サプライチェーンが自律する時代──トヨタから学べるもの

中央計画というと、ソビエト連邦の経済崩壊という暗いイメージと結びつけがちだが、中央計画は、現在の資本主義経済を動かす主力エンジンでもあるようだ。少なくとも企業の中において、少しはましな実績を挙げながらではあるが。

国家レベルでも、企業レベルでも、中央による計画によって指図されたり、指針を与えられたりすることを、人々は好まない傾向にある。それにも関わらず、1960年代以降、企業はビジネスネットワークをより効率的に運営しようと、コンピューター化されたトップダウンの計画作成や、仕事のスケジュール決めをしようとしてきた。

中央計画に代わる分散型システム

このような中央計画システムはコストがかさみ、複雑だ。ブロックチェーンを基盤とした産業活動が台頭するに連れ、その多くをお払い箱にできるチャンスがある。実世界と同じようにブロックチェーンも、個々の行為主体が他の人と並んで参加する分散型システムではあるが、中央集権化された調整役は不在だ。

トップダウンの在庫計画や予測の代わりに、分散型業務を可能にするためにスマートコントラクトを使うことができる。在庫がなくなった店舗は、近くの店舗、販売業者、あるいは工場から在庫確保のために直接調達するコストを確認するなど、サプライヤー候補を探すことができる。ローカルの店舗はそれぞれ、自分だけのルールを設定し、自らの補給計画と予測を管理することに集中すれば良い。

ライドシェアリングなどのクラウドソーシングサービスではすでに、似たようなことが行われている。直接ドライバーにいつ運転するようにと指示が飛ぶことはなく、市場である種の需要と供給のマッチングが起こるのに任されている。

しかし、ボーナスや急騰料金(需要が高まると料金が急騰する仕組み)などによって、均衡が取れるようにドライバーを促すための多くの分析やツールが使われており、現在のシステムはいまだにかなり中央集権化されている。中央計画ほどには細部まで管理されていないが、完全に自由な市場からはほど遠い。

計画の難しさ

このようなシステムは、中央計画システムよりもずっと反応が速いが、反応の速さというのは、そもそも実現するのがあまり困難ではない。一方、計画は常に困難なものであり、プロセスが徐々に進化するには何十年もかかってきた。

計画の過程においては、まず製品の素材計画を用意し、そこから製造スケジュールに基づいて、どれくらい注文する必要があるかを算出する。その結果、理論的には、在庫を適時に補給する仕入れが、整然と連続するはずである。そして製品が完成したら、流通計画と呼ばれる別の計画によって、販売経路へと流れていくはずだ。

理論的には上手くいきそうだ。しかし現実には、企業のサプライチェーンの大半は、慌ただしい補給合戦で大混乱状態になっている。どんな計画も現実を切り抜けるのは困難で、製品デザインのエラーから、巨大なコンテナ船がスエズ運河で立ち往生することまで、ほとんどあらゆる場面で失敗の可能性がある。

私はかつて、サプライチェーン向けの緊急飛行に特化したプライベートジェットのネットワークを指揮する重役に会ったことがある。1万ドル相当のプラスチック製のドアハンドルを配送するのに10万ドルを使うのはバカげているような気がするかもしれないが、10億ドルの工場を遊ばせておいたり、ドアハンドルなしで数千台の車を作っておいて、その後に手作業でハンドルだけ取りつけるよりは安くつく。それらすべては、需要と供給に突然の変化がある前に対処しておかなければならいない。

成功している大半の企業は、失敗する可能性のあるあらゆる事態を考慮して、事業運営の調整を、トップクラスの経営陣の戦略的優先課題としており、サプライチェーンの詳細を非常に細かく管理している。

私は過去に、サプライチェーンのプランニングソフトウェア販売会社で働いたことがある。大手テック企業のCEOが、販売および事業計画会議を取り仕切るのを見る機会に恵まれた。

