ギタリストMIYAVI: NFTに挑んで見出した「人のハートの大切さ」

世界で活躍し続けるギタリストのMIYAVIが、デビュー20周年のタイミングでNFT界に本格参入した。

ピックを使わずエレキギターを演奏する独自のスラップ奏法を武器に、常に挑戦を続けてきたMIYAVIが、なぜいまNFTに挑むのか?

MIYAVI本人と、NFTプラットフォーム「Kollektion(コレクション)」を運営するKLKTNのCCO(チーフ・クリエイティブ・オフィサー)のジェフ・ミヤハラの2人に詳しく語ってもらった。

人は新たな繋がり方を模索している

MIYAVI:僕は以前から、MIYAVIというアーティスト自体と「デジタル」の親和性が高いと感じていました。海外でファンベースを築いたのも「マイスペース」というプラットフォーム上で、世の中がどんどんデジタル化していく中で、自分たちミュージシャンがどういう形で存在できるかは、2000年代当時から意識していました。

その後、YouTubeやInstagram、Twitterなどが台頭し、今回のコロナ禍ではバーチャルライブも始めました。フィジカルで人と人が面と向かって会えない時代。人は新しい繋がり方を模索し始めました。これは、もしかすると「必然的な」人間の進化の一部なのかもしれないと、僕は感じています。

NFTやブロックチェーンについても、その流れの一環だと捉えています。NFTは昨年あたりドカッと流れがきて、自分の周りでも(環境保護団体の)WildAidに参加している写真家が、アート・バーゼル(アメリカで最大級のアートフェア)で個展を開き、それをNFT化していた。

また、ディズニーの映画「マレフィセント2」に出演した時、特殊メイクをしてくれたアーティストも、僕が被写体となっている彼の作品をNFT化していた。今は、皆がデジタルプラットフォーム上での可能性を、トライ&エラーしながら模索しているエキサイティングな時期だと感じます。

そこでMIYAVIとして、ミュージシャンとして、どうNFTと向き合うか。

コロナ以前、音楽制作はロサンゼルスでチーム作業をしていましたが、コロナ禍で自分が東京を離れられない状況になりました。なので、逆に「東京でしか作れないもの」「東京にいるからこそできるもの」を作ろうと思いました。しばらく海外を拠点にしてきて、その視点も踏まえて改めて見た東京、および日本は新鮮でした。日本にしかないものがたくさんある、さらにそう感じるようになりました。

「完全に新しいファン・コミュニティの形」とは?

画像提供:KLKTN

でも東京にいて、グローバルのマーケットのニオイを感じながら、作品を創ることはそれはそれで難しい。そこでジェフと組もうと考えました。ジェフは東京にいながら海外市場のマーケットを意識して、そのニオイを感じながら作品を作っている、稀有なプロデューサーの一人です。

出発点は「ボーカル録り」でしたが、その後、作品づくりにもガッツリ関わってくれて、共同プロデューサーとして作品を作り上げてくれました。KollektionのNFTプロジェクトの話をいただいたのも、その時でした。

ジェフがやろうとしていたのは、単なる「NFTアート」ではなく、ファンとの結びつきを重視したコミュニティ型のNFTプロジェクトでした。ファンクラブやその会報誌やアクティビティはいままでもありましたが、「それよりも一歩踏み込んだ、新しいプラットフォーム」を今からやろうとしています。その最初の段階でMIYAVIをフィーチャーしたいと彼は言ってくれました。

僕も興味があったので快諾しました。モノの価値が大きく変わってきていて、本当に価値のあるものとは何なのか、すさまじいスピードでデジタル化していく中で、もういちど再定義しなければいけないと感じていたからです。忘れてはいけない大切な価値もあるが、必要でないものもある。僕はもっともっとそこを見極めたいと思っていました。

NFTは「音楽の輝きを伝える」手段に

MIYAVI:NFTの可能性については、テクノロジーの進化スピードと、僕たちが持っているコンテンツの進化スピードが、うまくシンクしていると思います。もちろんテクノロジーは普及までに時間がかかる。例えばバーチャルライブに関しては、テクノロジーの進化速度、ネットワークやハードウェアの普及など、ソフトとハードのバランスがまだ取れていない。

