マネーフォワードの辻庸介氏、国内最大級のクラウドファンディングを手がけるREADYFORの米良はるか氏、証券プラットフォームやデジタル保険など様々なフィンテックソリューションを提供するFinatextホールディングスの林良太氏という3人のフィンテックスタートアップ代表取締役CEOを迎えて「FINTECH STARTUP LIVE 2020 アフターコロナの『フィンテック × DX』【Powered by Dell Technologies】」が2020年9月29日、開催された。

YJキャピタルの堀新一郎氏(代表取締役社長)がモデレーターを務め、変化の大きいアフターコロナ時代にスタートアップのチームはどう対応すべきか、またフィンテックの現在を振り返りながら金融のデジタル・トランスフォーメーション(DX)が向かう先や今後の見通しについて議論した。主催はbtokyo members、CoinDesk Japanがメディアパートナーを務めた。協賛は、DX推進により成長が期待されるフィンテック・スタートアップを支援するデル・テクノロジーズ株式会社。

「アフターコロナは今までのやり方を変える強烈な機会となる」

前半は辻氏と堀氏の対談で始まり、主にコロナ禍を契機としたビジネスの地殻変動について話し合われた。

堀氏の「テレワークなどによる社員の働き方の変化は?」という問いかけに対して、辻氏は「会社で働くのとは異なり、ある意味でテレワークは監視されていない環境にある。そうすると組織において『何のために働いているのか?』といった内発的動機づけを大事にしないといけない」と応えた。マネーフォワードでは、「ミッション・ビジョン・バリュー・カルチャー」に立ち返り、新たな取り組みとしてオンラインでの対話するなどコミュニケーションの量と質を高める工夫を行っているという。

さらにビジネスのオペレーション上の変化について、辻氏は「ユーザーに直接会えないため、数字をきちんと見ないといけない」と指摘。堀氏が「データを取ること自体は今までもあったと思うが、いちばんの変化はどこにあるのか?」と問うと、今までとの違いを「数字を、より細かく詳細に、より頻度を上げることだ」と説明した。

企業のDXについて辻氏は次のような見解を述べた。
「コロナ禍は不幸な出来事であり追い風と表現するのは適切ではないが、企業のデジタル化は確実に進むだろう。マネーフォワードが提供するような、出社しなくてもバックオフィスが機能するサービスや、READYFORのような新たな資金調達方法としてのクラウドファンディングなどで、新たなニーズは出てきている。フィンテック、SaaSといった業種はこれからも伸びると思う」
「金融機関でいえば、店舗に頼ることができないためバンキング・アズ・ア・サービス(BaaS)のようなサービスが求められる。業法で規制が厳しい銀行も、今までのやり方を変える強烈な機会となるのではないか」

今後の見通しについて、辻氏は「2012-13年にはフィンテックという言葉も定着していなかったが、ファイナンスはもともと数字を扱う領域であるため技術との相性が良い。支払いのないビジネスは基本的にはないので、決済の仕組みは必ず入る」「今後はあらゆるところにフィンテックが入り込み、DXによってビジネスモデル自体を変化させなければならない時代になる。金融機関は今のコスト構造から、デジタル時代への転換が必要だろうし、連続的というより非連続的な変化が求められるのではないか」と述べた。

テレワークにおける「生産性」は高いか、低いか?

後半は辻、堀両氏に加えて、米良、林の両氏を交えたパネルディスカッション。交わされた議論は、リモートの状況下におけるチーム作りや生産性、セキュリティの課題から、それぞれの加速するDXの中で進むビジネスの在り方まで、多岐に渡るものとなった。

辻氏と堀氏の対談をふまえ、米良氏は「辻さんの組織運営の話が特に印象に残った」と言う。READYFORでは2月末にテレワークに切り替えて、必要に応じてオフィスに集まる働き方は現在も続いており、オフィス縮小も検討中とのこと。リモート環境下において、どのようにメンバー同士の信頼を築くか、新たに加わるメンバーのオンボーディング(必要なサポートを行い組織に馴染ませること)させるかなど、課題を感じていると米良氏は語る。

