからは取引する場合の注意点について解説する。地政学リスクや中央銀行の管理フロート制等、運用に大きく影響するポイントであるため、じっくりと理解してほしい。
地政学リスクとイベントリスク
特定地域の抱える政治的、もしくは軍事的な事象が活発になることで、地続きの近隣国や往来のしやすい位置に属する地域、あるいは世界経済全体の先行き不透明感が拡大する地政学リスク。
広大な国土を持つ中国においてはまさに警戒するべき要素と言えるだろう。
過去には北朝鮮による核実験実施が人民元の下落圧力に発展し、2日程度で数十pipsが下落している。
また、中国の原油輸送業進出にともない、兼ねてより対立が懸念されているインド海軍が各国の主要航路である「マラッカ海峡の封鎖」を検討している。
仮に実行されれば原油市場はもちろん人民元にとってもリスクオフ要因に繋がる可能性がある。
- リスクの高い資産から安全性の高い資産に移す動き
- 景気が悪化する局面で見られる
さらに、事前に予期することが困難な自然災害やテロ被害、政変(政治・政権の変動)といったイベントリスクに関しても注意が必要である。
直近では中国政府による自国企業への規制強化が短期的なファンダメンタルズに影響を与えた。その後2日程度をかけて100pips近い暴落を引き起こしている。
以上の点を踏まえて人民元に投資する際は、中国の地政学リスクと一党制による素早い政変がもたらすイベントリスクの両方を考慮してほしい。
中央銀行の管理フロート制によるレート操作
人民元のもう1つの注意点として、PBOCによる管理フロート制に基づいた為替レート操作があげられる。
これは為替レートの変動幅を限定する固定相場制の1種である。市場の需給に基づいて価格を決定する一方、必要に応じて中央銀行が介入し値動きを管理する制度だ。
そして中国は2005年の人民元改革を境に従来の米ドルのみに連動した調整(ドルペッグ制)を変更した。
ユーロや円、米ドルといった外貨を貿易加重等を基に比率調整し、各通貨に対する増加率分を調整する通貨バスケットを参考する形に方針転換している。
ただし、これまでのPBOCによる人民元の切り下げ動向から、依然として米ドルとの強い連動が見受けられている。
2015年の輸出下支えを目的とした元安誘導などもあることから、経済状況によっては、実質的な中国当局主導の固定相場制に切り替えている事実も考慮しなくてはならないだろう。
今後の人民元の見通し
今後の人民元の動きとして「短期的には下落圧力もかかりやすいが、コロナショックが落ち着く過程で世界経済が回復すると人民元高になりやすい」というのが結論と考えている。
中国はアリババ等の自国大手IT企業に対する規制強化を実施しており、株式市場の下落とそれにともなう人民元の下落ムードが発生している。
また、南シナ海の領有権に関するASEAN諸国との交渉や、インドとの軍事的対立、台湾との衝突といったさまざまな地政学リスクに関しても引き続き注目するべきだろう。
世界経済がコロナショックから回復の兆しを見せていることから、各国がこれまでの金融緩和の姿勢を転換しテーパリングを目指し始めていることも重要なトピックスと言える。
そのため、テーパリングが進む環境下、対米ドル、対日本円といった相場において人民元が下落する可能性も考えられる。
しかし、中国政府は今日に至るまでバブル市場の金融引き締めや、中央銀行の預金準備率を引き下げて金融緩和を図るなど、飴と鞭を使い分けて市場をコントロールしている。
したがって、人民元の顕著な方向性は発生しにくい状態となっており、一時的なダウンサイドリスクは抱えつつも依然として資本流入は続く見通しであると考えられるため、長期的には元高方向への推移が見込めるだろう。
人民元の取引はどのような人におすすめか
人民元には次のような特徴があり、中国当局による変動幅の抑制は急落・急騰リスクをある程度回避できる特性とも言えるだろう。
- 過度な変動が起きた場合、中国当局が抑制する
- 人民元/日本円が1通貨あたり16円程度と安価なため少額資金で運用できる
- 高金利を維持していることから、人民元円のスワップポイントが高い
以上の内容から、人民元は中長期的保有のスワップトレードを検討する方におすすめと言える。とくに金利差の大きい人民元/日本円を採用すればより効率的に運用していけるだろう。
一方、ドル円やユーロドルのようなメジャーな通貨ペアと比較すると、スプレッドが広い傾向がある。
そのため、スプレッドの観点から短期的な売買には適していないと言える。
人民元を取り扱っているFX会社
ここからは人民元を取り扱っているおすすめのFX会社を解説していくため、今後チャレンジを検討している方はぜひ参考にしてほしい。
外為どっとコム
国内の主要FX会社に数えられる外為どっとコムは、1通貨単位(通常トレードは1,000通貨から)から投資できる「らくらくFX積立」を提供しており、簡単な設定を済ませれば自動的に通貨を買い増していくことが可能である。
また、同サービスの利用者に限り10万通貨あたりの人民元/日本円のスワップポイントが120円になるキャンペーンを実施していることも大きな魅力の一つだろう。
初心者向けの学習コンテンツも充実しているため、初めて口座開設するFX会社としておすすめである。
SBIFXトレード
出典:SBI FXトレード
SBIFXトレードは人民元/日本円10万通貨あたり60円程度と3社の中では比較的低い水準となっているが、最小取引単位が1通貨に設定されている。
そのため、少額資金でリスクを落としたいトレーダーにとって大きなメリットとなるだろう。
また、シンプル仕様に特化したスマホアプリはさまざまな場面でチャンスを逃さずトレードできるため、スワップポイントを運用しつつ、少額で裁量トレードにチャレンジしてみるのも有効な手法である。
みんなのFX
出典:みんなのFX
トレイダーズ証券が運営するみんなのFXは、人民元/日本円のスワップポイントが10万通貨あたり80円と高水準に設定されており、1円未満からこまめに積み立てられる取引ツールはスワップトレードにマッチした仕様といえるだろう。
また、ポジションを保有したままスワップを出金することもできるため、中長期的な運用を検討している方にはおすすめのFX会社である。