JALや地銀などと組む住信SBIネット銀行が「NEOBANK」で目指す新しいバンキングのあり方【インタビュー】

金融業界の将来に対する不安の声は小さくない。銀行や証券など金融機関はいずれも生き残りをかけて新しいあり方を模索している。海外では、銀行業免許を持たずに金融サービスを提供するなどといった、新しいバンキングのあり方を体現したネオバンク・チャレンジャーバンクという存在が生まれ、支持されている。

こうした中で、住信SBIネット銀行が「NEOBANK」という構想を掲げ、推進している(NEOBANKは住信SBIネット銀行の登録商標)。これは銀行としてのインフラを銀行以外の事業者に提供するBanking as a Service(BaaS)事業だ。既にJALと協業しているほか、CCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)グループとは協業に向けた協議をしているという。

この事業をリードするのが、住宅ローン会社の社長やSBIグループのスタートアップでリップルの普及に携わった経験を持つ直海知之氏だ。執行役員ネオバンク事業部長である直海氏に、NEOBANKの意義、取り組む狙いについて訊いた。

API開放の実績はトップクラス

住信SBIネット銀,直海氏
直海知之(なおみ・ともゆき)氏 住信 SBI ネット銀行株式会社 執行役員ネオバンク事業部長。Dayta Consulting 株式会社 代表取締役社長、JALペイメント・ポート株式会社 代表取締役副社長も兼任。過去にはアルヒグループ株式会社代表取締役社長COO、住信 SBIネット銀カード株式会社 取締役なども務めた(写真:森口新太郎)

住信SBIネット銀行は、その名前から分かるとおり、三井住友信託銀行(設立当時は住友信託銀行)とSBIホールディングスの共同出資によるオンライン専業の銀行だ。2007年の開業から13年たった現在、預金残高は5兆3914億円(20年3月末時点)でネット銀行トップを走る。ちなみに続く大和ネクストが4兆円、楽天が3兆5000億円(6月に4兆円台に)となっている。

住信SBIネット銀行資料より

同行はベンチャー精神あふれるSBIグループということもあってか、「新しいことが好き。業界に先駆けて何かをやろうという環境がある」(直海氏)という。その一例が、昨今、銀行界隈で関心の的になっている「APIの開放」にも積極的なことだ。

2015年8月にAPI開放を公表した同行は、家計簿アプリのマネーフォワード、クラウド会計ソフトのfreee、ロボアドWealthNaviをはじめ、多くのスタートアップのサービスと接続。接続先は既に20社を超えており、これは国内でもトップクラスと言える。

APIの開放先は、ここ数年急速に伸びたFintechベンチャーが多い。特に海外では「ディスラプター」(編注:創造的破壊者の意。disruptは本来「中断する」「破壊する」を意味する)と呼ばれ、一部の業務に関しては銀行に取って代わると目される存在と組むことについて、直海氏は「長期でみれば銀行にもいいことがある。マネタイズを急ぐのではなく、新しいこと、お客さまのためになることをやろうということ」と話す。

なぜNEOBANK構想に行き着いたのか

「銀行」は昔から何かとやり玉にあげられ、あるべき姿や将来像について、愛憎相半ばする表現であれこれ言われてきた。そして昨今、フィンテックという単語が生まれ、銀行の将来を悲観視する声は一層大きくなったように感じられる。

「フィンテック」もどんどん進化している。SBIホールディングスの北尾吉孝社長は、銀行や証券、保険などの各種金融サービスがWebを活用した「フィンテック1.0」を経て、現在はブロックチェーンやアプリを活用した「フィンテック1.5」にあると定義。メディアのインタビューなどで、いま目指していることを話している。それは次のフェーズである「フィンテック2.0」において、WWW(World Wide Web)ではなくブロックチェーンを基盤技術とする新しい金融生態系を構築すること。北尾氏はもはやWWWすら不要だとしている。

新しい金融のあり方が実現する将来、銀行はどうなっているのだろうか。銀行は顧客に何を提供すべきか──。銀行でもあり、インターネットを活用したフィンテック企業でもある住信SBIネット銀行にとっての、今考えられる答えが「NEOBANK」ということなのだろう。

直海氏はいう。「ビル・ゲイツ氏が『バンキングは必要だが、今ある“バンク”は必要なくなる』といい、ブレット・キング氏が『Bank3.0』でその言葉を引用しましたが、まさにそんな未来の到来を信じている」

フィンテックが起こり、銀行の将来を危惧する声が高まった背景には、銀行機能の「アンバンドリング」が進んだことがある。銀行が提供するサービスには、融資、資産運用、決済、送金、家計簿などがあるが、各サービスに特化したフィンテックベンチャーが生まれ、消費者はサービスを銀行で一括で受ける必要がなくなった。

しかし、銀行がAPIを開放し、フィンテックベンチャーなどの事業者と組み始めたことで事態は変わりつつある。直海氏も「これから起きるのは、バラバラになった各金融サービスを、異業種の企業が銀行APIを活用しながらまとめる『リバンドリング』の動き」と指摘する。