でも、これからくる未来のために準備しておく必要があると強く感じます。音楽の力を届ける仕組みづくりをするのはアーティストをはじめ、プロデューサー、レコードレーベル……音楽のパワーを享受して、音楽に救われたすべてのひとたちの責任だからです。

コロナ禍でツアーが中止になったときに、僕は自分自身でLOGIC(DTMソフト)とOBS(ストリーム配信ソフト)をつなげて、YouTubeやLINE、Twitch、Bilibiliに配信し始めました。あの時期は、自分自身で動かないと、あの閉鎖的で絶望的な状況に屈してしまうと思ったからです。

「2020年、コロナで散々だったね」と言うのは絶対に嫌だった。そうじゃなくて「大変だったけど俺たちはこれができた」と言いたかったんです。

バーチャルライブは自宅からもやったし、チームラボや、OculusのサポートとともにVRワールドのVirtual Market、AmazonとTwitchでXRを取り入れたり、去年は清水寺からもやらせてもらいました。突っ走っていたし、心のどこかでライブが復活してほしい気持ちはもちろんあったけど、僕たちはこの時代に突入してしまった。

その中で、僕たちが持っていた輝きを、どうやって伝えられるか……。

音楽の輝きやその喜びや楽しさを伝える方法のひとつとして、NFTは非常に強い可能性を秘めていると思います。作品の魅力、その暖かさ、強さ、メッセージを伝え続けるためには、マネタイズまで含めた「仕組み」が必要で、それを創ることは業界だけでなく、ファンも含めたすべての関係者にとっての利益になるべきだと感じます。

「NFTやweb3はかなり新しいモノ。そこにはまだ、教科書も正解もない」

ジェフ・ミヤハラ(撮影:多田圭佑)

ジェフ:NFTやweb3は「かなり新しいモノ」です。そこにはまだ、教科書も正解もありません。ファンの声を聞き、今のWeb3の最新トレンドをしっかり取り入れながら、これからの未来をアーティストやそのファンたちと一緒に創っていきたいと思っています。

音楽のNFTプロジェクトは多々あります。しかし、我々のようにデジタルグッズも含めて、Web3を活用しながらアーティストのファンダムをビジネスにしていこうというプラットフォームは、世界でもあまり多くありません。

Kollektionは昨年7月にサービスを開始し、MIYAVIとのコラボを発表できたのが夏でした。当時、NFTの市場はコレクティブルがメインだったので、まずは「アートカード」から始めることにしました。

MIYAVIのアルバム「Imaginary」には11曲が収録されています。それをしっかりフィーチャーし、著名なデザイナーと一緒にコラボして、みんなが喜んでもらえるような「アート」として出しました。

フェンダーとの「不可能なコラボ」も実現

ジェフ:最大の目玉が今年1月〜2月に開催した「Month Of MIYAVI」です。この期間中、MIYAVIの楽曲制作の裏側やオフショットなど制作過程を垣間見ることのできる「Moments」(瞬間)というNFTをリリースしました。Momentsにはレア度の高い「限定版」も存在し、そこには1曲1曲の制作秘話をMIYAVI本人が語る貴重なインタビュー動画も含まれています。

フェンダーとも「不可能なコラボレーション」を実現しました。フェンダーがMIYAVIのために開発した独自のギター(テレキャスター)をNFT化し、「Month of MIYAVI」のキャンペーン期間中、ファンに抽選でプレゼントしました。

デジタル版「ジャケット」のKodex(コーデックス)は、CDジャケットにあったようなカバーアートや歌詞、ライナーノーツといった楽曲の側面を彩るクリエイティブを、デジタルで実現可能な形で表現しています。

画像提供:KLKTN

CDのパッケージを開けてライナーノーツを読めば、どこでレコーディングされて、どんな作曲家が関わっているのか、どんな方が写真を撮っているのか、デザインをされているのかを知ることができた。

しかし、SpotifyやApple Musicなど、いまの音楽配信サービスだと、そういう情報は見えてこなくなりました。それをもう一度、NFTという一つの記念品として残していこうとしています。

K-POPのスーパースター、カン・ダニエルとコラボしたMusic Videoも作りました。UNREAL Engineというゲーミングエンジンを使うことで、日本にいるMIYAVIと韓国にいるカン・ダニエルの、同じMusic Video内での共存を可能にしました。

