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「AIという言葉は使うな」岩瀬大輔が考える“テクノロジー”とビジネスの本質

「AIという言葉は使うな」岩瀬大輔が考える“テクノロジー”とビジネスの本質

ライフネット生命保険の共同創業者として、生保業界に一石を投じた岩瀬大輔氏。2018年に社長職、2019年に会長職を辞したのちは、香港の生命保険会社AIAグループのグループCDO(最高デジタル責任者)を務めた。

退任後、香港を拠点に、フィンテックやヘルステック領域を主軸としてベンチャー企業の支援を行うTIGER GATE CAPITALを設立。また、国内ベンチャーキャピタルのスパイラル・キャピタルへマネージングパートナーとして参画している。11月26日(木)にはスタートアップをテーマにしたオンラインイベントにも登壇する。

自らも起業を経験した岩瀬氏の目に、現在の技術トレンドはどのように映っているのか。香港在住の岩瀬氏に、オンラインで語ってもらった。

技術の流行り言葉に惑わされれば、本質を見失う

新しいテクノロジーの勃興期には「シンギュラリティによってAIが人智を超える」「ブロックチェーンの非中央集権的性格によってリバタリアニズム的な無政府状態が実現する」「自動運転が普及して、ドライバーはいらなくなる」といった「技術革新万能論」がまことしやかに語られます。私は当時も今も、そうした風潮には慎重なスタンスをとっています。

前の職場では「投資家や客先でアピールする時はまだしも、社内の会議ではAIやビッグデータという言葉は極力使わないように」という、「バズワード禁止令」を出しました。

なぜなら、そうしたワードを使うことで、議論が曖昧になったり反論不能になり、本質からずれた結論を導いてしまう可能性があるからです。

たとえば、「AIを活用して顧客に最適な保険商品を提案する」というサービスは、突き詰めると従来のルールベースのエンジンと変わりませんでした。アウトプットである保険提案のパラメーター(変数)が限られており、規制対象である保険料率はダイナミックに変化する余地は限られているので、高度なAI技術は必要ないのです。

現在、シリコンバレーに拠点がある博士号保有者が数十人いる最先端のAIベンチャーの支援もしていますが、保険業界で一番活用されているAIのアプリケーションが、医師による手書きの診断書を読み取る超高度なOCR。機械学習によって実現したのですが、言ってしまえば「精度が高いOCR」に過ぎないのです。

意味がないと言っているわけではありません。競争が厳しいビジネスにおいて効率が10数%改善することの収益へのインパクトは計り知れないものがあります。ただ、「顧客の成約率が改善する」「OCRの読み取り精度を上げて事務処理速度が向上する」という議論においてAIという要素技術は副次的なものであるべきなのです。

ブロックチェーン技術も同様です。確かに暗号資産は年月を経て、新しい資産クラスとしてメインストリームの機関投資家も無視できないところにまで至りました。しかしそれは原資産が存在しない、投機的な資産に過ぎません。

また、現在各国の中央銀行が検討を進めている「デジタル通貨」はリバタリアンたちがかつて夢想した匿名・非中央集権とはまるで異なるものです。金融機関でブロックチェーンのインプリメンテーション(実装)が進んでいるとはいえ、それらはより堅牢性と効率性が高い要素技術に過ぎないのではないでしょうか。

ウォーレン・バフェット氏が(デリバティブ商品などが金融イノベーションがもてはやされた)リーマンショクの際に、「過去100年、金融業界で真のイノベーションは銀行ATM以外起きていない」と言ったように、コストを削減したり、処理速度を上げるよう技術革新はあっても、金融の本質を揺るがすような変化はそう簡単には起こらないというのが、長年業界に身を置いている私の実感でもあります。

「技術革新=ユーザーと事業者のメリット」ではない

技術革新云々の前に、「世の中は大きな変革をすぐに受け入れられない」というのが私の考えでもあります。

たとえば、UberやAirbnbといったサービスは、顧客にとっては相当に便利なものです。配送時のトラブルや宿泊施設の安全をいかに担保するかといった課題はもちろん残りますが、それを含めて「ユーザーの選択に委ねる」という発想がもっとあってもいいはずです。

