FXの両建て手法とは?両建ては禁止されているのか注意点を解説

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両建てとは

FXにおける両建てとは、1つの通貨ペアで売りと買い両方のポジションを保有することを指している。

同じ価格で両建てをおこなえば価格変動によって発生する損益が相殺される。これは理論上決済しているのと同じであり、通貨量や価格が異なる場合は差額分のポジションを持っている状態だ。

一見すると含み損の拡大を防止するメリットがあるように思えるが、両建てには様々な注意点が存在しており、実際のところFX取引ではあまり推奨されていない。

両建てがあまり推奨されていない理由

まずはFX取引において両建てが推奨されていない理由を解説する。取引手法の1つとして検討している場合は、しっかりと把握してほしい。

スプレッドとスワップポイントの負担が拡大する

両建ては売り買い両方のポジションを持つため、通常よりも多くのスプレッドを負担しなければならない。

スプレッドとはFX会社ごとに設定されている売値と買値の価格差を指しており、トレーダーにとっては実質的な取引コストといえるだろう。

たとえば、スプレッド1円のドル/円を100円で同時に両建てすると、買いポジションは101円になるまで利益が得られず、売りポジションは99円に下落するまでは含み損が発生した状態になる。

つまり、両建てを解消しない限り合計2円分のコストを抱えるのである。

また、FXでは二国間の政策金利差をスワップポイントとして付与する仕組みがある。スワップポイントは低金利の通貨を売って高金利通貨を買うと金利差額分の利益が得られるが、逆に高金利通貨で低金利通貨を買うとマイナススワップとして徴収されてしまう。

たとえば日本円を売ってトルコリラを買った場合を例に挙げると、トルコの金利が16%、日本の金利が-0.1%だとすれば、16%-(-0.1%)=16.1%がスワップポイントとして付与される。

反対にトルコリラを売って日本円を買うと、16.1%分がマイナススワップとして差し引かれるのだ。

基本的にFX会社は金利差をベースに独自のスワップポイントを設定しており、もしマイナススワップの方が大きければ両建てのポジションを保有するほど損失が拡大することになるのだ。

ロスカットの危険性が高まる

両建ては価格変動による損失が発生しない一方、スプレッド差による含み損が拡大すればロスカットとなる危険性が高まるだろう。

その理由として、同じ通貨量でおこなえば損益だけでなく証拠金も相殺できるが、FX会社によっては両方のポジション分の証拠金が必要となるからだ。

わかりやすくドル/円を100円と仮定し、以下の条件に基づいた証拠金の計算方法について触れておきたい。

【5万通貨でレバレッジ25倍の場合】

  • 5万通貨×100円=500万円
  • 500万円÷25(レバレッジ)=20万円(証拠金)

このように片方のポジションを保有するには20万円の証拠金を口座に入金しておく必要があり、両建ての場合は倍の40万円が必要だ。

口座資金が50万円と仮定すると証拠金を差し引いた余剰資金は10万円程度となる。

実際のところスプレッドは常に含み損として存在する上に、為替相場の流動性が低下すると変動幅が拡大する性質も持っている。

たとえば、日本時間早朝のトレーダーが減少するタイミングや、大きな価格変動を警戒して取引を控えるケースが多い重要経済指標発表の前後はスプレッドの幅が広がる可能性があるのだ。

そして、FX会社はトレーダーが保有する資金を最低限保全するために、ロスカットというシステムを実施しており、含み損が膨らんで指定の割合を下回った場合は強制的にポジションが決済されてしまう。

参考までに、先ほど例にあげた条件にスプレッド分の含み損を加えたロスカットの目安は以下の通りである。

【ロスカット水準100% 通常スプレッド0.5円=50pips】

  • 必要証拠金40万円×100%=ロスカット価格40万円
  • 50pips(スプレッド0.5円)×2=100pips
  • 100pips×(5万通貨×1pips)=5万円(含み損)
  • 口座資金50万円-5万円=45万円(ロスカットまで5万円の余力)

この通り、通常スプレッドを0.5円と仮定すれば5万円分の余裕がある。

しかし、流動性が低下して1円にまで広がるとどうだろうか。

  • 100pips(スプレッド1円)×2=200pips
  • 200pips×(50,000通貨×1pips)=10万円(含み損)

口座資金50万円-10万円=40万円(ロスカット価格まで減少)