米良氏はまた「クラウドファンディングはコロナ以後に問い合わせが多く届き、READYFORでは、しばらくは対応するだけで精一杯という状況が続いていた。自分のやるべきことが決まっていれば、テレワークの生産性は高い」と述べるが、一方で「ここにきてリモートの弊害を感じるようになった」と明かした。会わないことによる不安、新しいメンバーへのとまどいなどが感じられ、組織としての対応が求められる時期になってきたのではないかと言うのだ。

米良氏は「横にいるチームが何をしているのかが見えない。新しい取り組みならなおさら見えない。ふと気づいたら知らない取り組みが増えていて不安に思うメンバーがこれから増えるのではないかと思う」「かといってコロナ以前の状況には生産性が高くお客様へバリューが出せているので戻らないだろう。これを機に会社というコミュニティを抜本的に考え直したい」とコメントして決意を新たにした。

(左上から時計回りに)辻庸介氏、堀新一郎氏、米良はるか氏、林良太氏

一方で、林氏は「リモートの生産性は“移動時間の効率化“以外にないのではないか」と異なる視点から意見を述べた。いわく「リモートの環境下で生産性が上がるのは、一人で集中してやるべき作業のみ。たしかに移動時間がなくなることで、1日に入れられる商談や打ち合わせの数は増えたが、やはり対面に勝るものはないのではないか」。

堀氏から「Finatextホールディングスは金融機関など大企業とのパートナーシップが多いが、コロナの状況において課題に感じたことはあったか」と問われ、林氏は「地理的に離れたお客様との商談ができるなどポジティブなことは多い。一方で、基幹システムなどに関わる規模の大きい案件が多いため、お客様側の意思決定のスピードが遅くなるといった影響は感じる」と述べた。

コロナ下におけるセキュリティ、行政DXの難しさ

次に堀氏が挙げたトピックは「コロナ状況下におけるセキュリティ」だ。金融はセキュリティを破られてはいけない産業・業界の代表格といえ、フィンテック企業ならではの議論となった。

辻氏は対応の難しさを指摘、その理由として、社員のテレワーク環境は会社により守られているネットワークではないことを挙げた。マネーフォワードでは、もしもの事態に備えホワイトハッカーを雇いペネトレーションテスト(侵入テスト)を行うなど、セキュリティに関するアラートを出すレベルを2段階、3段階と引き上げたそうだ。

林氏が具体例に挙げたのは、マイナンバーカードの扱い方についてだ。証券口座を開設する際に提出されるマイナンバーカードは、日本証券業協会で取り扱いが厳格に定められており、どうしてもリモートでは対応が難しく、オペレーションの一部は会社に出社せざるを得ない状況だという。林氏は「行政においても、法的にセキュアに取り扱うために必要な環境の整備が追いついていないのではないか」と意見を述べた。

米良氏も、行政におけるデジタル化の遅れについて同様に感じることがあったという。READYFORでは、新型コロナウイルスの影響で中止となったイベントを、クラウドファンディング手数料を無料にすることで支援してきた。その中で米良氏は、利用するユーザーが行政に補助金や助成金を申請する手続きに忙殺される姿を見てきたといい、「民間のフィンテック、クラウドファンディングだからこそできる支援は、スピード感のある取り組みと、きめ細かい支援。政府とは補完関係にあると思う」と述べ、現在の状況下だからこその振り返りを共有した。

オンラインイベントの終盤には、スピーカーが視聴者からの質問に回答。質問内容はさまざまで、たとえば、「企業のデータ利活用の未来像において、コスト削減以外のワクワクするサービスは何でしょうか?」「辻さんはどのように起業の仲間を見つけられたのでしょうか?」「エンジニアの採用などで必ずする質問は?」「コロナ状況下で変えるべきことが多いと思いますが、経営者として変えなかったことは?」といったものがあり、活発に意見が交換されていた。

イベントは、「FINTECH STARTUP LIVE 2020」に協賛したデル・テクノロジーズ株式会社による映像で締めくくられた。

同社は、企業の相談相手であるデル テクノロジーズ アドバイザーたちの24時間365日のサポートにより、ウィズコロナ時代のあらゆるDX、ビジネスを支援している。今回は、DX推進により成長が期待されるフィンテック・スタートアップの「チーム」を支援するという同イベントの主旨に賛同する形での協賛となった。

文:久保田 大海
編集:濱田 優
画像:btokyo members