ウォレットが普及するための条件:次世代“スーパーウォレット”の開発現場──Backpack、ソフトバンク、HashPort、みんなの銀行生出演【N.Avenue club 2期12回ラウンドテーブル・レポート】

ステーブルコイン、あるいは金融商品や不動産といったRWA(現実資産)を裏付けとするトークン(RWAトークン)の普及が期待されている。またその一方で、そうしたさまざまなデジタル資産を管理する、いわゆる「Web3ウォレット」の役割がますます重要になると見られている。
私たちはすでに銀行や証券会社、QRコード決済用のアプリを持っているが、あらゆる資産がブロックチェーンに乗る未来には、一体どのようなウォレットがもとめられるのだろうか。
Web3をリサーチ・推進する企業リーダーを中心とした、法人会員制の国内最大Web3ビジネスコミュニティであるN.Avenue clubは、6月13日に開催したラウンドテーブルで、Web3ウォレットについて取り上げ、日本企業がどのようにWeb3ウォレットをとらえ、次世代の資産運用・決済体験をどのように実装していくべきかをテーマに議論を深めた。
N.Avenue clubは国内外のゲスト講師を招いた月1回の「ラウンドテーブル(研究会)」を軸に、会員企業と関連スタートアップや有識者との交流を促す「ギャザリング」などを通して、日本のWeb3ビジネスを加速させる一助となることを目指している。
ラウンドテーブルは、会員のみに向けたクローズドなイベントのため、ここではその一部をレポートする。
Backpack日本法人の責任者が考える「ウォレットに求められる機能」

冒頭のブリーフィングセッションでは、ウォレットと暗号資産取引所を海外で展開するBackpackの日本法人「トレックラボ・ジャパン」の責任者、カン・サン氏が登壇した。同社は日本市場に参入すべく、日本暗号資産等取引業協会(JVCEA)に加入している。
ラウンドテーブルのブリーフィングセッションでは、海外からオンラインでプレゼンテーションが行われることが多いが、サン氏はリアルに来場し、参加者と交流を深めた。
サン氏は、今普及しているウォレットについて、「オンチェーンにフォーカスしすぎ」と指摘。ユーザーにとってはオンチェーンかオフチェーンかは関係ないとしたうえで、ウォレットに求められる機能として、オムニチェーンであること、そして、オンチェーンかオフチェーンか、アセットの種類は何か、Web3アセットであるかどうかを問わず一元管理できることだとなどと話した。
HashPortが開発・提供する大阪・関西万博「EXPO2025 デジタルウォレット」の手ごたえ

メインセッションでは、まず現在開催中の大阪・関西万博の「EXPO2025 デジタルウォレット」を開発・提供しているHashPortの吉田世博代表が登壇。議論を深める前提として、ウォレットの概要や役割、可能性などについて概説し、ウォレットはデジタルアセットを入れておくブロックチェーン上の銀行口座・貸金庫に近いものだと述べた。
さらに「EXPO2025 デジタルウォレット」の仕組みを説明。「ミャクペ!」(電子マネー)、「ミャクポ!」(ポイント)、「ミャクーン!」(NFTコレクション)、そしてSBT(ソウルバウンドトークン)を使った「事業連携サービス」をまとめたもので、アプリ自体と共通ID、事業連携サービスをHashPortが担当していると述べた。
利用状況については、SBTの取得者数は万博開幕から最初の30日で301,669人、来場者260万人に対して11.5%が取得したと述べ、手ごたえを感じていると表明。1トークン=1円のエキスポトークンも発行し、USDCと交換できる仕組みづくりも検討していると話した。
「デジタルネイティブが7割」みんなの銀行がめざすウォレットのあり方

次に登壇したのは、みんなの銀行CXOオフィスweb3開発グループマネージングディレククターの田口勝之氏。同行は、福岡など九州地区を主な営業基盤とするふくおかフィナンシャルグループが全国をエリアに展開するデジタルバンク。特徴はユーザーの7割がデジタルネイティブ世代であることで、他の銀行口座とはその割合が真逆だという。
田口氏によると、バリューに「銀行らしさからの脱却」を掲げ、他の銀行がやらないことをやるデジタルバンクを目指しており、銀行としては珍しくデザイン(デザイナー)も内製化しているとのこと。
事業ドメインは、B2Cとしてみんなの銀行アプリを提供、B2B2X事業やバンキングシステム提供事業もあり、非金融事業者に金融機能を一部提供。同行が目指す世界観は「価値仲介の世界」だといい、田口氏は、みんなの銀行アプリ(Web2)、Web3ウォレット(Web3)の両方を提供することで、「ブロックチェーンの世界でいろいろなものがトークン化された時に使ってもらえるウォレットをめざしている」などと話した。
AIにフルベットするソフトバンクのWeb3技術企画責任者が考えるウォレットとAIの関わり

最後に登壇したのは、ソフトバンクのWeb3技術企画室室長・坂口卓也氏。坂口氏は、あくまでも私見と前置きしたうえで「AIにより生じるダイナミズムこそがWeb3のブレイクスルーになり得る」と指摘し、AIが暗号資産の普及のアクセラレーターにもなると示唆した。
その上で、今後、AIが主体の多対多・多国籍・多通貨のマイクロコントラクト&ペイメントが大量に発生し、人間の処理能力を超えたトランザクションが生まれると述べ、そこで必要になるのが、人間の権限を適切に委譲した「AI専用のウォレット」だと指摘した。
さらに、AIにウォレットを持たせるための課題・考えるべきことについても言及。大別して2つあるといい、それは「人間の権限を適切に委譲する仕組みはあるのか」、「人間が管理する権限や権利はデジタル上に管理されているのかAI同士、サービス間の契約や交渉・決済などを支える仕組みやサービスはあるのか」だと説明した。
「Web3ウォレットのマスアダプション・新規サービス創出」についてディスカッション

ラウンドテーブルの後半は、参加者全員が6つのテーブルに分かれてディスカッションした。掲げられたテーマは「Web3ウォレットのマスアダプションに向けた課題と解決」と「Web3ウォレットを活用した新たなサービス創出の可能性」で、いずれか、もしくは両方のテーマについて議論を交わした。
6つのテーブルからは、例えば「簡単にウォレットが作れるようになり、秘密鍵を管理しなくてよくなったが、はたしてウォレット持った人は何をすればいいのか?」という疑問や、「使いたくなるキラーアプリ」「使いやすいUI/UX」などが必要だとの意見もあった。テーブルに共通した課題感としてあがっていたのが、ガス代や秘密鍵の管理などだった。
このほかに、新サービスの創出について、「提携先を増やすより、日常生活において接点を増やすことが大事」「日本人が好きなポイ活、推し活、ロイヤルティ高めるサービスに可能性があるのではないか」といったアイデアも出ていた。
N.Avenue clubは、国内外のゲスト講師を招き、毎月、開催している「ラウンドテーブル(研究会)」を軸に活動する、日本のWeb3ビジネスを加速させる一助となることを目指す会員制のコミュニティだ。ラウンドテーブルのほかにも、会員企業と関連スタートアップや有識者との交流を促す「ギャザリング」なども行っている。
N.Avenue club事務局は、Web3ビジネスに携わっている、または関心のある企業関係者、ビジネスパーソンへの参加を呼び掛けている。
|文:瑞澤 圭
|編集:CoinDesk JAPAN編集部
|写真:多田圭佑