NFTとレコード盤、人はどちらを選ぶ?──岩瀬氏のKLKTN、ゲスの極み乙女、ワーナーが社会実験

NFTとレコード盤、人はどちらを選ぶ?──岩瀬氏のKLKTN、ゲスの極み乙女、ワーナーが社会実験

NFTの取引サービスを手がけるKLKTNが、バンド「ゲスの極み乙女」の楽曲に紐づくNFTを活用して、ユニークな社会実験を行った。NFTはブロックチェーンを基盤技術に、アート作品やトレーディングカード、画像、動画、楽曲などのデジタル化を可能にするが、人は選べるとしたらデジタルのNFTを保有するのか?それともリアルなアナログレコードを求めるのか?

ライフネット生命共同創業者の岩瀬大輔氏が香港で設立したKLKTNは今年、ワーナーミュージック・ジャパンと同レーベルに所属するゲスの極み乙女と共同で、NFTプロジェクトを実施した。

プロジェクトは、ゲスの極み乙女が初めて制作したNFTコレクションを基に設計された。コレクションの名称は「Maru(マル)」。ゲスの極み乙女のメンバー、川谷絵音氏の誕生日(12月3日)に因んで、1,203点のアート作品で構成される。

(楽曲「Gut Feeling」のレコードジャケットを抱えるゲスの極み乙女のメンバー/KLKTNの発表資料より)

それぞれのNFTは一点もののアートとして、コレクターが楽しめるようデザインされた。メンバー4人の顔、ギターやドラムといったバンドで利用される楽器、日本の文化を表現した鯉のぼりや駒、メンバーの出身地を代表する長崎ちゃんぽんなどの食べ物が、NFTアートのビジュアル性を高めた。

加えて、ゲスの極み乙女は今回のプロジェクトために、楽曲「Gut Feeling」を書き下ろし、その曲の複数の楽曲データ(ステム)をNFTに組み込んだ。それぞれのNFTに掲載されるメンバーの顔に応じて、流れる音楽は異なる。メンバー4人の顔が揃ったレアなNFTでは、すべての音楽を同時に流すことできる。

今回のプロジェクトを社会実験と呼ぶ理由は、もう一つのしかけにある。Maruを取得したホルダーは、保有するNFTを「バーン(Burn=トークンを永久に使えないようにすること)」すると、Gut Feelingが収録された一点もののレコードに引き換えることができる。

ファンがNFT版とリアル版のどちらを選択するかを知ることで、アーティストは今後、NFTを活用した音楽活動の幅を広げることが可能になるだろう。メジャーレーベルに所属するアーティストが、NFTをバーンすることでリアルなレコードを入手できる取り組みを実施したのは9月時点で、世界初だという。

アート×金融×テック×グローバル=NFT

(東京・下北沢で10月19日に行われたオフラインイベント/左からKLKTNの岩瀬大輔氏、ゲスの極み乙女の川谷絵音氏、ワーナーミュージック・ジャパンの増井健仁氏)

10月19日、岩瀬氏と川谷氏、ワーナーミュージック・ジャパンの増井健仁チーフプロデューサーは下北沢でオフラインイベントを開いた。NFTプラットフォーム、アーティスト、音楽レーベルという3つの異なる立ち位置から、NFTと音楽が融合する近未来の世界を垣間見えるイベントとなった。

金融とテクノロジー、アート、グローバルが交わる世界を見据えてKLKTNを創業した岩瀬氏は、デジタルなものを所有することは依然一般化されておらず、「音楽×NFT」の仕組みが世界的に広まるには、これまでの常識を大きく転換する必要があると話す。

「デジタル資産、デジタルコレクティブルズが増え始めている現在の状況は、インターネットが爆発的に普及する前の1988年頃に似ているのではないだろうか。NFTという見えないものに対するワクワク感に対して、勇気ある人たちがその新しい世界に通じる地平線を見つめているような時代が今だろうと思う」(岩瀬氏)

日本のアーティストはもっと海外で活動できる

今回のプロジェクトを通じて1,203個のNFTが作られたが、販売総数の約3割は北米居住者が購入したと、岩瀬氏と増井氏は同イベントで明らかにした。

販売数の結果を踏まえてゲスの極み乙女の川谷氏は、「北米でライブを行いたいという気持ちが強くなった」と話す。「邦楽のコードはより複雑化しているように思うし、邦楽がガラパゴス化しているとも言われている。今回のプロジェクトでは、世界中の人に聞いてほしいという想いから、よりシンプルにすることを意識した」と述べた。

また川谷氏は、音楽はCD(コンパクトディスク)からサブスクリプションへと変わってきたが、レコードやカセットテープの需要が盛り返していることにも触れた。

「僕は古い人間なのかもしれないけれど、NFTをバーンしてアナログ盤を手に入れたいと思う人はある程度いるだろうと思う。アナログを作りたいという気持ちもあった」(川谷氏)

リアルとデジタルが交錯する音楽NFTの黎明期

ワーナーの増井氏は、レーベルがこれからNFTをどう事業に組み入れていくかは定かではないと述べたうえで、ワーナーにとってはアジア初の今回のプロジェクトを通じて得られる知見を活かしていきたいとコメントした。

北米において、NFTを活用した音楽プロジェクトは増加傾向にあるが、そのほとんどは依然としてインディーズによるものと、岩瀬氏は指摘する。「今後、メジャーが良質の(NFT)プロジェクトをどれだけ増やしていくかだと思う」

「(音楽業界が)5年後、10年後にどう変化しているかはわからない。だから、(NFTとアナログの)2種類から選ぶことができる仕組みは、今の状況に合っているのではないだろうか」と岩瀬氏は述べた。

KLKTN、ゲスの極み乙女、ワーナーミュージック・ジャパンによる今回のプロジェクトは、イギリスを代表する作家のダミアン・ハースト氏がNFTを利用した社会実験「THE CURRENCY」に着想を得たという。

ダミアン・ハースト氏は「THE CURRENCY」で、偽造を防止する仕組みが施されたカラフルなドット絵の作品1万枚を作成した。コレクターはNFT化された作品を購入し、1年以内にNFTを破棄してリアルなアート作品を入手するか、またはリアルなアート作品を取得する権利を放棄して、NFTを持ち続けるかを選択できる。

|取材・テキスト・構成:佐藤茂
|フォトグラファー:多田圭佑

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