- ブロックチェーン・エコシステムが成熟するにつれ、ノード向けインフラの速度と効率性は単なる技術的な検討事項ではなく、戦略的に必須条件となっている。
- この分野を牽引しているのが、ソラナ財団(Solana Foundation)の元戦略責任者、オースティン・フェデラ(Austin Federa)氏だ。同氏は、ブロックチェーンの通信とスケーリングを再定義することを目指したプロトコル「DoubleZero」のローンチに向けて準備を進めている。
- フェデラ氏に、DoubleZeroを手がけることになった経緯、解決を目指している課題とそこから生じる新たな課題、そして高性能ネットワークレイヤーというそのビジョンが、次世代分散型システムの基盤となり得る理由について聞いた。
DoubleZeroの取り組みが発表されたのは、2024年12月。インターネットよりも高速で、暗号資産(仮想通貨)取引に不可欠な存在となることを狙っている。それ以来、ステーキングされたソラナ(SOL)の約12.57%がDoubleZeroのテストネット上で扱われている。メインネットのローンチは2025年9月中の予定だ。
──DoubleZeroを暗号資産の初心者にもわかるように説明してほしい。
フェデラ氏:「暗号資産版のフラッシュ・ボーイズ」を作っているという説明が一番わかりやすいだろう(※編集部注:「フラッシュ・ボーイズ」は、証券市場で超高速取引業者が注文を先回りする実態を描いたノンフィクション)。
まさに変革の瞬間だった。人々は、中央集権型の取引所での取引執行の優位性は、もはや取引ロジックやマーケットに接続したコンピューターの処理速度ではなく、市場イベントが発生する異なる地点間でどれだけ速くデータをやり取りできるかにかかっていることに気づいた。これは業界にとって大きな転換点となった。なぜなら、それ以前は通信時間はそれほど重要視されていなかった。
80年代のF1レースを思い出してほしい。ピットストップは、タバコ休憩のようなものだった。だが誰かが「ピットストップを最適化していないことで、実際にはレース中にかなりのタイムを失っている」と気づいた。取引でも非常によく似たことが起きている。
暗号資産において、パブリック・インターネットよりも高速なものを使うというアイデア──つまり、パブリック・インターネットでは利用できない技術を活用できるネットワークを使うこと──は、必ずしも新しいものではない。問題は、DoubleZeroが登場するまでは、単一の中央集権的な企業によって運営されるしかなく、複数の独立した貢献者が参加できなかったことだ。
DoubleZeroの主要な技術、哲学、そして経済的ブレークするーは、独自のファイバーネットワークを持つ複数の貢献者が、その一部、あるいはすべてをDoubleZeroネットワークに提供できる点にある。これにより、世界中の人々をつなぐ、巨大で極めて高性能なファイバー・メッシュ・ネットワークができあがる。
──なぜソラナ向けに構築したのか。
フェデラ氏:実際にはソラナ上に構築しているわけではない。独自の台帳システムを持っているが、スマートコントラクトを展開できるようなネットワークではなく、あくまで会計データベースに過ぎない。
私たちが一番にソラナをサポートしている理由は、ソラナが非常にユニークだからだ。高速ブロックチェーンのノード数、つまり1秒あたりのトランザクション数とノード数の比率を見ると、ソラナに匹敵するものはない。
ソラナに近いパフォーマンスを持つネットワークは、実際のノード数が5分の1から10分の1程度しかない。そして、通信の問題は指数関数的な問題だ。システム内のノード数が増え、データの送信先が増えるほど、必要な帯域幅は大きくなり、通信がボトルネックとなる。
つまり、ブロックチェーンネットワークが大規模かつ高速になるほど、ネットワークの高速化において通信はボトルネックになっていく。私たちが取り組む真の目標は、ノード数を減らしたり、中央集権化を進めることなく、ブロックチェーンをパブリック・インターネットよりも高速化することだ。
DoubleZeroにはソラナやブロックチェーンにとどまらない多くの用途があると考えている。だが現時点で最もニーズがあるのはこの分野だ。他のブロックチェーンでは、まだこうした問題に直面していない。
──ソラナのステーキングはDoubleZeroとどの関連しているのか。
フェデラ氏:DoubleZeroのノードにステーキングのためのステークプールがある。ステーク全体に占める割合はかなり小さく、約300万SOL程度だ(全体では5億SOL)。それほど多くはない。当初はテストネット上でバリデーターを運用するコストを補助する仕組みとして考えていたが、多くの人がテストネット上での運営に関心を示したため、多くの人をネットワークに参加させるための非常に効果的な手段となった。
9月にメインネットをローンチさせる際には、50以上の光ファイバーリンクが利用可能になる予定だ。現在は8本だ。その多くは、性能面では現在の接続と比べて10倍速くなる。10ギガビットから200ギガビットになる。
将来、DoubleZero上で十分なステークが運用されれば、ソラナのプロトコル設計者は、パブリックインターネットよりもはるかに高いリミットを設定できるようになるだろう。なぜなら、DoubleZeroが提供するキャパシティは、現在パブリックインターネット上でバリデーターが利用でけいるものより大きく、レイテンシーも低いためだ。つまり、より多くのデータを送信できるだけでなく、従来よりも速く届くことになる。
──つまり、2つの選択肢が生まれる。パブリックインターネットを使うか、DoubleZeroのような仕組みを使うか。取引をより速く、効率的に行いたい、あるいは他のメリットを手に入れたいと考えたら、DoubleZeroを選ぶことになる。結果的に、ソラナ上のバリデーターの間にパフォーマンスの不均衡を生み出すことになるのでは?
フェデラ氏:その質問は多い。問うべきことは「インターネットは中央集権的な力かどうか」だ。インターネットは基本的に、接続の大部分を握る20社程度の企業の集まりでしかない。もし今日、OECD加盟国すべてが突然「暗号資産は禁止」と言えば、ビットコイン以外のすべてが行き詰まるだろう。
率直に言えば、重要なことはインターネットを完全に排除することではなく、インターネットをフォールバック(バックアップ経路)として、検閲耐性を備えた手段として確かなものとすることだ。DoubleZeroがオフラインになったり、DoubleZero内に悪意の人物がいて、ブロックの検閲やデータの検閲を試みた場合、以下の2つのことが起こる。
1つ目は、ネットワーク上に9つの独立した貢献者が存在する理由にもなっていることだ。データは貢献者を迂回でき、問題のある貢献者はネットワークから排除できる。
2つ目は、常にパブリックインターネットをフォールバック先として利用できるということだ。その場合、ソラナの処理速度は1秒あたり50万トランザクションから1万トランザクションに低下するかもしれない。だが、フォールバックとしては悪くない。
これはつまり、典型的な「高速道路が渋滞しているので、今は一般道を走ろう」といった状況だ。
──メインネットのローンチが近い。それまでには、何が行われるのか。
フェデラ氏:大量のテストを行い、万全の準備が整っていることを確認する作業が続く。当然ながらトークンベースのプロジェクトであり、トークンのローンチも予定している。
|翻訳:T.Minamoto
|編集:CoinDesk JAPAN編集部
|画像:Danny Nelson
|原文:‘Crypto’s Flash Boys’: A Q&A With Austin Federa on DoubleZero


