世界が直面するサプライチェーンの課題:ブロックチェーンが再注目される理由

サプライチェーンが脚光を浴びている。

世界でもとりわけ成功したシステムや製品の多くは目に見えないものだが、サプライチェーンが突如注目されているのも驚くには当たらない。注目されているのは、その素晴らしい成功のためではなく、長年にわたって当然と思われていたのに、ここにきて停滞しているからだ。

サプライチェーンは情報で動く。その情報の大半はかなり低質なものだ。サプライチェーンを、長距離の伝言ゲームと考えてみよう。最初の人のメッセージが、最後の人に届く頃にはひどく歪められてしまう。メッセージがエコシステム全体で確実にクリアなものになるようにしてくれるブロックチェーンテクノロジー抜きで、私たちはそのような大きな情報のズレに甘んじるようになっている。

サプライチェーンの最近の歴史

サプライチェーンが幅広くデジタル化され始めたのは1970年代。MRP(manufacturing resource plannning:製造資源計画)の登場に伴ってのことであった。MRPシステムはBOM(bill of materials:部品表)を構成部品にまで拡大し、企業が自動で発注をかけることを可能にした。

企業はMRPを基盤に、需要予測や制約管理を加えていった。理論的には、サプライチェーンの最前部である小売店舗におけるモノの流れが、最も基本的な原材料を調達するところまで、サプライチェーン全体に影響を与える。現実には、データとテクノロジーの乖離と、競争における懸念が、その流れの大半を妨げる。

一般的な年であれば、そのような乖離はあまり目につかない。起こることの大半は予測可能だからだ。クリスマスは毎年12月にやってきて、それがサンクスギビング後の大規模なセール、ブラックフライデーの後にやって来るのは確実だ。サプライチェーンは、このように毎年起こるアクティビティの急増に対処するための備えをする。しかし最近では、需要に関して予測できるものは何もない。

新型コロナウイルスのパンデミックは、多くのサプライチェーンにおける脆弱性を残酷なまでに露呈させた。例えば、出荷を逃したサプライヤーは、小規模な不足を地球規模の製造危機に変えてしまうような、悪の連鎖反応を引き起こすのだ。

企業が頼るスマートな計画システムは、そのようなサプライヤーの評価を下げ、出荷が滞ることに備えて、より多く注文することになる。その他すべての資材を注文すると、大量の資材を保管する企業の在庫コストは高くなる。そのため企業はしばしば、製造を完了させるために、スポット市場において欠けた素材を見つけようとする。

サプライヤー側では、不足を恐れた複数の買い手が、突如注文を増やしてくるかもしれない。多くのサプライヤーは顧客に、比例配分での分配を約束し、買い手側には必要以上に注文するインセンティブが生じる。一方、供給が限られた製品向けのスポット市場が存在し、供給量が少ないために需要が高まった場合には、スポット価格が急騰する。

「ブルウィップ効果」と呼ばれるこのサイクルは、サプライチェーンの教授が学生たちに最初に教えることの1つだ。皮肉なことに、サプライチェーンビジネスに携わるすべての人が何が起こっているかを理解しているにも関わらず、そうしなければ競争上不利になるという理由で、そうしてしまうのだ。

囚人のジレンマ(全体の利益を最大限にすることにならない決定を個人がしてしまうゲーム理論における状況)の絶望的な参加者のように、各企業にとって最善の選択が、全体としての理想的な結果にはつながらないのだ。

ブロックチェーンのパワー

ブロックチェーンテクノロジーがサプライチェーンにもたらす最大の恩恵は、1つの企業を競争上優位にすることなく、企業をつなげる力だ。ブロックチェーンはまた、ロケーションごとのトークンの互換性もサポートする。つまり、より多くの情報がネットワーク全体を流れるだけではなく、情報の正確性も高まるのだ。

資産を表すデジタルトークンを1つのロケーションから別のロケーションへと動かす時には、最初のロケーションからトークンを削除し、新しいロケーションに移す必要がある。単純に聞こえるだろうし、銀行が通貨でやっていることもまさにこれだ。しかし、サプライチェーンにおける企業間でのやり取りにおいては、標準的な手順ではない。

パンデミックによって、サプライチェーン管理における大きな神話が崩壊した。計画の大半に使われる情報は、正確であるという神話だ。

正確ではないのだ。

このような脆弱性の唯一の解決策は、エンドツーエンドの一貫性と互換性をもたらすブロックチェーンを受け入れることだ。ブロックチェーンはサプライチェーンに内在する混乱を解決し、スムーズで効率的なモノの引き渡しを確保できる。

ポール・ブローディ(Paul Brody)氏:EY(アーンスト・アンド・ヤング)のグローバル・ブロックチェーン・リーダー。
※見解は筆者個人のものであり、EYおよびその関連企業の見解を必ずしも反映するものではありません

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
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|原文:Why Blockchain Benefits the Supply Chain