MVにはこれまでMIYAVIと「Kollektion」のプロジェクトを支えてきてくれた、ファンの名前をクレジットしました。しかもエンドロールではなくて本編に入れ込んであります。

NFTは濃密なコミュニケーションを実現させるもの

ジェフ:世界中を飛び回っているMIYAVIが、どういう形でファンとコミュニケーションできるのか。我々も模索を続けています。ファンとの交流の場としてはDiscordを使っています。

アーティストからの情報発信コミュニケーションは、TikTokやInstagramなどでも盛んに行われていますが、どうしても一方通行になりがちです。しかし、Discordでならファン同士もコミュニケーションをとりやすいという利点があります。

Discord内ではイベントも開催しています。デビュー20周年、熱狂的なファンを続けてきた人じゃないとわからないようなトリビアのゲームショーをやって、正解した人にはエアドロップやホワイトリストの形で報酬を出しました。

ファンと一緒に曲を楽しむ「リスニング・パーティ」では、我々コミュニティマネージャーがDJとして「次は何が聴きたい?」と問いかけ、双方向コミュニケーションを加速していきました。

今回、改めてわかったことがあります。それは「コミュニティの成長に必要なプロダクト」を、ファン・コミュニティ自身が教えてくれるということです。例えばいま、MIYAVIの熱いファンたちはDiscord上で、自らが創作した「オリジナル絵文字」を使って「Cool」とか「Are You Ready?」と会話するようになっています。今後の方向性によっては、ファンが自ら発信するようなプロダクトが増加するかもしれません。

ジェフ・ミヤハラ(撮影:多田圭佑)

NFTの一般的なイメージは、大富豪が資産として買うもの、株などの代わりに投資するものかもしれません。でも、僕たち「Kollektion」はちょっと違う風に考えています。使っているチェーンがイーサリアムではなく「Flow」なのもガス代(取引手数料)がほとんどかからず、環境に優しいから。一つ数十万、数百万円という単位ではなく、もっと手が届く身近な価格帯にして、ファンのコミュニケーションを加速させたいと思っています。

NFTを使うのは決して単に「お金が儲かる」からではありません。それがMIYAVIが創り出すストーリーをよりよい形でファンに届けて、より良いコミュニティを構築し、そしてより濃密なコミュニケーションを可能にするからです。Web3の技術を組み合わせることで、より濃密な体験を生み出すのがKollektionの使命です。

大事にしているのは「ワオ!」という感覚

画像提供:KLKTN

MIYAVI:人は見たことがないもの、刺激を受けるものに価値を見出し、対価を支払う。僕たちが創る音楽、コンテンツもそれが前提となっています。人がお金を払ってレストランに行くのは、自分では作れない料理が味わえたり、その場所の波動とともに自宅ではできない体験ができるからで、そこで感じる喜び、驚き、「ワオ!」と声をあげたくなる気持ちに僕はいつも未来を感じます。

「ワオ!」なモーメントを創るということは、僕にとってビジネスではありません。人を喜ばせたい、驚かせたいという衝動、それ自体が僕の人生のモチベーション。僕はそれがロックだと思っているし、生きがいでもあります。

死ぬ瞬間に「全部やりきった」と思えるかどうかは稼いだ金額とは必ずしも比例しません。クリエーターとしてのバロメーターはどれだけ人に「ワオ!」と思ってもらえるか、未来を感じてもらえるか。

だから、自分のギターの弾き方にしても、NFTを通じてプロジェクトを実現することにしても、コロナ禍のバーチャルライブで実現したかったことにしても、そこで「ワオ!」と感じてもらえるかどうかを大事にしています。その「ワオ!」がない状態で「ビジネス」としてやることは、僕にはできないです。

「心が死んでいるクリエイター」が特に今、たくさんいるように思えます。大きな規模で活躍しているように見えるクリエイターでも「なぜ、あんなに楽しそうではないんだろう」と不思議に思うことがあります。僕は「自分がワクワクしていない」ものをファンには届けられない。もしかしたら、それでも喜んでくれる人はいるかもしれないけど、それはお互いにとって不自然、不健康だと思う。

僕がNFTプロジェクトに取り組んでいて、その中で強く感じたのは「人のハート」でした。デジタル化されればされるほど、その大事さが浮き彫りになってくるように思います。

