国内外の大手ブランドがWeb3を活用した消費者エンゲージメントを模索しているものの、決定的なユースケースはまだ見えていない。一方、グローバル規模でのRWA(現実資産)トークン化は、消費財企業に新たなビジネスチャンスをもたらす可能性がある。
国内外のゲスト講師を招いた月1回の「ラウンドテーブル(研究会)」を軸に、会員企業と関連スタートアップや有識者との交流を促す「ギャザリング」などを通して、日本のWeb3ビジネスを加速させる一助となることを目指すN.Avenue clubは、9月18日のラウンドテーブルのテーマに「消費財ブランドのWeb3事業」を選定。
Web3ユースケースを展望し、成功のカギとなる要素を探るべく、カルビー、東急不動産、サントリーで活躍するキーパーソンを招き、各社のユースケースや、PoC(概念実証)を通して明らかになった課題、今後の見通しなどについて発表してもらった。
3期が始まったN.Avenue clubは、会員制のクローズドなコミュニティで、同日のラウンドテーブルの様子もそのすべてを公開することはできないが、熱気あふれた会場の雰囲気を感じられるよう、その一部を以下にレポートする。
カルビー:「食べる」以外の接点創出

メインセッションで最初に登壇したのは、カルビー株式会社でCalbee Future Labo(カルビーフューチャーラボ)CXチーム マネジャーを務める関口洋一氏。カルビーフューチャーラボは、同社発祥・創業の地である広島にあった新商品開発の事業拠点の名を継承、今年、新規事業部門として出発した。
フューチャーラボは、消費者との「食べる」以外の接点を作ることを目的に、ルビープログラムというアプリを開発。同社がポテトチップスをはじめとしたブランド、多数の無形資産を抱えていることから、IP(知的財産)のプラットフォームが必要と考え、「かるれっと」を開発した。これまでに、クリエイターとのコラボ、二次創作への活用、IPを使ったリブランディングなどに取り組んでいる。
関口氏は、既に契約の透明化やワークフローはできているが、最終的にはロイヤリティの支払いまでを自動化したいと考えており、今後は「かるれっと」をより使うに値する場にしていく計画などと話した。
東急不動産:リフトに15分早く乗れるNFTから得た知見を拡大

次に登壇したのは、東急不動産ホールディングスの白倉弘規氏(ホテル・リゾート事業本部 リゾート事業部リゾート事業G グループリーダー)。東急不動産は2022年から「ニセコパウダートークン」というNFTという取り組みを実施している。
これは、 対象のスキー場リフトに15分早く乗れるアーリーエントリー権が付与されたNFTで、朝早いと零下5~6°Cの中で1時間待ちしなければいけないリフトに優先搭乗できるほか、NFTホルダーには別のスキー場での夏に営業するラベンダー畑への入場料が割引になる特典も付与したという。
今は、そうした知見やノウハウをホテル宿泊に活用することはもちろん、主力商品であるリゾートやホテルの会員権などのトークン化も検討している。白倉氏は、将来的には交通事業者などとも連携したいと話した。
サントリー:伝統的企業でWeb3事業を進めるために必要なこと

最後に短パン姿で登壇したのは、サントリーホールディングスのChief Digital Innovation Officer、Rio “Popeye” Inaba氏。「ポパイ」という愛称で呼んで欲しいとあいさつした後、最優先で取り組んでいるのは「偽物対策」であり、さらにユーザーに対して、特別な体験を付与する施策を展開していると述べた。
例えば、アーティストのイベントに合わせて、自動販売機で缶飲料を購入すると、特別なNFTが入手できる施策などを展開。NFTと呼ばず「デジタルコレクション」として打ち出すなどの工夫を行ったと述べた。
また、ポパイ氏がこの日、強調したのは日本の伝統的な大企業の中で、Web3の取り組みを進めるためのコツ。「とにかく既成事実を作る」「何を言われても気にしないこと」などと呼びかけた。
成功のカギ、ビジネスアイデアをディスカッション

ラウンドテーブルの後半には、参加者全員が5つのテーブルに分かれ、テーマ①「世界的に成功例がまだ少ないWeb3×消費財領域の、成功のカギは?」と、テーマ②「具体的なアイディア・ビジネスモデルは?」についてディスカッションを行い、「成功のカギについてはまだ答えは出てないが、成功を収めるための条件はどんどん整ってきているのではないか」といった感想も聞かれた。
会員企業によるプレゼンテーションも
なお今回のラウンドテーブルでは、メインセッションの前に、会員企業が自社の取り組みを紹介するプレゼンテーションも行われた。
今回は、ディーカレットDCPとゆうちょ銀行が、9月1日にリリースを発表したばかりのゆうちょ銀行のトークン化預金「DCJPY」の取り扱いに向けた検討について説明。

また、シーエーシー(CAC)が、プライベートブロックチェーン、パブリックブロックチェーンをベースにした同社のさまざまな取り組みを紹介した。

N.Avenue clubは、国内外のゲスト講師を招き、毎月、開催している「ラウンドテーブル(研究会)」を軸に、日本のWeb3ビジネスを加速させる一助となることを目指す会員制のコミュニティ。ラウンドテーブルのほかにも、会員企業と関連スタートアップや有識者との交流を促す「ギャザリング」なども行っている。
N.Avenue club事務局は、Web3ビジネスに携わっている、または関心のある企業関係者、ビジネスパーソンへの参加を呼び掛けている。
|文:瑞澤 圭
|編集:CoinDesk JAPAN編集部
|写真:多田圭佑


