ソラナ(Solana)エコシステムで、次世代の基盤を支える2つのテクノロジーがタッグを組む。ひとつは「DoubleZero」。パブリック・インターネットと並行する形で、「N1」と呼ばれるブロックチェーン専用の物理インフラ層を構築する。帯域を拡張し、レイテンシーを低減することで、高速チェーンの性能を最大限に引き出そうとしている。
もうひとつがMEV(最大抽出可能価値)インフラを提供するJito。バリデーターとブロックビルダーをつなぐ「BAM(Block Assembly Marketplace)」という市場を通じて、最適なブロック組成を競争的に選択できるようにし、トランザクションの順序づけを効率化し、処理効率とブロック承認の確実性を高めている。
この両者のシナジーで、ソラナはどのように進化するのか。JET(Jito Expansion Team) APAC LeadであるSushieが、DoubleZeroのAPAC BD(アジア太平洋地域事業開発責任者)のトム・リー(Tom Lee)に聞いた。
高速な専用物理インフラ層を構築

──DoubleZeroを一言で表すとするとどうなるか。
私たちは、パブリック・インターネットと並行して動く、高性能ブロックチェーン向けに設計された、高速物理インフラ層を構築している企業だ。
最近、ソラナ関係者の間で「IBRL」が話題となっている。IBRLは「Increase Bandwidth, Reduce Latency(帯域を増やし、遅延を減らす)」の略だ。ソラナの性能をより高めていくために、今、制約となっているのがこの2つとも言える。
私たちはまさにこの課題を解決しようとしている。情報をよりスムーズに往復させるためには、もっと多くの帯域幅が必要となる。そして、レイテンシー(遅延)を減らすことが非常に重要だ。
──どのような手段で「IBRL」を実現するのか。
海底光ファイバーケーブルを利用する。ターゲットは、家庭で使うようなインターネット回線ではない。あくまでも、エンタープライズ・グレードのインターネット基盤の話だ。
私たちは今、グローバル化が進んだ世界を生きており、ソラナのような分散型ネットワークでは、例えば東京〜アムステルダム間でもスムーズに通信できなければならない。時間がかかり過ぎると、バリデーターにとってコストとなり、ユーザーにも悪影響が及ぶ。しかし、ブロックチェーンに特化した専用インフラなら、やり取りにかかる時間を大幅に短縮できる。
──とはいえ、東京からアムステルダムまで1本の海底光ケーブルで直結しているわけではないと思うが。
その通りだ。私たちは、できるだけ多くのリンク(接続点)を確保しようとしている。例えば、東京からシンガポール、そしてシンガポールからフランクフルトへという具合で、こうした都市間のネットワークを数多く構築しているところだ。将来的には、パケットが別の場所に到達するまでに辿ることができる複数のルートが存在するようになる。
──それが実現すれば、インターネット上の通信速度が速くなるということか。
さらにデータセンターに専用ハードウェアを設置して、エッジ側でフィルタリングを行う。データセンターは、多くのリンクが集まるジャンクションのような場所で、私たちは「DZX(DoubleZero Exchanges)」 と呼んでいる。また、ハードウェアは「FPGA(Field Programmable Gate Arrays)」と呼ばれるもので、スパムをフィルタリングし、さらには、署名検証やトランザクション検証を実行する。
今、ソラナ上では、多くの人が重複したトランザクションを送信しており、そうした、いわゆる “スパム・トラフィック” が全体の約75%を占める。FPGAは、そうした無駄を取り除く役割を担う。
JitoのBAMとのシナジー効果
──DoubleZeroの技術を、分かりやすく説明してほしい。
一言でいえば「効率的でクリーンな目的特化型インターネット」だ。具体的には、ブロックチェーンに特化している。
例えば、メタは世界でも最大級の海底ケーブル敷設者だが、その理由はパブリック・インターネットでは自社のトラフィックを処理するには不十分だからだ。 すでに数兆ドル規模にまで成長してきているブロックチェーンも、同じように目的特化型インフラが必要になっている。
現状はソラナに特化しているが、将来的には他のレイヤー1やレイヤー2にも拡大していく予定だ。さらにコンテンツ配信ネットワーク(CDN)や、大規模言語モデル(LLM)のトレーニングなど、新しいユースケースにも広げていきたい。
──Jitoが開発したBAM(Block Assembly Marketplace:次世代の高性能トランザクション処理システム)とは、どのようなシナジー効果があるだろうか。
鍵となるのは、間違いなくマルチキャストだ。既存の技術だが、パブリック・インターネットでは簡単に利用できない。
通常、バリデーターは複数の相手がいても、1つずつしかメッセージを送れない。つまり相手が増えれば増えるほど、非効率になっていく。私が複数の人に荷物を送るとしよう。まず東京に荷物を届けに行き、また戻って、次にアムステルダムに届けに行く、そしてまた戻って、次の場所へ…。非常に非効率なプロセスだ。
一方でマルチキャストでは、各地域に設置しているDZXを活用し、一度の送信で複数の相手に配信できる。各バリデーターが自分で同じ内容を何度も複製する負荷を大幅に軽減できる。BAMがその効果を最大限に発揮するには、こうした効率性が必要となる。
急成長するソラナに求められる「N1」ネットワーク