JAL NEOBANKの仕組み──システム・インフラの提供だけではない

NEOBANKとは、銀行の機能──融資・決済・預金──を銀行以外の事業者に提供するサービスだ。パートナー企業が銀行代理業のライセンスを取得するサポートをし、パートナーにあわせた金融サービスを提供する。

住信SBIネット銀行資料より

ポイントは、直海氏が「顧客基盤とブランドを持つパートナー企業に我々の金融サービスを提供するもので、そういう仕組みを共同で構築しようという試み」と解説するように、“顧客基盤とブランドを持っている”企業がパートナーという点だろう。

たとえば同社が既に組んでいる日本航空(JAL)がその一例だ。JAL NEOBANKは、JALのグループ会社JALペイメント・ポートと住信SBIネット銀行との共同事業で、「JALマイレージバンク会員専用のネット銀行サービス」。アプリで預金や決済などの銀行機能を利用でき、銀行取引でマイルも貯められる。仕組みとしては、住信SBIネット銀行のJAL支店をつくったかっこうで、外貨預金や両替の際の為替レートは住信SBIネット銀行とまったく同じだという。

住信SBIネット銀行資料より

その発端となったは2017年にJALとSBIホールディングスが設立した共同持株会社JAL SBIフィンテックだ。この新しい持株会社と、JAL、住信SBIネット銀行の計3社がつくったJALペイメント・ポートがJAL NEOBANKを運営している。

JALといえばJALマイレージバンクの人気が根強い。「飛行機にはあまり乗らないがマイルを貯めている」という人もいるだろう。JALはクレジットカード・JALカードを発行しているが、その利用者はビジネスなどで高頻度で飛行機に乗る人が多い。

一方で、出張族でもなく、あまり飛行機に乗らない顧客との接点を増やしたい。そう考えたときに有益なのが、決済など日常的に使う金融サービスを提供することだった。航空券の支払いだけでなく、日々の買い物の決済データもたまり、マーケティングに活用できるメリットもある。

しかし、だからといって事業会社が銀行を設立するのは容易ではない。銀行法をはじめとした規制は厳しく、基準を満たす各種システム・インフラを持つにはコストがかかる。そこでBaaSのNEOBANKの登場だ。直海氏は「事業会社が欲しいのは、まさにゲイツ氏の言葉どおり、バンクではなくバンキング機能。NEOBANKを使うことで銀行業の高い参入障壁を超えられる」と力を込める。

ただし、単にインフラを提供するだけではない。銀行の強みはシステムだけではないからだ。「裏側のオペレーションなども含む銀行サービスすべてをラッピングして(まとめて)提供するのがNEOBANK。単なる金融プラットフォームを貸し出すのではなく、銀行のコンサルティングを通じてパートナー企業の金融機能強化をオーダーメードで実現している」

銀行機能を「地銀」に提供する理由

意外ともいえるのが、NEOBANK構想の中に「地銀」が入っていることだ。そもそもNEOBANKは銀行機能の外部への提供。だとすると銀行がサービスの提供先になるのはなぜだろうか。直海氏はこう解説する。

「地銀もすべて自前のシステムでやらずにNEOBANKを使ったほうが効率化を図れる部分がある。さらに地銀と我々とでは顧客基盤が違うので共創のメリットがある」

SBIホールディングスは「第4のメガバンク構想」を掲げ、地方銀行の収益性改善や地域活性化を目指して地銀連合を構築しつつある。20年3月期の決算説明会でも、新たな持株会社「SBI地銀ホールディングス」を設立する方針を示したばかりだ。

住信SBIネット銀,直海氏
(写真:森口新太郎)

各都道府県に存在する地銀は、地域経済の疲弊とともに経営が厳しくなっている。地銀同士の連携やフィナンシャルグループの構築で省コスト化を図っているところもあるが、全体でみると厳しいところが多い。

そして、地銀はデジタライゼーションが遅れており、アプリがないどころか、ネットバンキングすら始めたばかりというところもある。そういう地銀の弱いところ、できないことと住信SBIネット銀のサービス組み合わせることにはお互いに大きなメリットがありそうだ。

AIの活用でできること、地銀とその顧客のメリットとは

異なる顧客基盤の地銀とネット銀が組むことで、集められるデータの幅が広がる。住信SBIネット銀はAPIの開放にも積極的だが、AIの活用にも注力している。AIの精度を高めるにはデータの量と質が重要だ。直海氏は「量とばらつきが重要。同じ業界だけのばらつきではなく、異なる業種でのばらつき。こういうビッグデータが集まってくるととてつもなく面白いことができる」と指摘する。

