2019年12月に東証マザーズに上場したクラウドソーシングサービス事業を展開する「ランサーズ」を運営するランサーズ株式会社 代表取締役社長CEOの秋好陽介氏、登録者数5万人超と勢いに乗るキャリアSNS「YOUTRUST」を運営する株式会社YOUTRUST代表取締役の岩崎由夏氏の2人を迎え、「STARTUP ACADEMIA LIVE スタートアップの『壁』を突破する──HRテクノロジーが変える「人材戦略とビジネスモデル」とは?【Powered by Dell Technologies】」が2021年4月26日、開催された。

YJキャピタルの堀新一郎氏(代表取締役社長)がモデレーターを務め、HRテック・人材プラットフォーム領域での「テーマ選び」「採用・チームづくり」や会社が成長するにあたり「ぶつかってきた壁」について議論した。主催はbtokyo members、CoinDesk Japanがメディアパートナーを務めた。協賛は、DX推進により成長が期待されるスタートアップなどスモールビジネスを支援するデル・テクノロジーズ株式会社。

「やる」と決めて徹底的にやり切る──スタートアップのチーム作り、テーマ選び

前半は、起業におけるテーマ選びから、HRに関わるスタートアップらしく採用など人事やチームの話が議論の中心となった。堀氏がクラウドソーシング分野での起業からランサーズが成長するまでの経緯について秋好氏に尋ねると、創業から成長するまでについて次のように話した。

「2008年に創業したときは『クラウドソーシング』という言葉はまったく伝わらないので、『仕事の取引のマーケットプレイスです』と言っていた。(中略)当時はグリーやモバゲーなどのソーシャルゲームが大ブームだったので、投資家にも『なぜエンジニアなのにゲームがつくれないのか』と言われたぐらい自分たちのしていることが伝わらなかった。」

「クラウドソーシングの最初の波が来たのは、2011年3月の東日本大震災以後。そこから2013年にクラウドソーシングが社会的に認知されるまでに会員登録数も大きく伸びて、いろんな会社がクラウドソーシングに参入した。(中略)ただ、自己資金である程度やってきていたので、外部資本を入れてでも大きく伸ばしていくべきなのか、個人的には『クラウドソーシングの波に乗るべきかどうか』をまず悩んだ」

「その後、10人、20人の会社から、半年ほどの短期間で一気に50人、100人と社員が増えていくと、会社に対する批判などのネガティブフィードバックが増え、今まで会社が好きな人ばかりでアットホームだったチームが嫌なことしか聞こえないノイズが多いの組織になり、とても悩んだ。でも『やる』と決めて徹底的にやり切った」

一方で、2018年4月にサービス開始の「YOUTRUST」を運営する岩崎氏は、「副業」の波に乗り登録者数を伸ばす自社のサービスについて、次のように述べた。

「前職で採用担当をしていたとき、転職市場にアンフェアなことが多いと感じており、フェアな転職市場をつくりたいと思って(YOUTRUSTを)起業した。転職市場は競争の激しい市場なので、『副業』を切り口にした。私のまわりでも副業の先に転職している人が多かった。『副業』を押すのは、あくまで戦略の1つだ」

また、堀氏がYOUTRUSTのSNSでのPRが巧みな点について聞くと、岩崎氏は「YOUTRUST社内では『勢い』を意味する『モメンタム』という言葉をよく使う。(中略)それを信じていて絶対にこれをやるぞ、というチームになっていると、実は1万人の会社よりも40人の熱量が高いことは実現できる。SNS拡散も40人全員で徹底的にやる。これが得意技の1つだと思う」と答えた。

「ルールの負債」を正す──ビジネスが成長するにあたりぶつかってきた壁

後半は、スタートアップを運営する中でこれまでぶつかってきた「壁」について、登壇者から経験が共有された。堀氏にこれまでにあった「壁」について尋ねられると、秋好氏は次のように語った。

「ランサーズのサービスの成長はまさに『踊り場だらけ』だった。オンラインで完結するサービスから、営業担当がいて説明しなければいけなくなり、企業の規模が大きくなると決済もクレジットカードだけではなく請求書払いに対応して……具体的に言うと小さなことに聞こえるかもしれないが、壁にぶつかる度にプロダクトを開発して、マーケティング手法を変えて、必要な人材を採用して、そうしたことをずっと繰り返してきた。今もコロナ状況下において『全部オンラインでいい』という大きな変化が起きている」

「ビジネス上でいちばん大きいチャレンジだったのは、オンラインでの取引の信頼性を担保するために、実名で顔写真にして、最低依頼金額制度をつくったこと。『安かろう悪かろう』とクラウドソーシングがイメージダウンしていた時期に、技術負債ならぬ『ルールの負債』を正す意味で着手した。一時的に流通金額は減ったが、中長期で見たときに高単価でスキルのある個人が入ってきたので、現在に至るランサーズの成長基調につながった」

一方、岩崎氏は「副業」というトレンドの見通しをふまえ、こう述べた。

「社員ではない副業人材だからこそ出来ることがある。たとえば、ロングターム(長期間)でみたときに重要だけど緊急ではないことに取り組むなどだ。YOUTRUSTでいえば、技術系の課題、重要だけど緊急ではないプログラムのアップデートなどをお任せしている」

「SNSが登場した当初は、うまく使えなかった人も多かったはず。同じように、副業をうまく扱える会社は、これからも増えていくと思う。副業人材の受け入れから、そのまま正社員になっていく人も出てくる。転職市場をフェアな場所にすることが私たちの使命だと考えているので、ブレずにがんばれたらと思う」

大企業にはないスタートアップのメリットとは?──Q&Aセッション

イベントの終盤には、スピーカーが視聴者からの質問に回答。たとえば、「注目しているHRテック企業は?」「スタートアップの立ち上げ時、エンジニアを副業でやってもらうのは大丈夫か?」といったものがあった。

特に「大企業の社員がスタートアップに転職することで不安に思っている人が多いと思うが、みなさんが感じるスタートアップのメリットは?」という質問に対して、岩崎氏は自社で運営するキャリアSNS「YOUTRUST」を例に挙げながら「オンラインでお試し副業のような形でサービスに関わり、そこから転職するケースが増えている。自身の目で確かめてからスタートアップに転職してはどうか」と答えた。

一方で、秋好氏は「転職先が大企業であってもスタートアップであっても不安は常にあるもの。大企業になくてスタートアップにあるものがあるとすれば、自由と責任のバランスだ。責任の範囲が大きく、自由度も大きいのがスタートアップ。結局はそれを楽しめるかどうかだ」と質問者にアドバイスした。

イベントは、「STARTUP ACADEMIA LIVE 」に協賛したデル・テクノロジーズ株式会社による映像で締めくくられた。

同社は、企業の相談相手であるデル テクノロジーズ アドバイザーたちの24時間365日のサポートにより、ウィズコロナ時代のあらゆるDX、ビジネスを支援している。今回は、DX推進により成長が期待されるスタートアップの「チーム」を支援するという同イベントの主旨に賛同する形での協賛となった。

なお、同オンラインイベントの動画は今後、前回の「FINTECH STARTUP LIVE」と同様に、視聴登録によるアーカイブ配信を予定している。

文・編集:久保田 大海
画像:btokyo members