──なぜソラナから始めたのか。
この取り組みの出発点は、実はJump Trading(ジャンプ・トレーディング)という、世界でも有数のHFT(高頻度取引)企業の社内研究プロジェクトだ。彼らは、自分たちの取引をもっと速く執行することを目指したが、どんなに取引アルゴリズムを最適化しても限界があった。最終的には、限界を超えるには物理インフラそのものを改善しなければならないという答えにたどり着いた。
Jump Cryptoは現在、ソラナの次世代バリデータークライアント「Firedancer」の開発に取り組み、またソラナラボ(Solana Labs)から派生したAnzaが提案する新しいコンセンサスプロトコル「Alpenglow」もソフトウェアやクライアントの最適化・高速化を目指している。しかしそれだけでは不十分だ。産業として急速に成長しているブロックチェーン、つまりソラナには、目的特化型で高速な物理インフラが必要だ。それが私たちがソラナを選んだ理由だ。
次の成長のためには、より下のレイヤーを手掛ける必要があり、私たちは「N1(Layer 0を超えた新しいインフラ層)」と呼んでいる。
いま利用できる通信経路は、A地点からB地点まで一直線にはつながっておらず、回り道を強いられている。私たちがやろうとしていることは、できる限り一直線で、最も効率的なルートを築くこと、そして通信速度を光の速さに近づけることだ。
──ライバルは存在するのだろうか?
私たちが知る限り、ライバルはいない。私たちは広義にはDePIN(分散型物理インフラ・ネットワーク)に位置づけられる。光ファイバーを提供したコントリビューターにはトークンを配布し、ユーザーやバリデーターはネットワークを利用する際にトークンを購入する必要がある。
その一方で、私たちを「Grass」や「Dawn」のようなDePINプロジェクトと混同する人もいる。これらはユーザーが自分の帯域を提供し、それをAIトレーニングなどに活用する仕組みであり、私たちとは根本的に異なる。彼らは依然としてパブリック・インターネットを利用するが、私たちはエンタープライズ・グレードの専用インフラを構築・活用しようとしている。
日本市場の重要性、インフラの分散化が必要な理由とは

──日本市場はDoubleZeroにとってどのような意味を持つのか。技術的な観点とビジネスの観点から教えてほしい。
これまでに幾度となく日本に足を運んだ。ソラナの主要バリデーターと対話してきた。日本でもステーキング量が伸び、関わる人の数も増え続けている。バリデーターがより優れたパフォーマンスを発揮するには、やはり目的特化のインフラが必要だ。
地政学的な観点も欠かせない。現在、収益性やアクティビティが高いという理由で、日本の多くのバリデーターはサーバーをヨーロッパに置いている。しかし、アジアからのアクセスではレイテンシーが大きくなることは避けられない。私たちのテクノロジーで東京ーソウル間のレイテンシーが下がれば、バリデーターは、インフラを地理的にどう分散すべきかを考え始めるだろう。
問題は、日本国内にソラナの大規模なインフラが存在しないことだ。つまり、ソラナ上では数千億ドル規模のアプリケーションが構築されているが、技術的には日本には存在せず、他の地域のパートナーに大切な資産を預ける形になってしまっている。本来であれば、資産は自国に置きたいと考えるはずだ。
──どのようなビジネスモデルを想定しているのか。主な収益源は何か。
仕組みはとてもシンプル。私たちには「2Z」トークンがある。ネットワークに光ファイバーを提供するコントリビューターは、2Zトークンを受け取る。一方で現在、ソラナ上で活動しているユーザーやバリデーターがこのネットワークにアクセスしたい場合は、手数料を2Zトークンで支払う必要がある。
──最後に、日本のユーザーに向けてメッセージを。
今、私たちは大きな節目に立っていると思う。例えば、2025年9月30日でダイヤルアップ・インターネットは正式にサービス終了になる。つまり、ダイヤルアップは時代遅れの技術になり、今こそ新しいインターネットが必要であることを示している。新しいユースケースであるブロックチェーンに対応するためにインターネットは進化しなければならない。AIなど、他のユースケースもある。
世界の大企業の多くは、すでに自前のプライベート・ネットワークを運用している。もはや、パブリック・インターネットに接続するだけでは十分な時代ではない。私たちの目標は、こうした仕組みを民主化し、自由に利用できるようにすること。誰でもアクセス可能で、パーミッションレスで、そしてオープンなものにしていきたい。
プロフィール

トム・リー(Tom Lee):DoubleZero Foundationのアジア太平洋地域ビジネス開発責任者。以前は、ソラナ財団(Solana Foundation)とソラナラボ(Solana Labs)で戦略ディレクターを務めた。それ以前には法律事務所シンプソン・サッチャー&バートレットでコーポレート法に携わり、M&A、IPO、債券業務に従事した。
Sushie:JET(Jito Expantion Team)のAPAC Lead。以前は、大手証券会社にてM&Aアドバイザリー業務などに携わったのち、国内暗号資産プロジェクトの事業開発、ロイヤリティポイント企業のWeb3アドバイザーを務める。イベントの企画運営から、登壇、バリデーターのオンボーディング支援などに幅広く関与している。