たとえばDiscordやZoomなどで使う「絵文字」は、いつの間にか、人のコミュニケーション・ツールとして大きな要素を占めるようになった。一昔前なら「ちゃんと会って話そう」とか「絵文字なんて失礼だ」とかいう価値観もあったし、今でもそういう人はいるかもしれない。でも今ではデジタル・ツールを使いこなすことも、僕たちの表現力の拡張でもあり、そういったプラットフォーム上でのコミュニケーションにおける、ある種のマナーでもあるのかなと思う。

飛行機で世界中に行けるようになった。では、僕たちは行った先のその世界で「何をすべき」なのか? つまり、考えなければならないのは「絵文字を使うべきかどうか」ではなく、「それで何が届けられるのか」「何を届けるべきなのか」です。

NFTの世界観は、「サブスク」とは真逆

MIYAVI:今回のKLKTNとのプロジェクトの目玉でもあるKodexのインタビューは、ニューヨーク、ワシントン、ボストンとツアーで周り、アトランタでイベントをやった後、枯れそうな声で収録しました。

ジェフに「ちょっとだけ時間ください」と言われて話し始めたんですが、僕もきっちり語りたくなって結果収録は2時間半(笑)。でも、最終的に出来上がった作品の蓋を開けて見たとき、なぜあのインタビューが必要だったのか理解できた。

ジェフが実現したかったこと、彼が子供のように楽しげに語っていたことというのは、こういうことだったのか、と。そのとき僕は、デジタル化された社会の中で、自分たちが失っていた感情に気付かされました。

確かに「音楽」はそれ単体でも素晴らしくあるべき。でも、その裏側を見ると、そこには多くの人たちのさまざまな思いが込められていることがわかります。作曲者の感情、関わってくれたプロデューサー、デザイナーの考えたことが記録されているメイキング・ビデオ。それはたしかに「デジタル・データ」だけど、その中身はこの上なくアナログな「何か」。結局はデジタルコンテンツにおいても大切なのはその中身、人が人であるがゆえに感じられる「何か」だと僕は思います。

僕は「NFTを作りました。これは付加価値があるから高くなりますよ……」というものがあってもいいと思う。でも、僕が今回、KLKTNとの共同作業で感じたのは、人と人とのコミュニケーションという、本来この上なくアナログであるものの大切さだった。

NFTの世界観は、一つ一つの作品ではなくパッケージや業界全体に対価を支払う「サブスク」の世界観とは、真逆の存在だと思う。次々と流れてくる作品をその場かぎりで消費していくのとは違い、一つのものを慈しみを持って深く楽しむという喜び。データの所有権をブロックチェーン上に刻みこむ「NFT」は、これまでアナログでしか味わえなかったその喜びを、デジタルでも再現してくれる技術だと思うし、そこに僕はデジタルコンテンツとしてだけではなく、人としての喜びと可能性を感じています。

アーティストとファンとのコミュニティを盛り上げるのは何もアーティストだけじゃない。ライブはファンも一緒に会場が一体となって盛り上げていくものなのだと、コロナ禍で歓声を出しにくくなって、みんなが改めて実感しています。

ブロックチェーン技術で、コミュニケーションは「進化」していく

ジェフ:データを改ざんできない形で記録するブロックチェーン技術は、不安定な時代にますます活用されていくと思います。デジタル化された社会では、財産の管理の仕方や人間関係の作り方なども、従来とは大きく異なったものになってきています。NFTはアートとして注目されていますが、「ユーティリティ」の側面が非常に大きいと考えています。

MIYAVI:デジタル化によって人と人との連帯が、僕はいい意味で強化されていくんじゃないかなと思います。たとえば世界中の人たちがSNSを通じて、以前よりも遥かに強い形で連帯しながら声を上げることができる。今回の戦争についても、反対の声が世界中であがっていることがわかります。

テクノロジーは「正しくない使われ方」をする危険性もあります。しかし、僕はNFTを含めたデジタル技術の進化によって、僕たちのコミュニケーション能力やコミュニティ自体が「進化していく」と思うし、そこに大きな可能性と未来を感じています。僕がKLKTNとNFTプロジェクトに参加した理由はそこにあります。

|取材・テキスト:渡辺一樹
|編集:佐藤茂
|トップ画像提供:KLKTN