暗号資産(仮想通貨)専業10年目の墨汁うまい(@bokujyuumai)です。今回は福岡で開催されたステーブルコイン普及激論会に現地参加してきたので、自分の知見を織り交ぜたイベントレポートをお届けします。
金融庁が資金移動業型のステーブルコインとして日本円連動の「JPYC」を認可したことで、日本でもステーブルコインに注目する動きが加速している。イーサリアムなどをはじめとするコントラクトプラットフォーム上では古くからステーブルコインが利用されており、2025年現在では暗号資産におけるコアプロダクトと言えるだろう。
この動きはUSDCを発行するサークル社(NYSE:CRCL)や元祖ステーブルコインであるUSDTを発行するテザー社も独自のEVMチェーンをローンチしていることから、世界的なトレンドとして日本も規制とプロジェクト側両方から進んでいることを意味する。
福岡を拠点とするブロックチェーン企業の暗号屋は11月24日、「キープレイヤーが語る、日本のステーブルコイン普及激論会」と題したステーブルコインイベントを開催。DeFi(分散金融)最大手のユニスワップラボがスポンサーとなり、JPYC株式会社代表取締役の岡部典孝氏、周南公立大学情報科学部教授で日銀、金融庁という異例の経歴を持つ内田善彦氏、ふくおかフィナンシャルグループ(FFG)傘下、株式会社みんなの銀行の渋谷定則氏が登壇。合同会社暗号屋の紫竹佑騎氏がモデレーターを務めた。
日本でステーブルコインを牽引するJPYC
メインセッション前半では今や時の人となった岡部氏と分散金融やイーサリアムなどにも詳しく、既存金融出身という立場からJPYCを一消費者として俯瞰する内田氏との議論からはじまった。
内田氏はこれまでに関わってきたプロジェクトの経験から「スタートアップだからうまくいかないという先入観はやめましょう」と述べ、一方で勝ち筋が太いわけでもないとし理解を深めることを目的としたいとしている。
まず「JPYCの未達債務の残高はいくらか?」と切り出した。この未達債務とはすなわちJPYCを発行するに当たって顧客から預かっている資金を指す。これまでのプリペイド形式から新たな形式として発行が開始されて1ヶ月、2025年11月末現時点で約2億円となっており、目標の10兆円という発行数までの遠い道のりを指摘した。
岡部氏はこの指摘に対して「ある点から二次曲線で上がっていく必要がある」と述べ、需要の増加で増えていくと考えているという。

内田氏は金融庁の認可までに2年の取り組みでコストがかかっている点を指摘、今後もマネーロンダリング対策となるAMLを行いながらJPYC発行数を伸ばしていく必要性があると述べる。
これらのオペレーティングコストにおけるJPYC会社がブレークイーブンになるクリティカルマスについて質問。
これに対して岡部氏は1%だと仮定すれば1000億円を超えると回答、年間10億円かからないほどであるとしている。ここで米国の4%という高金利を例に上げ、ステーブルコインビジネスの主軸となる預かり資産での国債購入の課題を述べ、JPYCの収益性が高まる時の日本経済の行く末を懸念する声もあった。
JPYCの金利と発行需要
モデレーターの紫竹氏はJPYCの発行が進むためのインセンティブとして「JPYCに金利が付く」という点を指摘、DeFiで運用することでドルステーブルコインのような会計の複雑さなどを避けて日本円で運用できる点をブロックチェーン事業者の視点から述べた。
これに対し内田氏は米国で2025年7月に成立したジーニアス法を例に上げ、「ステーブルコイン発行者は保有者に対して利息を付与してはいけない」とし、一般の銀行口座とは異なるという点を念頭に置いた。
金利が高ければ高いほどステーブルコイン発行者の利益は上がる一方、発行裏付けで国債を8割購入した時、利上げとなると国債の価格が下がるという仕組みを指摘。この数年コロナショックによる量的緩和後の金融引締めで米金利が高いことで得られたステーブルコイン発行者の高い収益性は続かないことを述べ、JPYCの見通しについて質問した。

岡部氏は金利の重要性を認め、1兆円の発行であっても国債の金利が0であればビジネスがスケールしない点を例に上げた。一方で2020年時点では量的緩和で0金利だった一方でもDeFiの黎明期で発行需要が増えたもののステーブルコインビジネスの収益性には問題があることを指摘、金利は高くても低くても問題であり、1~2%が理想であると述べている。
日本も長期0金利政策を取っていた一方、アベノミクスからの円安とコロナショックによるさらなる円安により2024年7月に利上げを開始。低金利である現状はあれど今後上昇していくことを多くの人が予想しているのではないかと述べている。
JPYC運営のリスクは?
内田氏は日本はインフレ率が高くて金利が低い現状から、実質金利はマイナスである点を指摘。現在の日本経済を「薄い氷の上を象が歩いている」と表現し、金利が高すぎても低すぎても問題であるという点から見る経営リスクの見方を問うた。
岡部氏はステーブルコインビジネスのリスクは「国債がデフォルトする」という点であるとする一方、この状態は日本経済がそもそも危険な状態であり、1JPYCが1円と価値が前後するデペッグが起きる可能性のシナリオを述べた。これは日本のGDPが世界4位であることを考慮すると、負っているリスクは日常生活でも同じことを指すだろう。

実際の例としてUSDCを発行するサークル社も2023年3月に発行裏付けとしての預かり金33億ドルを破産したシリコンバレー銀行(SVB)に預金として有しており、最大で25%の裏付けを同行に有していたことから0.9ドルを割り込んだことがある(*同行はチャプターイレブン申請を行ったものの、米政府が預金を保証したことでペッグが回復した)。
これらを念頭に証券や国債でもリスクがあることを前提に、JPYCの将来性としては決済手段として選ばれるのかという点が重要であると述べている。
JPYCの発行数が伸びるには?
内田氏はJPYCを日本国民が発行する場合、銀行預金から引き出しをしてJPYC株式会社へ送金するという発行過程を上げ、残った預り金は銀行が国債購入に当てることで同社への影響もあることを指摘、国債の吸収という点からは国内需要だけではその影響からニュートラルで発行数が進まないのではないかと疑問を提起した。
岡部氏はステーブルコイン企業のような8割を国債購入に当てる銀行はいないことを述べ、海外ユーザーがJPYCを購入しないと意味がないことを認める一方、アジアにおける日本円の信頼度の高さを例に述べた。
また世界では未だにドルが基軸通貨として需要が高い一方、日本独自のアニメなどの文化などの日本産業の価値に需要があるならばJPYCが決済として普及する可能性があると指摘。日本円の金利の安さは今後のJPYC需要の増加につながる未来を描いている。
内田氏はこの日本円需要については為替の裁定を考慮すると厳しいと指摘、一方で岡部氏は為替のマーケットメイカーから円需要の声を聞いているとし、4%の金利なら借り入れ需要があるのではないかとし、ここ数カ月での10%近い円安への変動を考慮すると円を借り入れして空売りする需要が高いのではないかとしている。
後編ではDeFiの流動性や既存金融からステーブルコインイノベーションを模索する株式会社みんなの銀行の渋谷 定則氏を迎えたハイレベルなパネルディスカッション及び質疑応答の模様をお伝えする。
|文:墨汁うまい
|編集:CoinDesk JAPAN編集部
|画像:墨汁うまい、暗号屋