プロセスとシステムデザインという自らの仕事に活かすために、オブザーバーとして計画会議に招待されたのだ。そこで、CEO自らがそのプロセスに関わるのを見て驚かされた。主要サプライヤーからの部品が不足することは、クリスマス商戦の鍵となる、同社の最高級(そして利幅の大きな)製品の供給が不足するということであった。理想からはほど遠いが、より利幅の小さな別の製品の製造を増やす生産力には余裕があった。

その会議において、利幅の小さな製品の製造を増加させ、当初の計画とは異なり、在庫のある製品に広告と販売の重点を置く方向に戦略変更することが合意された。そのような計画過程で彼らが見せた敏捷性は、悪い状況から最善の結果を引き出すものであっただろう。その会議は、サプライチェーン管理へのCEOレベルの関与に関して、私の中で基準を打ち立てるものであり、私はそれに匹敵するものをいまだに目にしてはいない。

トヨタのカンバン方式

分散自律型のサプライチェーンプランニングにモデルは存在していないが、それに近い中央集権型の方法が少なくとも1つあり、しかもかなりよく機能する。トヨタのカンバン方式だ。トヨタの初期の頃に、ソフトウェアをまったく使わずに実施されていた。

多くの優れたアイディア同様、このシステムは「少ない方が、時にはより良い」という哲学を完璧に象徴している。カンバン方式では、高度なプランニングソフトウェアの代わりに、カードが使われる。在庫が少なく(あるいは無く)なると、補給を要請するカードがサプライチェーンの1つ前のレベルへと送られる。壮大な計画とは無関係に、在庫は一連のシグナルによってシステム内を流れていく。

カンバン方式の最も優れた特徴は、「プランニング」のシグナルがマーケットプレースからやってくるものであり、計画に基づいて製品を押し出すのではなく、ネットワークが需要シグナルに直接反応することだ。カンバン方式はシンプルで効率的であり、書面上でも、デジタルでもよく機能する。

このようなシステムには、大きな制約も残っている。すべての製品がカスタマイズされていたり、エンジニアリングの変更が頻繁にある「受注生産」の場合にはあまり上手くいかない。中央集権化システムにも大きな課題がある。サプライチェーンを計画している人を泣かせたければ、エンジニアリングの変更注文が来ていると伝えれば良い。

自律的サプライチェーンに向けて

しかし、多くの場合、ブロックチェーン基盤の自律的サプライチェーンネットワークは、大きなメリットをもたらす。スマートコントラクトでは、倉庫や工場からだけでなく、近くの店舗やその他の場所からも自由に供給を確認することができる。ローカルのスマートコントラクトは時間とともに、独自で局地的な需要の過去データを積み上げ、時間とお金の面で異なる供給源のバランスをどのように保つかを理解し、より賢くなっていくことも可能だ。

このような未来にたどり着くには、デジタル資産がサプライチェーンを動くに連れて、それをトークン化する能力を劇的に向上させる必要がある。データはすでに存在しているが、スマートコントラクトで確認できて、管理できるデジタルトークンという形態になっていることは滅多にない。

ブロックチェーン取引の能力が高まり、より多くの企業が調達と追跡の業務をオンチェーンに移すに従って、自己管理的なネットワークに向けた計画とシフトはますます実現可能な色合いを帯びている。

プランニングの未来は、トップダウンの計画をしのいで、自己管理型システムが台頭してくるものだ。ライドシェアリングから民泊まで、個々が主導するシステムが、いかにトップダウンモデルと同じくらい反応良く、効果的であるかを私たちはすでに目の当たりにしている。このアプローチが、産業界のサプライチェーンへと進出するのも時間の問題だ。

ポール・ブローディ(Paul Brody)氏:EY(アーンスト・アンド・ヤング)のグローバル・ブロックチェーン・リーダー。
※見解は筆者個人のものであり、EYおよびその関連企業の見解を必ずしも反映するものではありません。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:The Age of Autonomous Supply Chains