しかし、多くの国ではそう簡単には「規制」を突破することができません。トラブルや安全面というのは1つの理由であって、その裏には既存プレイヤーの保護といった障壁が存在しているからです。

また、急速な変化を嫌うのは、国家や大企業だけではありません。私たち個人も、人間的な側面を残したサービスのほうが受け入れやすかったり、事業者が思うほどには完璧な仕組みを求めていなかったりします。

たとえば、PayPayなどの支払い時にはQRコードを読み込み、画面を店頭でスタッフに見せる場合があります。しかし、よく考えると「QRコードを読み込む」「画面を見せる」というのは、非常にアナログな動作です。

そして、何よりもその現状に、私たちはそれほど不便を感じていない。一方の事業者サイドとしても、アナログなコミュニケーションを挟むことで、顧客との接点が持てるというメリットもあります。

つまり、ビジネスにおいては、技術力が向上すればするほど、ユーザーと事業者のメリットが増大する、というほど単純ではないのです。

そうした視点で考えるなら、あのリーマンショックを予言したと言われるヌリエル・ルビーニ教授が、ブロックチェーン技術に対して、「これまでで最も過大評価されたテクノロジーだ」と発言したことの正否は別として、「その技術革新の本質は何か」「誰のためになるのか」「どの程度、世の中に受け入れられるか」といった視点をもって、ビジネスモデルを構築していく必要があるのではないでしょうか。

コモディティ化する「お金」、希少性が増す「知見」

ここまで、ビジネスを見る際には、事業者、顧客といった複数の視点を持つことの重要性をお話ししましたが、それらに加え「海外の視点」を持つことも有効だと感じています。

卑近な例でいえば、日本に比べて自由に貿易が行なわれている香港の外国人向けマーケットには、見たこともないような野菜や肉など、多種多様なものが並んでいます。だから日本も自由貿易を拡大せよというわけではなく、日本とは違う環境、商慣習や生活のルールがあるということを知ることは、新たな視点を得ることにつながります。

これまで、事業者の視点、顧客の視点、大企業の視点、ベンチャーの視点、そして海外の視点といった複数の立場を図らずも経験してきた私としては、そこで得た知見を、日本国内に還元したり、これから世界を目指すスタートアップに提供したいという思いを強くもっています。

私と出口治明さんがライフネット生命を創業したころと比較すると、日本のスタートアップ、ベンチャーの層は相当厚くなっていて、お金という面でのエコシステムも整いつつあります。そのため、次のフェーズでは、コモディティ化するお金そのものだけでなく、そのお金についてくる「知見」こそが希少であり、重要なポイントになってくると感じています。

私は「元ライフネット生命」という呼ばれ方はあまり好きではありませんが、ベンチャーキャピタルという視点で捉えるなら、元楽天、元グーグルといった肩書きの方々が持つ知見は、非常に価値のあるものになっていくのではないでしょうか。

岩瀬氏も参加「フィンテック企業の成長戦略」を考えるイベント開催【告知】

スパイラル・キャピタルの岩瀬大輔氏、後払い決済サービスPaidy CEOの杉江陸氏、ペット保険金請求の効率化サービスを展開するアニポスCOOの加藤夕子氏を迎え、フィンテックスタートアップの成長戦略について議論を交わすオンラインイベントが11月26日(木)午後7時から開催される。

「FINTECH STARTUP LIVE 2020 真似のできないスタートアップの成長戦略──変化を捉え、勝機をつかむ【Powered by Dell Technologies】」と題した本イベントへの参加は、WEBサイトの事前申し込み登録により無料となる。

モデレーターはYJキャピタルの堀新一郎氏(代表取締役社長)。主催はbtokyo members、CoinDesk Japanがメディアパートナーを務める。デル・テクノロジーズ株式会社の協賛。

構成:池口祥司
編集:久保田大海
写真:岩瀬大輔氏 提供

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