セラノス創業者・有罪評決から暗号資産界が学べること

セラノス創業者・有罪評決から暗号資産界が学べること

告発から数年にわたる捜査を経て、怒りの否認劇を繰り広げた後、一時はメディアの寵児であったエリザベス・ホームズは、投資家の悲しみの最終段階に到達した。有罪評決だ。

陪審団は3日、ホームズ被告は自身が立ち上げ、CEOを務めた血液検査スタートアップ、セラノスの投資家を欺いたと認定。この判決を受けて、アメリカ国民がテック起業家を見る目が大きく変わったと、楽観的な見方をする人もいるかもしれない。

しかしさらによく考えてみると、テック起業家、特に暗号資産(仮想通貨)起業家たちがホームズ被告の二の舞になりたくなければ、彼女の失墜から学べる具体的な教訓が見えてくる。

セラノスは、高速かつ持ち運び可能な新しい医療検査装置を発明すると約束していたが、その野望がつまずくと、ホームズ被告は自らの失敗を隠すために巧妙なごまかしに手を染めたと、陪審団は結論づけた。

公表せずに競合他社の機械で試験を行ったり、投資家訪問時に試験で偽の結果を表示したり、実際には行われなかった軍での実地試験を行なったと偽の主張をしたのだ。

流産をしたと誤った結果を伝えられた女性1名をはじめとして、セラノスの試験で誤解を招くような結果を受け取った患者も複数いたが、ホームズ被告は患者に対する詐欺に関する罪では無罪とされた。

起業家への教訓

一連の騒動から学べる教訓は数多くある。しかしその最大のものは、大きな約束に基づいて資金調達をする場合に、テック起業家たちが完璧にマスターしなければならない、絶妙な手法に関するものだろう。

ホームズ被告への有罪評決は、テクノロジー業界を数十年にわたって、特にここ10年ほど席巻した過剰な投資の盛り上がりという、はるかに広範なトレンドへの非難だと主張する識者もいる。

それは妥当な見方だろう。テック楽観主義のピークにあった6、7年前であれば、陪審団が同じ証拠を見て、ホームズ被告に無罪を言い渡したと想像するのも困難ではない。

ホームズ被告の弁護団は当然のことながら、大きな約束をすることは、テック精神の一部であり、そのような約束を果たせないこと自体は犯罪ではないと主張した。ホームズ被告は最終的に、大きな約束をはるかに超えたところまで行き過ぎたと判断されたのだが、その境界線は陪審団にとっては、簡単に見失ってしまうようなものだ。

しかし、アメリカはテック楽観主義の時代から、テック反発への時代へと移行。その背景には、2016年の米大統領選挙でフェイスブックが果たしたとされる役割がある。

それ以来、プライバシーを筆頭に多くの問題に関して、テック企業への市民の懐疑心は大いに増大している。テックの闇に対する市民の認識やメディアの注目は大幅に高まり、長年にわたって当たり前のように世界を変える救世主と見られていた起業家たちのイメージも低下した。

もっとも最近では、マット・デイモンのクリプトドットコム(Crypto.com)広告出演への辛辣な反応に見られるような、このような広範なシフトが、暗号資産起業家には見えていない可能性もある。

しかしホームズ被告は、テック投資の盛り上がりに対する広範な憤りを受けただけの存在と誤解されるべきではない。彼女は確かに、倫理的、戦略的過ちを犯したのであり、テクノロジースタートアップに関わっている人にとっては、彼女がどこでどのように間違いを犯したのか、正確に理解することが大切だ。

ホームズ被告は、多くのアメリカの主流リベラル派たちがトランプ前大統領が犯したと主張するのと同じ罪を犯した。大統領や議員らは欺きや汚職に手を染めることを私たちは皆理解しているが、トランプ前大統領は嘘や汚職を誤った方法で行なったのだ。

ジョージ・W・ブッシュ元大統領はアメリカの石油企業を儲けさせるために、戦争を煽ったが、トランプ前大統領はシークレットサービスにホテル代を請求した。倫理的にはより大きな犯罪を犯したブッシュ元大統領が報いを受けていないのは、アメリカの国家安全保障という仕組みを通じて自らのアジェンダをきれいに見せる伝統に従ったからだ。

イーロン・マスクに学ぶ壮大な約束の仕方

同様にホームズ被告も、マーク・ザッカーバーグ氏やイーロン・マスク氏と同じようなユートピア的言説のジャンルで仕事をしようとした。この2人はどちらも、大きな約束をして、それを果たしきれずにいることを長年繰り返しているにも関わらず、成功しており、少なくともある程度は尊敬されている。

しかしホームズ被告は最終的に、「うまくいくまでは、うまくいっているふりをする」と、単に「うまくいっているふりをする」の2つの間にある微妙だがはっきりとした境界線を超えてしまい、安っぽいごまかしに手を染めることとなった。トラックメーカー、ニコラ(Nikola)による、「この使えない車両を、丘の上から転がして走らせてしまおう」的な悪名高いやり方と同じように。

もちろん、最高に慎重に組み立てた約束でも、最終的には失敗に終わることがある。現在メインストリームの投資の世界でセラノスにもっとも近いのは、完全に自動運転できる車を作るというテスラ社の目標だろう。

CEOのマスク氏は、長年にわたって、もうすぐそこだと言い続けている。5年以上前にそのテクノロジーを売り始めているのに、いまだに存在していないのだ。

しかしマスク氏は、自動運転車の現行版の性能を偽ることはしていない。ホームズ被告が有罪となったことをテスラでやるとしたら、テスラの運転席にジャーナリストか投資家を乗せて、実際にはトランクに隠れたスタッフが操縦しているのに、人工知能が運転していると主張するようなものだろう。

もちろんこれまで述べたことは、法律上のアドバイスではない。企業やプロジェクトを立ち上げようとしている人は、投資家とのやり取りを指導してもらうために、しっかりとした法律専門家を雇うべきだ。

しかし、一般的な原則は十分にはっきりしている。月に行くと人々に約束することと、すでに行ったと主張することの間には、大きな違いがあるのだ。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock.com
|原文:What Crypto Can Learn From Elizabeth Holmes’ Fraud Conviction

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