フリークアウト、イグニスの2社の上場をけん引、現在はスモールビジネス向けEC・決済サービスのヘイ株式会社CEOの佐藤裕介氏、おつり投資「トラノコ」を展開するTORANOTEC株式会社取締役の藤井亮助氏、独立系ベンチャーキャピタルANRIシニアアソシエイトの江原ニーナ氏の3人を迎え、「FINTECH STARTUP LIVE 2020 大企業と戦う「スタートアップの方法論」──なぜテック企業は「急成長」を生み出せるのか?【Powered by Dell Technologies】」が2020年12月16日、開催された。

YJキャピタルの堀新一郎氏(代表取締役社長)がモデレーターを務め、フィンテック領域での「大型の資金調達における使いみち」や「大企業との戦い方」などについて議論した。主催はbtokyo members、CoinDesk Japanがメディアパートナーを務めた。協賛は、DX推進により成長が期待されるフィンテック・スタートアップなどスモールビジネスを支援するデル・テクノロジーズ株式会社。

大型の資金調達、得た資金は何に使われる?

序盤は「国内スタートアップ資金調達ランキング」を見ながら、それぞれのスピーカーから、スタートアップによる資金調達の現状と、その資金の使いみちについての話があった。

2020年に90億円超を調達しているヘイ株式会社の佐藤氏は、次のように話した。

「初期はエンジニアがリードする、いわゆるR&D(研究開発)コストが中心で、ソフトウェアや製品が優れているからバイラル(口コミ)でユーザーが増えていく時期だった。そこから大型の資金調達をした以後は、インサイドセールスやカスタマーサクセスなどきちんとした営業チームを組織して、お客様を増やしていくステージに変わっている」

「コンシューマー向けのアプリなどのプロダクトがCMをたくさん流してユーザーを獲得していくのとは異なり、いわゆるSaaS(Software as a Service)はお客様がエンタープライズ(企業)であり、ソフトウェアの操作に慣れていない方々をサポートしなければいけないため、一般的に営業組織に資金が使われることが多い」

一方で、2019年度に20億円を調達したTORANOTEC株式会社の藤井氏は、資金の使いみちについて1/3はデジタル広告など顧客獲得のためのマーケティング費、1/3は金融サービスとしてセキュリティやガバナンスを強化してエンタープライズ向けの組織をまわすための人件費、1/3はサービスの開発費やアライアンスを組むためのコストに振り分けていると語り、次のように話した。

「おつり投資の『トラノコ』は企業とのアライアンスを重視している。楽天証券が楽天ポイントで投資できるのと同じように、トラノコではセブン&アイグループのnanacoポイントや小田急電鉄の小田急ポイントで投資ができる。IT業界では、楽天の楽天経済圏のようにサービスを垂直統合する動きが強まっているが、トラノコは逆に水平のポジションになるよう意識している」

スタートアップは大企業とどう戦うのか?

次は「大企業との戦い方」というテーマについて話し合われた。

江原氏がベンチャーキャピタリストとして所属するANRIは、創業初期の起業家へ投資する、いわゆるシード期を得意とするベンチャーキャピタル。モデレーターの堀氏が「シードにおいて、大企業とどう戦うかはどれぐらい重要なものか」と問いかけると、江原氏は次のように答えた。

「もちろん投資検討する上で『大企業に追従されたら、どうするか』という話は出るが、シード期ではクリティカルではなく重要な項目ではない。ANRIでは代表が『僕は君の「熱」に投資しよう』というタイトルの本を出版するぐらい、その領域や事業に対する起業家の『熱』や『迫力』のようなものを意識している。またスタートアップはチームが大事であり、起業家が仲間を集める『巻き込み力』『採用力』といったものが大事だと思う」

一方で、佐藤氏は自社(ヘイ)のサービスを例に交えながら、こうコメントした。

「最近のトレンドは2種類あると考えている。1つは、どこかで大企業とぶつかるにしても、チームづくりや優れたソフトウェア開発を武器に、すぐには対象としない領域で一気に成長する方法。もう1つは、最初からプロダクトにバリアを仕込むだ。たとえば、プロダクトが成長すると共にソーシャルのネットワークが広がる『ソーシャル・エンベデッド』や、ヘイのEC開設サービス『STORES(ストアーズ)』のように、決済というフィンテックを内包した『フィンテック・エンベデッド』がある。ソーシャルやフィンテックのバリアにより、大企業が追従しにくくなる」

その発言を受けて、堀氏が「おつりで投資する『トラノコ』というプロダクトでは、そういった大企業に対するバリアを意識しているか」と尋ねると、藤井氏は次のように述べた。

「通常の資産運用会社は預かり資産に対してパーセンテージで手数料を取るか、ヘッジファンドだったら成功報酬に対して手数料を取るかなどの選択肢になる。極端にたとえると、100億円を持っているお客様が1人いればいい世界。一方で、『トラノコ』は100円を持っているお客様を1億人集めるビジネスだ。そもそも既存の資産運用会社では成り立ち得ないロジックだと考えている」

「とはいえ、こうした手法はインターネット的な発想であり、金融機関ではない大手IT企業が追従してくる可能性がある。だからこそ、いちばん先頭を走らないといけないし、いちばん小さな金額から投資ができる仕組みを構築している。資産運用という領域は、お客様の資産を預かり、長期で運用する『粘着性』の強いサービスだ。だからこそ、おつり投資がお客様の投資の入り口となり、既存の金融機関と競争するのではなく逆にアライアンスを組むことができる」

江原氏、佐藤氏、藤井氏のそれぞれの意見を受けて、モデレーターの堀氏は「大企業とどう戦うのか?」という本イベントのテーマに対して次のようにコメントし、総括した。

「『大企業と戦う』という発想そのものが少しずれていると感じた。自分たちのビジネスやマーケットを客観視して、どこにビジネスチャンスがあるのか、どうすれば競争しないで成長できるのかをしっかり考えることが大事だ」

「ビジネスの初期においてユーザーはどのようにして集めたのか?」──Q&Aセッション

イベントの終盤には、スピーカーが視聴者からの質問に回答。たとえば、「ビジネスの初期においてユーザーはどのようにして集めたのか?」「ボードメンバーはどういったスキルセットを持った人を採用すべきか?」といったものがあり、それぞれの意見が交換されていた。

またイベント中には、アンケート投票を実施。たとえば、「テレワークしてますか?」という質問には参加者の87%が「Yes」と回答し、本イベント参加者の多くがテレワークをしていることが明らかとなった。また「会社とテレワーク、生産性が高いと感じるのはどちらですか?」の質問には「会社」が37%、「自宅」が31%、「どちらも同じ」が24%、「わからない」が7%となり、オーディエンスの中で意見が割れた。

イベントは、「FINTECH STARTUP LIVE 2020」に協賛したデル・テクノロジーズ株式会社による映像で締めくくられた。

同社は、企業の相談相手であるデル テクノロジーズ アドバイザーたちの24時間365日のサポートにより、ウィズコロナ時代のあらゆるDX、ビジネスを支援している。今回は、DX推進により成長が期待されるフィンテック・スタートアップの「チーム」を支援するという同イベントの主旨に賛同する形での協賛となった。

文:久保田 大海
編集:濱田 優
画像:btokyo members