2025年12月11日、BNPL(Buy Now, Pay Later:後払い決済)大手のKlarnaが、Stripe傘下のウォレットインフラ企業Privyとの提携を発表しました。Klarnaのユーザーに向けて、シンプルかつ安全な暗号資産ウォレットの共同開発を目指す取り組みです。
日本ではあまり馴染みがないかもしれませんが、Klarnaは2005年にスウェーデンで設立された、BNPLのリーディングカンパニーです。クレジットカードを持たない若年層を中心に支持を集め、現在では26か国で1億1,400万人以上のユーザーと85万以上の加盟店を抱えています。また、年間流通取引総額(GMV)は1,180億ドル(約18兆円)規模に達しており、近年では単なる後払いサービスから「デジタルバンク」へと急速に進化を遂げています。
今回は、Klarnaが進めるWeb3戦略の全貌と、Stripe経済圏との連携がもたらす影響について詳しく見ていきます。
※本記事の内容は、マネックスクリプトバンクが週次で配信している、FinTech・Web3の注目トピックスを解説するニュースレター「MCB FinTechカタログ通信」の抜粋です。マネックスクリプトバンクが運営する資料請求サイト「MCB FinTechカタログ」にて、過去の注目ニュース解説記事を公開していますので、ぜひご覧ください。
Stripeが持つ技術スタックを活用
今回のニュースを深く理解するために、まずはパートナーであるPrivyの立ち位置と、その周囲にある技術スタックを見ていきましょう。
Privyは、OpenSeaやHyperliquidといった主要なWeb3プラットフォームに採用されているウォレットインフラのプロバイダーであり、Stripeの傘下企業でもあります。同社の強みは、ユーザーがシードフレーズ(≒秘密鍵)を意識することなく、メールアドレスや生体認証だけで安全にウォレットを利用できる「Embedded Wallet」技術にあります。これにより、既存のアプリ体験を損なうことなく暗号資産ウォレット機能を統合することが可能です。
また、StripeはPrivyだけでなく、Bridgeというステーブルコインの発行基盤や、Tempoという決済特化型ブロックチェーンも展開しています。
Klarnaは今回の発表に先立ち、2025年11月に独自ステーブルコイン「KlarnaUSD」の発行を2026年より開始することを発表しています。KlarnaUSDの発行において、Stripeが買収したBridgeの技術を採用し、さらにTempo上で発行することを表明しています。
つまり、Klarnaはブロックチェーン(Tempo)、発行インフラ(Bridge)、そして今回の顧客接点となるウォレット(Privy)に至るまで、Stripe関連のWeb3技術スタックを全面的に採用し、アプリケーションの刷新を図っているのです。
CEOの姿勢転換とコスト削減への期待
Klarnaの共同創業者兼CEOであるSebastian Siemiatkowski氏は、プレスリリースの中で「(暗号資産およびウォレット)技術は成熟した」と述べており、家計管理や購買行動の延長線上に暗号資産を統合する意向を示しています。Siemiatkowski氏はかつて暗号資産に対して慎重な姿勢を示していましたが、コスト削減と即時決済の実用性が高まったことで、そのスタンスを大きく転換させたようです。
KlarnaUSDのプレスリリースでは、現在年間約1,200億ドルに上るとされるクロスボーダー決済のコスト削減などを視野に入れていることが明らかにされています。今回のPrivyとの提携は、アプリにウォレット機能を組み込むことで、KlarnaUSDを用いたアプリ内でのクロスボーダー決済の実現を目指しているものと考えられます。
拡大するTempoエコシステムと各社の動向
Web3×決済の領域では、PayPalが自身のステーブルコイン「PYUSD」を展開し、RevolutやRobinhoodも暗号資産の取引機能を提供していますが、Klarnaのアプローチは投資機能の追加ではなく、「決済体験への完全な統合」を目指している点で特徴的です。
また、Klarnaが参加するブロックチェーン「Tempo」のテストネットには、VisaやMastercard、スイスの金融大手UBS、OpenAIやAnthropicなどのAI企業、予測市場のKalshiなどもパートナーとして名を連ねています。CoinDeskによれば、Tempoの手数料は1取引あたり約0.1セントであり、ボラティリティの高いトークンではなくステーブルコインでガス代(取引手数料)を支払える設計となっています。
Tempoにとって、Klarnaが単にステーブルコインを発行するだけでなく、ウォレットを統合する動きを見せたことは好材料と言えるでしょう。Tempoは12月9日にパブリックテストネットを公開しており、今後さらなるユースケースの発表が期待されます。
考察
今回の発表は「Research Partnership」という位置づけであり、実際の製品提供には規制当局の承認が必要となるため、直ちにサービスが開始されるわけではありません。しかし、KlarnaがStripeのエコシステムと深く連携し、決済のバックエンドをブロックチェーン技術で効率化しようとする方向性は明確です。
特筆すべきは、FinTech企業が単に「ビットコインが買える機能」を追加する段階を終え、送金コストの削減や決済速度の向上といった、本業の収益構造を強化するためのインフラとしてブロックチェーンを採用し始めた点です。「ウォレット」がバックエンドで実装されるのであれば、数億人規模のユーザーが知らず知らずのうちにオンチェーン決済を利用する未来が現実味を帯びてきます。
Klarnaは来週にもさらなる発表を行うとしており、矢継ぎ早に展開される同社のWeb3戦略が、既存の金融機関や他のFinTech企業の動向にどのような影響を与えるのか、引き続き注目したいところです。
|文:宮本航歩
|編集:CoinDesk JAPAN編集部
|トップ画像:Klarnaのウェブページ(キャプチャ)