以上のことから、両建てはたとえ価格変動による損失が発生しないとしても、スプレッド差による含み損が拡大すればロスカットが執行されてしまう。

場合によっては片方のポジションに絞った方が、証拠金が抑えられる上にスプレッドも縮小できるケースがある。

もちろん長期保有でマイナススワップが積み重なってもロスカットの対象となるため、その点にも注意が必要だろう。

両建ての使い方

先ほど触れた通り、両建てはあまり推奨されていない手法だが、使い方によってはうまく活用できる。ここでは効果的とされる使い方を解説する。

税金の繰り延べ

両建ては上手く活用すれば節税を行うことが可能だ。

FXでは毎年12月末日までの利益を確定申告して税額が決定する。具体的な税率は以下の通りだ。

  • 所得税:15%
  • 住民税:5%
  • 復興特別所得税:0.315%

たとえば、2020年の12月31日までに100万円の利益が出た場合は合計20.315%の税率が課され、約20万円の税金を納めることになる。

しかし2020年12月末までに両建てをおこない、売り買い双方で60万円ずつの損益が発生した場合、含み損の方だけを決済すれば利益は40万円に減少する。

すなわち、納税額も40万円×20.315%で約8万円にまで軽減できる上に、2021年1月1日以降に含み益のポジションを決済すれば、60万円分の利益を2021年度に繰り延べが可能だ。

また、所得控除などを用いればさらに節税効果が見込める一方、税務署からは「一般的な方法ではない投資」と認識される可能性があり、そういった場合は租税回避行為と認識されることもある点には注意してほしい。

価格変動による損失拡大の抑制

両建ては反対注文の通貨量に応じてポジションを縮小できるため、価格変動による損失の拡大を抑制する効果がある。

つまり、予想に反した急激な値動きによって含み損が膨らんでいる際、損切りできないトレーダーが一時的な安心感を得るために用いられるケースが多いのだ。

ただし、ロスカットまでの延命は可能だが、損失自体が解消されるわけではないことから、あまり多用しないのがおすすめである。

ここでは、ドル/円を105円で購入し、その後100円まで下落した際に両建てを行った場合の損失額を確認しておこう。

【買い注文:105円 同じ通貨量で両建て:100円 含み損:5万円】

価格 買いポジション損益 売りポジション損益 損失総額
105円 0円 -5万円 5万円
100円 -5万円 0円 5万円
95円 -10万円 5万円 5万円

※スワップポイントやスプレッド、証拠金などは考慮していない

この通り、どれだけ価格が変動しても損失額が変わらないため、たとえば95円で売りポジションを利確しても、もし下落が続けば買いポジションの含み損は拡大し続ける一方となる。

そのため、保有期間が長期化するほど損失が膨らむケースもあることから、結果的に損切りした方がダメージを最小限に抑えられる可能性がある。

両建てをおこなう際の注意点

次は、実際の取引で両建てを行う際の注意点を見ていこう。

現在取引手法に加えようとしている場合は、ぜひ参考にしてほしい。

証拠金の規定を確認する

先ほど触れた通り、FX会社によっては両建てにおける証拠金を相殺する場合や、ポジションの分だけ加算するケースがある。

また、売りと買いで通貨量が異なる際は、多い方の証拠金だけで済む「MAX方式」を採用しているFX会社が比較的主流であるため、ここでは詳しく触れておきたい。

MAX方式は、売りポジションと買いポジションをそれぞれ合計して比較する仕組みである。

たとえば1,000通貨(必要証拠金:5万円)の売りと2,000通貨(必要証拠金:10万円)の買いを保有している場合は後者のみが適用されるということだ。

ただし、規定によっては売り買い両方が合算される可能性もあるため、あらかじめ確認しておくと良いだろう。

税金の繰り延べは年明けの価格変動に注意

税金を繰り延べる際は、年内に含み損を決済して翌年に含み益のポジションを利確する流れになるが、年明け早々に価格が変動するリスクも考慮しなければならない。

一般的に、1月の第一週までは世界中のトレーダーが休暇を取るケースが多いことから、相場の流動性が大幅に低下しやすくなる。

その期間に大きな注文を誘発する情報がリリースされた場合は、値動きの勢いを抑制する反対注文も少ないため、強い価格変動に繋がるのだ。

事実、2019年の1月3日には数分間でドル/円が4円程度下落している。Apple社の業績下方修正によるドル建て株式の売却に起因しているとされているが、明確な背景は定かではない。

いずれにしても、新年早々にロスカットで資金を喪失したトレーダーも少なくないため、税金の繰り延べにおいては逆指値を入れつつ、最大限早めに決済した方がよいだろう。

初心者のうちは損切りがおすすめ

ベテラントレーダーの中には、両建てでロスカットを回避しつつ、着実に利益を得ているケースも存在する。

しかし、初心者のうちは一定以上の含み損を抱えた場合、基本的に損切りをおこなうのがおすすめであり、利益に繋がる両建ては上級テクニックと心得ておくとよいだろう。

たとえば、急激な値動きが発生した際に両建てをしても、将来的な値動きが予測できなければ不安に駆られてポジションを保有し続けてしまう可能性が高い。

逆に思い切って片方を決済しても、予想に反した価格変動でもう一方のポジションがロスカットされるリスクもある。

そのため、最低限トレンドが転換するサポート・レジスタンスラインの判断や、三尊などのチャートサインを根拠に自信を持って取引できるスキルを身につけてからチャレンジしてほしい。

(画像:Shutterstock)

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