住信SBIネット銀行資料より

同行は日立製作所と合弁会社のDayta Consulting社を設立、日立の人工知能「Hitachi AI Technology/Prediction of Rare Case」(AT/PRC)と、住信SBIネット銀行のデータハンドリング技術および融資ノウハウを組み合わせて、AI審査サービスやコンサルティングサービスを提供している。このJVの代表も直海氏が務めている。

銀行でAIの活用というとまず思い浮かぶのが与信の審査だろう。ローンの審査でAIを活用すると、満額承認率を高められる。満額承認とは、借り入れ希望者が希望する額の貸し出しを認めること。「たとえば審査を人がすると、貸し倒れリスクを回避しようとしてご希望より減額して承認するということが起こり得ます。そこでAIを活用することで、リスクを把握しながらご希望に沿った貸し出しができます。ただし完全にAI任せではなく、人の目と手も活かして全体でリスク管理を図っています」(直海氏)。

AIの活用で、地銀の顧客である中小零細企業に対して、トランザクションレンディングも提供できるようになる。従来、銀行は企業に融資する際、事業や財務・収入などの情報から返済能力を、資産価値から担保能力を評価していた。そこで、従来は判断材料にされなかった売買・決済などの取引の履歴(トランザクション)も活用し、融資を判断するというものだ。

中小零細企業は大企業と違って、資金繰りの担当者が社長の会社もあれば、家族経営で銀行に行く時間がない会社も、決算書類つくるのは税理士任せきりという会社もある。「中小零細企業は融資を受けようにも、従来の基準で厳しい判断をされたり、銀行が担当者をつける余裕がなかったりしていた。そういうところにも、必要な額を、リスク管理をしながら融資できるようになる」と直海氏。

地銀がNEOBANKを活用するメリットは、顧客にネットでの公営競技投票への参加機会を提供できることもある。公営競技の決済の部分は銀行が提供しているが、たとえばJRA(日本中央競馬会)などの厳しい基準を満たし、しっかりとしたシステムを構築するなどの条件がある。そのハードルは決して低くなく、地銀には難しい。そこで公営競技の決済インフラを持つ住信SBIネット銀行と組むことで、地銀が新たなサービスを提供できるようになるわけだ。たとえば地銀のアプリに公営競技のボタンを設置、押すと裏側ではNEOBANKのインフラが動くという仕組みが想定されるという。

住信SBIネット銀行資料より

NEOBANKという仕組みを通じて、銀行を含むあらゆる業種と組むこと。そこで得られるデータ。それが肝と言えそうだ。直海氏はいう。「銀行は事業やっておらず金融データしか集まらない。さまざまな業界と組んでデータがつむぐことで、新しい顧客体験が生み出せる。金利や手数料で施策・工夫も重要だが、そうした既存の延長線上の努力ではブレイクスルーは起きない」

ガラパゴスの日本での戦い方

NEOBANK事業をけん引する直海氏だが、昔は地銀をライバル視していたという。というのも、社長を務めたSBIモーゲージ(現アルヒ)では住宅ローン販売で競っていたからだ。その後、SBI Ripple Asiaでリップルの普及に従事しており、「アルヒ時代は打倒地銀で、フィンテック企業時代は地銀とタイアップ。いまネオバンク事業では地銀はパートナー。不思議なものです」と笑う。

その直海氏には、フィンテックベンチャーでの経験から感じたことがある。「フィンテック企業は、世の中を変えるポテンシャルのある技術やサービスをつくるのには向いているが、それを届けるのは、それこそ一部のメガベンチャークラスでない限り厳しい。サービスや仕組みを広めるのは、銀行がやるのが一番早い」。その気づきがNEOBANK事業につながった。

ネオバンクやチャレンジャーバンクは海外では代表例が生まれているが、果たして同行のNEOBANKが参考にしたところはあるのだろうか。

直海氏は「海外は(当社戦略上)参考にならない」と喝破し、その理由をこう話す。「アリペイやWechatPayも研究しましたが、海外で強いのは垂直統合モデル。これに対してガラパゴスの日本では、一つのブランドですべてまかなわれていない。アリペイはあらゆるサービスをまとめたスーパーアプリとして知られますが、日本では、それぞれのサービスを異なるアプリを使い分けられている。そういう国なので、チャレンジャーバンクがあるようで、ない国なのだと思う」

他行と差別化した取り組みにまい進しているが、決して安心しているわけではない。「外からやってきた研ぎ澄まされたサービスが、黒船として日本にやってきて、日本勢がやられてしまうかもしれない」──。そうした不安感がある。だからこそ事業会社を巻き込んで「日本ならではの金融サービスを作り、金融が身近なサービスにならないといけない」という危機感がある。直海氏はこう締めくくる。

「我々が大切だと思うのは最初にやることです。選択肢があったほうが業界にもお客さまにもいいことなので、2番手3番手も生まれてほしいが、一番手として形をつくりたい。日本の金融は変わらないといけないし、変えていきたい」

取材・文:濱田 優
写真:森口新太郎
編注:スライド資料を一部差し替えました